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全てを奪われたヒロインは転生悪女に復讐する  作者: 鈴木べにこ


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51.消えた未来4〜元王太子3〜


 それから季節が流れる。


 ライアスはもっとリリアを好きになったていた。


 常リリアを探すようになった。


 姿が見えないと気になる。


 笑っていると安心する。


 落ち込んでいると心配になる。


 気付けば目で追っていた。



 ある日の放課後。



 夕焼けに染まる中庭。


 ベンチに座るリリア。


 その横へライアスが腰を下ろす。


 しばらく無言。


 風が吹く。



「ライアス様。」


「何だ。」


「私、不安なんです。」


「何がだ?」


「頑張って努力はしてますけど、私、平民出身ですから。」



 リリアは俯いた。



「皆さん優しいですけど・・・たまに思うんです。」



 リリアの目には涙が浮かんでいた。



「本当にここにいていいのかなって。」



 ライアスは静かに彼女を見た。


 そしてそっと手を握る。


 リリアが驚いて顔を上げた。



「ライアス様?」


「関係ない。」


「え?」


「平民だろうが貴族だろうが関係ない。」



 真っ直ぐに告げる。



「お前は努力している。優しい。頭もいい。それで十分だ。」



 リリアの瞳が揺れた。


 そして少しだけ泣きそうな顔で笑った。



「ありがとうございます。」



 その笑顔を見た瞬間。


 ライアスは改めて確信した。


 自分はこの少女が大好きだと。



 そして。


 卒業が近付いた春の日。


 王城の庭園。


 満開の花々が咲き誇る中。


 ライアスはリリアを呼び出した。


 夕日に照らされた庭園は幻想的で。


 リリアは少し緊張した様子で立っている。



「ライアス様?」


「リリア。」



 ライアスは真っ直ぐ彼女を見つめた。


 王太子としてではない。


 一人の男として。


 ずっと胸の中に抱えていた想いを伝えるために。



「図書館で会った時は変わった奴だと思った。」



 リリアが少しむっとする。



「変わった奴とは失礼です。」



 ライアスは思わず笑った。



「そういうところも好きだ。」



 リリアの顔が真っ赤になる。



「ら、ライアス様!?」


「お前といると楽しい。お前と話していると安心する。お前が笑っていると嬉しい。」



 一つ一つ、噛み締めるように言葉を紡ぐ。



「気付けば、いつもお前を探していた。」



 リリアの瞳に涙が浮かぶ。


 ライアスはそっと彼女の手を取った。



「リリア。」



 優しく呼ぶ。



「俺と婚約してくれ。」



 風が吹く。


 花びらが舞う。


 リリアは目を見開いたまま固まっていた。


 信じられないというように。


 何度も瞬きを繰り返す。


 そして、ぽろりと涙が零れた。



「・・・はい。」



 震える声。



「はい!」



 今度ははっきりと。


 涙を流しながら頷く。



「喜んでお受けします。」



 ライアスは安堵したように息を吐いた。


 そして心の底から笑った。


 リリアも泣きながら笑う。


 夕日に照らされた二人は。


 誰よりも幸せそうだった。




 婚約発表は王国中に大きな衝撃を与えた。


 王太子ライアスの婚約者。


 その座に選ばれたのは、大貴族の令嬢でも王族の姫でもない。


 平民から男爵となったナーシアス家の娘。


 リリア・ナーシアスだったからだ。



 当然、反発はあった。


「王太子妃に相応しくない。」

「血筋が低すぎる。」

「前例がない。」

「国の威厳に関わる。」



 そんな声が貴族社会には溢れた。


 特に古い価値観を持つ上級貴族達は露骨だった。


 パーティーでは陰口を叩かれ。


 茶会では遠回しに嫌味を言われ。


 王城でも冷たい視線を向けられることがあった。




 ある日。


 婚約者として初めて出席した晩餐会。


 リリアは緊張しながらライアスの隣を歩いていた。


 すると一人の老貴族が言った。



「王太子殿下。」


「何だ。」


「婚約者選びは慎重になさるべきでしたな。」



 周囲が静まり返る。


 明らかな嫌味だった。


 リリアは俯きそうになる。


 だがライアスが先に口を開いた。



「慎重に選んだ結果がリリアだ。」



 はっきりとした声。



「彼女以上に相応しい女性を俺は知らない。」



 老貴族が固まる。



「ですが身分が――」


「身分だけで国が豊かになるなら苦労はしない。」



 ライアスは一歩も引かなかった。


「彼女の価値は俺が保証する。」



 その言葉に。


 リリアは思わずライアスを見上げた。



 その夜。


 帰りの馬車の中。



「ありがとう。」



 リリアは小さく呟く。


 ライアスは肩を竦めた。



「事実を言っただけだ。」


「でも嬉しかった。」


「そうか。」



 リリアはそっと笑った。


 この人を信じていい。


 そう思えた。



 それから数年。


 リリアは努力を続けた。


 誰よりも勉強した。誰よりも働いた。誰よりも結果を出した。



 農業改革。魔道具開発。治水計画。教育支援



 リリアが関わる政策は次々に成果を上げた。


 飢饉は減り。


 税収は安定し。


 平民達の生活は豊かになる。


