49.小さな希望〜攻略対象5〜
父を守ろうとするライアン。
ルイスが眉をひそめた。
「邪魔だよ。」
感情のまま手を振る。
「ライアン!」
ライアンの身体が宙に浮いた。
「きゃっ――」
地面へ叩きつけられる。
その瞬間、黒い影が現れた。
ひょい。
「危ない危ない。」
ライアンの身体を受け止めたのは、元ヒロインだった。
「ふぅ。」
ライアンを抱えながら笑う。
「子供にまで当たるとか最低だね。」
4人の目が元ヒロインに向く。
元ヒロインはニカッと笑った。
「ヤッホー!」
場違いなほど明るい声。
だがその目だけは笑っていない。
「皆さん。」
ライアンを地面に降ろす。
「ちょっと話しようか。」
沈黙。
誰も動かない。
誰も喋らない。
元ヒロインの声は、さっきまでの空気を遊ぶような軽さのままだった。
「あはっ!闇魔法の私の影響なのかもね~。見ちゃったみたいだね・・・それぞれのハッピーエンド。」
アルベルトが目を見開く。
「じゃあ、やっぱりあの夢は・・・。」
元ヒロインは肩をすくめる。
「未来の可能性。」
ルイスが震える。
「やっぱり・・・やっぱり本当にあったんだ・・・!」
4人は拳を握って歯を食いしばる。
だがその顔には、喜びではなく未来への可能性を失った“悔しさと後悔”があった。
もう戻れないものを見せられた者の顔だった。
ライアスだけが、状況を理解できずにいた。
「・・・何の話だ?」
誰も答えない。
元ヒロインはライアスを一瞬だけ見て、すぐに視線を外す。
「うん、そのうち君にもわかるよ。」
軽く笑ってから、会話を続ける。
「そして私は、4人に話がある。」
ノアが顔を上げる。
「何ですか。」
元ヒロインは楽しそうに指を立てた。
「過去に戻れるとしたら、どうする?」
一瞬の静寂。
セドリックが前のめりになる。
「戻れるのか?」
「タダで戻れるわけないじゃーん!」
即答だった。
「ちゃんと罪を償って、リリアが許してくれたらね。」
その言葉に、空気が一気に変わる。
ルイスが食い気味に言う。
「それ、本当ですね!」
アルベルトも続く。
「つまり・・・ここで償えばいいんだな?」
セドリックの目が鋭くなる。
「俺はやるぜ!」
ノアも即答だった。
「僕もです。約束ですからね?」
「ああ、リリアが許したらね・・・。」
元ヒロインは含みのある笑みで笑った。
4人はもう元ヒロインを疑っていなかった。
いや、信じるしかなかった。
でなければ、今すぐにでも壊れそうだったから。
それぞれが背を向け、労働現場へ戻っていく。
重い土の匂いの中へ。
「まるでリリアに惚れたみたいじゃーん!いじめてた癖にぃ!まぁ本来のリリアは明るくて可愛い美少女だからね、カテリーナさんがいなかったらモテモテだったんだよなぁ・・・日々の労働で傷ついてる時にそんな美少女に愛される夢を見たら劇薬だよねぇ!ある意味残酷じゃなーい?頑張れ!頑張れ!」
元ヒロインはニヤニヤ笑う。
残されたライアスは、ライアンを抱きしめたまま呆然としていた。
「・・・何の話なんだ。」
腕の中の小さな体が、彼の服を握る。
元ヒロインはその様子を見て、小さく息を吐く。
「そのうちわかるさ。」
そして少しだけ目を細めた。
「リリアの怒りが収まる日なんて・・・来るのかなぁ。」
軽い声なのに、どこか遠い。
「一生来ないかも。」
そして、ふと思い出したようにライアスを見る。
「特別サービス。」
ぱちん、と指を鳴らした。
次の瞬間。
ライアスとライアンの体に残っていた傷が、一瞬で消える。
痣も、痛みも、何もかも。
ライアスは目を見開く。
「・・・え?」
元ヒロインはにこっと笑った。
「まだまだ君には罪を償ってもらわないと。元気な身体でね。」
その言葉がライアスには妙に優しく感じた。




