55.ノアルート〜過去から未来1〜
三年後――。
最初に亡くなったのはノアだった。
次にセドリック。
アルベルト。
そして最後にルイス。
4人は最後まで労働現場で働き続けた。
まるで自分達の罪を償うように。
まるで誰かに許される日を待つように。
毎日飛んでくる石。
浴びせられる罵声。
泥を投げられることもあった。
汚物を投げられることもあった。
集団で殴られたり、蹴られたりすることもあった。
だが4人は反抗しなかった。
ただ黙って働き続けた。
『これくらい当然だ。』
『俺達がやったことに比べれば軽い。』
そんな言葉を口にしながら。
身体はどんどん壊れていった。
心も限界が近かった。
それでも止まらなかった。
そして最期を迎えた時。
不思議なことに4人の顔は穏やかだったという。
まるで長い悪夢から解放されたように。
ノアが目を開ける。
眩しい朝日。
聞き覚えのある生徒たちの声。
見慣れた校舎の玄関前。
「・・・・・・ここは?」
ノアは息を呑んだ。
目の前には――。
鮮やかなピンク色の髪を揺らす少女。
リリア・ナーシアス。
学園へ転校してきた日のリリアだった。
そして隣には。
ライアス。カテリーナ。セドリック。アルベルト。ルイス。
全員が揃っている。
まるで時間が巻き戻ったかのように。
ノアは理解した。
「(戻ったんだ・・・あの日だ・・・)」
リリアの不幸の始まりの日。
自分達が復讐される要因の始まりの日
「(ありがとう!元ヒロイン様!約束を守ってくれて!)」
ノアは喜びのあまり泣きそうになった。
その時だった。
ライアスが一歩前へ出る。
当時と同じように。
「お前がリリア・ナーシアスか。本当にピンクの髪と瞳なんだな、なんで乙女ゲームの私はこんな女に攻略されたんだろうな。」
敵意を隠さない声。
リリアは戸惑ったような顔をしている。
カテリーナはライアスの反応に喜ぶ。
その後続いてルイス、アルベルト、セドリックがリリアに敵意をぶつける。
当時と同じ。
何も知らない少女。
何もしていない少女。
リリアは困惑していた。
「ちょっと待ってください!」
ノアはリリアを守るようにカテリーナ達に向き合う。
カテリーナ達は目を丸くする。
「ノア?」
ライアスが眉をひそめる。
ルイスは睨み。
セドリックもアルベルトも驚いている。
そして一番驚いているのがカテリーナだった。
だがノアは構わなかった。
リリアのを背後に守るように立つ。
「僕は実際に見て、彼女は無害だと思います!」
沈黙。
全員が固まる。
「はぁ?」
ルイスが怪訝な顔をした。
「何言ってるの?貴方だって賛同してたじゃない!」
カテリーナが声をヒステリック気味に声上げる。
「こんな人たち放っておいて行こう!」
ノアはそう言ってリリアの手を掴む。
「え?」
リリアが目を白黒させる。
「えっ?ちょっ!?な、何ですか!?」
完全に混乱していた。
ノアはそのまま校舎へ向かって歩き出す。
「大丈夫だから!」
「全然大丈夫じゃないです!」
リリアが慌ててついてくる。
後ろでは。
「ちょっと待ちなさい!」
「ノア!?」
「何やってるんだ!」
カテリーナ達が叫んでいた。
だがノアは無視した。
校舎の中へ入る。
ようやく人目の少ない廊下まで来たところで立ち止まった。
リリアは肩で息をしている。
「何だったんですか今の!?」
「ごめん。」
ノアは苦笑した。
「でもあの人達に近付かない方がいい。」
「え?」
「色々これから君の身に起きると思う。」
リリアはますます困惑した。
「何の話ですか?」
ノアは答えない。
代わりに真っ直ぐに彼女を見る。
自分達がたくさん泣かした少女。
自分達がたくさん傷つけた少女。
「でも安心して。」
優しく笑う。
「僕は君の味方だから。」
「はぁ?」
リリアは理解できなかった。
当然だ、説明したところで乙女ゲームの話など意味不明だろう。
だがノアは本気だった。
ノアは誰がなんと言おうとリリアの味方でいようとした。
そして予想通り。
リリアへの嫌がらせは直ぐに始まった。
陰口。無視。根拠のない噂。教科書隠し。机への落書き。
前世と全く同じ。
違うのは、ノアという味方がいることだった。
教科書がなくなれば一緒に探した。
見つからなけばリリアに教科書を貸したりした。
一緒に机の落書きを消したりした。
陰口を言われれば笑い飛ばした。
泣きそうになれば隣にいた。
だからリリアは壊れなかった。
当然ノアも標的になった。
裏切り者。
ヒロイン派。
変人。
好き放題言われた。
だがノアは気にしなかった。
むしろ笑っていた。
それが逆に周囲を不気味がらせた。
ある日の放課後。
中庭のベンチ。
リリアがぽつりと呟く。
「ねぇ、ノア。」
「どうしたの?」
「私、なんでみんなに嫌われてるのかな。」
ノアは表情を曇らせた。
「私、何かした?乙女ゲームとか言われても意味分からないし。みんな怖い。」
ノアは優しく頭を撫でる。
「分からなくていいよ。」
「え?」
「あいつらの方がおかしいんだ。」
リリアは驚いたように目を見開いた。
「だから気にしちゃだめだよ。」
それ以上、何も教えてくれないノアにリリアは肩をすくめるしかなかった。