 最初は批判していた貴族達も次第に黙った。


 そして、いつしか誰もが認めざるを得なくなった。


「あの方は本物だ。」


 と。



 やがて盛大な結婚式が行われた。


 王都中が祝福に包まれる。


 花びらが舞う。


 歓声が響く。


 純白のドレスを纏ったリリアは美しかった。


 ライアスは目を離せなかった。



「綺麗だ。」



 思わず漏れた言葉。


 リリアは真っ赤になる。



「ななな、何言ってるんですか!」


「本当のことだ。」


「もう。」



 困ったように笑う。


 その顔を見て。


 ライアスも自然と笑った。




 そして数年後。


 二人の間に第一王子が生まれた。


 金色の髪。


 青い瞳。


 元気いっぱいの男の子だった。



「ライアス!」



 ある日。


 執務室の扉が勢いよく開く。


 リリアが飛び込んできた。


 その腕には幼い王子。



「大変!」


「何だ。」


「この子が壁に落書きした!怒られちゃう!」



 ライアスは眉を上げた。



「ほう。」


「ほうじゃないよ!しかも玉座の間なんだから!」


「怒れるな、俺たちが。」


「でしょう!」



 完全にフランクな口調だった。


 結婚してから数年。


 リリアはすっかり変わった。


 最初は。


『ライアス様。』


『殿下。』


 そう呼んでいた。


 だが今では。



「ライアス。」


 

 それが当たり前になっていた。


 ライアスもそれを好ましく思っていた。



「父親に似たんでしょうね!」


「絶対違う。」



 即答だった。



「どう考えても君だろう。」


「違うって!」


「俺は壁に落書きしなかった。」


「私はしたことあるけど・・・。」



 沈黙。



「君だな。」


「うっ。」



 リリアが固まる。


 ライアスは吹き出した。



「笑わないで!」


「無理だ。」



 息子も一緒になって笑う。


 穏やかな時間だった。



 夜。


 息子が眠った後。


 二人はバルコニーに出る。


 王都の夜景が広がっていた。


 リリアがライアスの肩にもたれかかる。



「疲れた。」


「お疲れ様。」


「褒めて。」


「よく頑張った。」


「もっと。」



 ライアスは苦笑する。



「王国一の王妃だ。」



 リリアが嬉しそうに笑う。



「知ってる。」


「自分で言うな。」


「だってライアスが言ったじゃない。」



 そう言って楽しそうに笑った。


 ライアスは思う。


 王国を支えているのは。


 自分だけではない。


 この女性がいるから。


 隣で笑ってくれるから。


 今の幸せがある。


 ライアスはそっとリリアの肩を抱いた。



「愛してる。」



 リリアは少しだけ目を丸くする。


 そして。


 照れながら笑った。



「私も。」



 二人の前には。


 まだまだ長い未来が続いていた。


 でもこれは夢だった。


 ずっとここにいたいと思った。


 カテリーナではなくリリアを選んでいた場合の未来だった。




 目を開ける。


 まだ夜だった。


 ライアスの頬に涙が伝っていた。



 「あの4人はリリアとのーー夢を見たのか・・・・。」



 自分が4人からの理不尽な暴力に合った理由が分かった。


 仕方ないとも思った。今の状況は自分がカテリーナを信じて止めなかったことが原因の一つなのだから・・・。


 その時だった。



「元気ないじゃーん?」



 声。


 壁際に、元ヒロインが立っていた。


 当然のように、そこにいる。


 ライアスは息を呑む。



「・・・見てたのか。」



 元ヒロインは肩をすくめる。



「まぁね。」



 少し間を置いて、軽く問いかける。



「過去に戻りたい?」



 ライアスはしばらく黙っていた。


 夢の残滓がまだ胸の中にある。


 だが、ゆっくりと首を横に振った。



「いいや。」



 声はかすれていた。



「俺には・・・ライアンがいる」



 視線が、隣で眠る小さな息子へ向かう。



「俺の全ては、ここにある。」



 一度、息を吐く。



「だから・・・過去には戻らない。」



 元ヒロインは少しだけ目を細めた。



「そう。」



 それだけだった。


 否定もしない。評価もしない。


 ただ、静かに受け取る。


 ライアスはふと顔を上げた。



「ただ、頼みがある」



 元ヒロインが首を傾げる。



「なに?」



 ライアスは一拍置いてから言った。



「リリア、さんに・・・会わせてくれないか。」



 空気が一瞬だけ止まる。


 元ヒロインの目が細くなる。



「なんで?」



 ライアスは答えない。


 代わりに、頭を深く下げて言葉を絞り出した。



「頼む・・・最初で最後のお願いだ。」



 声が震えている。


 それでも引かなかった。



「お願いだ。」



 元ヒロインはしばらく黙っていた。


 やがて、小さく息を吐く。



「・・・いいよ。」



 ライアスの目がわずかに揺れる。


 元ヒロインは続ける。



「また呼ぶから。いつになるか分からないけど。」



 それだけ言って、壁の影に溶けるように消える。


 ライアスは再び深く頭を下げた。



「ありがとう。」



 宿舎には静けさだけが残る。


 だがその静けさは、以前よりもずっと重く感じた。

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