57.セドリックルート1〜過去から未来3〜
亡くなったセドリックが目を開けると、校舎の玄関前に立っていた。
見覚えのある景色。
そして少し離れた場所には、ピンク色の髪を揺らす少女。
リリア・ナーシアス。
セドリックは息を呑んだ。
「(戻ったのか・・・?)」
傷つけた少女。
信じなかった少女。
追い詰めた少女。
そして最後まで後悔し続けた相手。
今度こそ。
今度こそ守る。
そう誓った。
「お前が何を企んでいるか知らないが、僕達は絶対にカテリーナを裏切らない。」
セドリックはライアスを突き飛ばした。
「ッ!何をするんだ!」
「女の子1人に権力者がよってたかっていじめてんじゃねーよ。」
カテリーナ達は目を丸くする。
「セドリック貴方どうしたのよ!貴方だって乙女ゲームのヒロインなんて消えろって言ってたじゃない。」
「気が変わった。」
「はぁ?」
「カテリーナ様よりも可愛いからな。」
「なんですてぇ!」
カテリーナは顔を真っ赤にして怒った。
そして可愛いと言われたリリアも顔を真っ赤にした。
リリアが転校してきたその日から、セドリックは彼女の味方になった。
カテリーナ達にリリアは危険と説得されるが、セドリックは何を言われても変わらなかった。
「リリアは何もしていない!良い子だ!」
セドリックはその言葉を何度も繰り返した。
当然、カテリーナ達は面白くない。
リリアが転校してきて直ぐに嫌がらせはすぐに始まった。
ある日の授業。
リリアは鞄を開いて固まった。
「・・・あれ?」
教科書がない。
何度探してもない。
昨日までは確かにあった。
周囲からクスクスと笑い声が聞こえる。
「なくしたの?」
「だらしないわね。」
「貴族失格じゃない?」
リリアは俯いた。
先生が入ってくる。
「どうしよう・・・。」
その時。
「使え。」
ドサッ。
一冊の教科書が机に置かれた。
リリアが顔を上げる。
そこにはセドリックがいた。
「え?」
「半分ずつ見ればいいだろ。」
当たり前のように言う。
教室が静まり返った。
誰もが驚いていた。
カテリーナ派だと思われていたセドリックがリリアを助けたのだから。
リリアも困惑していた。
「でも・・・。」
「授業始まるぞ。」
セドリックはリリアの席に自分の椅子を持ってきた。
「早く。」
一つの席に二つの椅子。
リリアは戸惑いながら座る。
近い。
顔が近い。
緊張する。
「ありがとう。」
小さな声で言うとセドリックは耳まで赤くなった。
「別に。」
ぶっきらぼうだった。
だが、教科書の端を持つ手は少し震えていた。
別の日の昼休み。
リリアは鞄の中を必死に探していた。
「ない・・・。」
筆箱がない。
授業で使ったあと確かに入れたはずなのに。
机の中。鞄。ロッカー。
どこにもない。
「探し物か?」
振り返るとセドリックだった。
「筆箱が・・・。」
「またか。」
セドリックの顔が険しくなる。
誰がやったか分かっていた。
だが証拠がない。
「探すぞ。」
「え?」
「一人より二人の方が早い。」
そう言ってセドリックは勝手に捜索を始めた。
教室。廊下。中庭。
リリアも後ろを追いかける。
そして十分後。
「これか?」
セドリックが木の上から筆箱を取り出した。
リリアは目を丸くした。
「なんでそんな所に!?」
「投げたんだろ。」
リリアは唇を噛む。
セドリックが筆箱を差し出した。
「ほら。」
「ありがとう……」
リリアの声は少し震えていた。
「なんでそこまでしてくれるの?」
セドリックは答えに詰まった。
前世。
傷つけたから。
信じなかったから。
追い詰めたから。
全て奪ったから。
そんなこと言えるはずがない。
「放っておけないだけだ。」
そう言うのが精一杯だった。
そして剣術の授業の日。
ルイスが木剣を振り上げてリリアへ襲いかかった。
「お前さえいなければ!!」
ガキィィン!!
