56.ノアルート2〜過去から未来2〜
休日。
二人は王都の中心部へ遊びに来ていた。
「わぁ!」
リリアは目を輝かせる。
「見てノア!」
「綺麗な髪飾り!」
リリアは髪飾りを髪につけて見る。
「似合うよ。」
「え?」
顔を真っ赤にするリリア。
ノアも照れる。
その後二人は露店を回り。
焼き菓子を食べ。
魔道具を眺め。
リリアは初めての学園の外の王都を、友達のノアと楽しんだのであった。
帰り道だった。
「お嬢ちゃん可愛いねぇ。」
柄の悪い男達が現れた。
「俺達と遊ばない?」
リリアの顔が青くなる。
「お断りします。」
「は?」
男達の顔が険しくなった。
その時、ノアが前へ出た。
「嫌がっています。」
男達が笑う。
「なんだ坊ちゃん。」
ノアは怖かった。
震えていた。
それでも下がらない。
今度は守ると決めたから。
「帰ってください。」
すると男が突然、ノアの胸ぐらを掴んだ。
「ぐっ!」
身体が浮く。
息が苦しい。
「ノア!」
リリアが悲鳴を上げる。
男は拳を振り上げた。
「生意気なんだよ!」
リリアの顔が真っ青になる。
「やめてッ!!」
だが拳は止まらない。
その瞬間。
ドゴォッ!!
男が吹き飛んだ。
見回り中の騎士が男を殴りつけたのだった。
男達はあっという間に捕まる。
その場に崩れ落ちるノア。
リリアが駆け寄る。
「大丈夫!?」
涙を流しながら。
「怖かった・・・!」
ノアは苦笑する。
「でもリリアを守れた。正確には守ったもは騎士の人だけど。」
「馬鹿。」
「え?」
「ノアが怪我したら嫌だよ。」
リリアはノアを抱きしめた。
ノアの心臓が大きく跳ねた。
その日から。
リリアは少しずつノアを意識し始めた。
放課後。
人気のない校舎裏。
ノアは地面に倒れていた。
制服は泥だらけ。
頬は腫れ。
唇は切れ。
腹を蹴られた痛みでまともに呼吸もできない。
「裏切り者。」
「ヒロインの犬。」
「気持ち悪いんだよ。」
数人の男子生徒が吐き捨てる。
最後に腹を蹴られ。
ノアは地面を転がった。
「もうあの女に関わるなよ。」
「次はもっと酷いぞ。」
彼らは去っていった。
しばらくして、小さな足音が聞こえた。
「ノア!?」
リリアだった。
ノアの顔を見た瞬間。
リリアの顔が真っ青になる。
「な、何これ・・・!」
震える手で傷だらけのノアに触れる。
「誰にやられたの!?」
ノアは苦笑した。
「大したことないよ。」
「大したことあるでしょう!?」
リリアの声が震える。
「血が出てる!」
ぽろりとリリアの目から涙が落ちた。
「ごめんなさい・・・。」
ノアは目を見開く。
「え?」
「私のせいだ・・・。」
リリアは泣いていた。
「私といるから。」
涙が止まらない。
「私と話すから。」
肩が震える。
「私なんかと仲良くするから・・・。」
ノアは黙って聞いていた。
「もう私に構わないで。」
リリアは泣きながら言う。
「お願い、これ以上傷つかないで。私なんて放っておいて。」
前世で自分達が追い詰めた時。
リリアはもっと一人だった。
もっと苦しかった。
もっと泣いていたはずなのに。
誰も助けなかった。
今世でもそんな目に合わせたくない。
ノアはゆっくり立ち上がる。
痛みでふらつく。
それでも笑った。
「イヤだよ。」
リリアが顔を上げる。
「え?」
ノアは笑う。
前世では絶対にできなかった笑顔で。
「イヤだって言っても構う。」
「なんで・・・?」
「だって。」
ノアは少しだけ照れた。
「僕、君が好きなんだ。」
リリアが固まる。
「・・・え?」
「好きだから。」
「え?」
「放っておけない。」
「え?」
頭が追いついていない。
ノアは苦笑した。
「そんな顔しなくても。」
「い、いや、だって!」
リリアの顔が一気に真っ赤になる。
「だって好きって!」
「好きだよ。」
即答だった。
「前から。」
本当は前世であの夢を見た時から。
だがそれは言えない。