セドリックが間に入り剣を受け止める。
「そこまでだ。」
「どけ!!」
「どかない。」
セドリックの声は冷たかった。
「リリアに手を出すなら俺が相手になる。誰が相手でもな。」
セドリックはライアスとカテリーナを鋭く睨んだ。
結局その騒動は教師達によって止められた。
だがその日を境に、リリアへの嫌がらせはさらに悪化した。
そして、セドリック自身も標的になった。
「裏切り者!」
「ヒロインの犬!」
「辺境伯のくせに!」
毎日のように罵声を浴びせられた。
物がなくなってもセドリックは気にしなかった。
前世の地獄に比べれば、こんなものは何でもない。
それからさらに一週間後。
机に落書き。
靴隠し。
教科書破り。
毎日その繰り返し。
そしていじめはちょとずつ酷くなる。
リリアは少しずつ笑わなくなっていた。
ある放課後。
誰もいない教室。
リリアは机を拭いていた。
落書きを消していたのだ。
ぽろり。
涙が落ちる。
「なんで・・・私何もしてないのに・・・。」
その時だった。
ガラッ。
教室の扉が開く。
セドリックだった。
リリアは慌てて涙を拭く。
「泣いてない。」
「嘘つけ。」
即答だった。
セドリックは近付く。
そして机を見る。
落書き。
『出ていけ』
『泥棒』
『ヒロイン気取り』
『いなくなれ』
セドリックの拳が震えた。
怒りで。
「リリア。」
「・・・なに?」
セドリックは少しだけ迷った。
だが言った。
「次から一人で帰るな。」
「え?」
「俺が送る。」
「でも・・・。」
「でもじゃない。」
真っ直ぐリリアを見る。
「お前を一人にしない。」
リリアは目を見開いた。
「あいつ等に何かされるかもしれないだろ。」
その言葉が、あまりにも優しかったから。
ぽろぽろと涙が零れた。
「なんでそんなに優しいの・・・。」
セドリックは苦笑した。
「優しくなんかない。」
本当は。
罪滅ぼしだ。
前世のお前に許されたいだけだ。
でもそんな事、絶対言えない。
「ほら帰るぞ。」
「うん・・・。」
リリアは小さく頷いた。
その帰り道。
二人は並んで歩いた。
沈む夕日を見ながら。
セドリックは心の中で誓う。
前世ではリリアをとことん苦しめた。
だから今度こそ、どれだけ憎まれていても。どれだけ嫌われていても。
リリアが幸せになるまで絶対に守り続けると。
リリアが転校してきてから三か月。
嫌がらせは相変わらず続いていた。
昼休み。
いつものように中庭の木陰で2人は昼食を食べていた。
これはもう日課だった。
そして2人で弁当を食べる。
最初は緊張していたリリアも、今では自然と隣に座るようになっていた。
「元気ねぇな。」
セドリックが言う。
「そうかな。」
「そうだ。」
即答だった。
リリアは苦笑する。
「ちょっと疲れてるだけ。」
「嘘つけ。」
セドリックは眉をひそめた。
嫌がらせが酷くなっているのを知っている。
教室で泣きそうな顔をしているのも見ていた。
少し考えたあと。
「今度の休み空いてるか?」
「え?」
「馬で遠出するぞ。」
「は?」
リリアはぽかんとした。
「なんで?」
「気分転換。」
「意味が分からない。」
「分からなくていい。」
こうして強引に約束は決まった。
休日。
リリアは学園近くの馬小屋へ連れてこられていた。
目の前には大きな馬。
「乗れ。」
「無理。」
即答だった。
「私馬に乗ったことない!」
「貴族だろ。」
「平民上がりだから!」
セドリックは吹き出した。
「そうだったな。」
リリアは馬を見上げる。
大きい。怖い。
「絶対落ちる。」
「落ちねぇ。」
「落ちる!」
「落ちねぇ。」
押し問答の末。
セドリックが先に馬へ乗った。
そして手を差し出す。
「ほら。」
「え?」
「掴まれ。」
リリアは恐る恐る手を伸ばす。
次の瞬間、ぐいっと引っ張られた。
「きゃっ!」
気付けば馬の上だった。
「た、高い!」
リリアは青ざめた。
セドリックの後ろに座っている。
地面が遠い。
「怖い!」
「まだ動いてねぇだろ。」
「怖いものは怖い!」
セドリックは呆れたようにため息を吐いた。
「落ちそうなら俺に掴まっとけ。」
「いいの?」
「振り落とされるよりマシだ。」
そして馬が走り出した。
「きゃああああ!!」