「君が笑うと嬉しい。君が泣くと苦しい。君が傷つくと腹が立つ。だから守りたい。」
リリアは言葉を失った。
こんな風に、まっすぐ好意を向けられたことなどなかった。
「でも・・・。」
リリアが俯く。
「また殴られるかもしれない。」
「そうだね。」
「怖くないの?」
ノアは少し考えた。
そして笑う。
「怖いよ。」
「え?」
「めちゃくちゃ怖い。」
リリアが目を丸くする。
「痛いし。」
「じゃあなんで!」
ノアは優しく言った。
「リリアが一人になる方が嫌だから。」
リリアの瞳から涙が溢れた。
ノアはそっと頭を撫でる。
「だから、もう二度と放っておかない。」
ノアは真剣だった。
「何が何でも君の味方になる。」
リリアは泣きながら笑った。
「馬鹿・・・。」
「うん。」
「大馬鹿・・・。」
「知ってる。」
リリアはノアの服を掴んだ。
「じゃあ・・・・私もノアを一人にしない。絶対に。」
ノアの肩の頭をそっと置いた。
「ノアが好きだから。」
その言葉にノアは泣きそうになるのを必死に堪えた。
前世では傷つけて悲しませて追い詰めた少女。
けれど今世は違う。
今度こそ。
今度こそリリアを守り抜こうと、ノアは心に誓った。
しばらくして。
ノアはずっと考えていた提案を口にした。
「リリア。」
「うん?」
「僕と一緒に帝国の学園へ行かない?」
「帝国?」
「そう。」
リリアは戸惑う。
「でも私なんか・・・。」
ノアは笑った。
「大丈夫。」
「僕、結構コネがあるんだ。」
「君一人くらい何とかなる。」
そしてノアはリリアの手を真剣に握った。
「僕はリリアのためなら何だってできる。」
リリアの瞳に涙が浮かぶ。
「・・・私。」
声が震える。
「もうここにいたくない。」
ぽろぽろと涙が零れた。
「ノアと一緒に帝国へ行きたい。」
ノアは優しくリリアを抱きしめた。
「うん。」
「一緒に行こう。」
それから数日後。
二人は正式に帝国の学園へ転校した。
王国の学園とは違った。
誰もリリアを見て怯えない。
誰も「乙女ゲーム」などと言わない。
誰も敵意を向けない。
ただ一人の生徒として扱われる。
その当たり前が、リリアには眩しかった。
「ノア!」
ある日、リリアは嬉しそうに駆け寄ってきた。
「見て!」
手には満点の試験用紙。
ノアは笑った。
「すごいね。」
「えへへ。」
リリアは照れながら笑う。
その笑顔を見るたびに、ノアは胸が痛くなった。
前の人生では、この笑顔を自分達が奪ったのだから。
卒業後。
ノアは大商会の跡取りとして本格的に働き始めた。
だが前世とは違う。
今のノアには未来の知識がある。
どの事業が成功するのか。
どの国が発展するのか。
ある程度知っていた。
そして何より隣にはリリアがいた。
「この魔道具どう思う?」
「改良できると思う。」
「どこを?」
「ここ。」
リリアが設計図へ書き込む。
ノアは苦笑した。
「やっぱり天才だね。」
「普通よ。」
「いや、普通じゃない。」
リリアの発明。
ノアの商才。
二つが組み合わさった結果。
商会は爆発的に成長した。
王都。
港町。
辺境都市。
次々と支店が増えていく。
やがて帝国中に名前が広がった。
【ナーシアス=エヴァンス商会】
誰もが知る大商会だった。
やがて二人は結婚した。
派手な式ではなかった。
親しい人達だけを呼んだ小さな式。
だがリリアは人生で一番幸せそうに笑っていた。
さらに数年後。
二人の間には娘が生まれた。
ピンク色の髪と目の女の子。
ノアは娘を抱きながら言う。
「絶対幸せにする。」
「うん。」
リリアも頷いた。
「絶対この子もリリアも守り抜くよ。」
その光景を遠くから見ていた元ヒロインは盛大にため息を吐いた。
「何が『リリアのためなら何でもできる』だ。何が『絶対この子もリリアも守り抜くよ』だ。」
ぺっと唾を吐く真似をする。
「バーカ。」
だが口元は少しだけ笑っていた。
元ヒロインは静かに、自分の世界へ帰っていった。




