48.仲間割れ〜攻略対象4〜
労働現場の片隅。
金属を叩く音。
土を掘る音。
監督役の怒鳴り声。
そんな騒がしい空間の中で――それは突然起きた。
「ぐっ!?」
ライアスは状況を理解する前に腹を殴られていた。
鈍い衝撃が全身を貫く。
息が詰まる。
アルベルト、セドリック、ノア、ルイスが冷たい目で見下ろしていた。
前かがみになった瞬間、今度は頬に拳が飛んだ。
視界が揺れる。
地面に倒れ込み、砂が口の中へ入る。
「な、何を・・・!」
ライアスは震える声で呟く。
だが返事はなかった。
代わりに、重苦しい怒りだけが降り注ぐ。
最初に口を開いたのはセドリックだった。
かつて辺境騎士団長として名を馳せた男。
今は汚れた作業着を着ている。
「カテリーナが一番悪い。」
低い声だった。
「それは分かってる。」
一歩。
また一歩。
ライアスへ近づく。
「だがな。」
その目は怒りに燃えていた。
「一番最初に婚約破棄だの何だの騒ぎ出したのは、お前だったよな。」
ライアスの顔が青ざめる。
「それは・・・違う・・・僕はーー」
最後まで言わせてもらえなかった。
ドゴッ!
拳が頬に叩き込まれる。
ライアスは地面を転がった。
アルベルトが前へ出る。
元次期魔塔主。
天才と呼ばれた男。
その目には後悔しかなかった。
「お前が乙女ゲームなんて信じずにカテリーナを止めていれば。」
静かな声。
だが恐ろしいほど重い。
「ここまで壊れなかったに。」
ライアスは言葉を失う。
「そうすれば。」
アルベルトの拳が震える。
「あの未来も・・・あったんだ!」
ドゴッ!
拳が腹にめり込む。
ライアスの身体がくの字に曲がった。
胃液が込み上げる。
ルイスは静かにライアスを見据えていた。
姉を盲目に信じていた自分を嫌悪していた。
そして目だけが壊れていた。
「・・・あの未来が。」
ぽつり。
「あるはずだったのに。」
一歩。
また一歩。
「全部。全部だ。全部ぶち壊しやがって。」
拳を握る。
「クソ姉がもっと、もっと早く破滅してれいばよかったんだ!」
バキッ!
拳がライアスの鼻を捉える。
血が飛んだ。
ノアは歯を食いしばっていた。
肩が震えている。怒りか。悲しみか。その両方だった。
「僕の商会は。僕の人生は。僕の家族は。」
声が掠れる。
「あったんだ。」
涙が滲んでいた。
「確かにあったんだ。」
そして怒鳴る。
「返せよ!!」
拳がライアスの顔に入る。
既にボロボロなライアスは受け身も取れず地面へ転がった。
4人は荒い息を吐いていた。
誰も止めない。
誰も止められない。
それほどまでに、夢で見た未来は甘かった。
幸せだった。
暖かかった。
だからこそ。
失った痛みも大きかった。
ライアスは地面に倒れたまま呟く。
「何の・・・話だ・・・。」
本当に分からなかった。
何故殴られているのか。
何故仲間だった彼らに憎まれているのか。
その時だった。
「おとーさま!」
小さな声が響く。
ライアンだった。
幼い少年が必死に走ってくる。
転びそうになりながら。
泣きそうな顔で。
「おとーさまをいじめないで!」
ライアスの前に立ちはだかる。
小さな身体を広げて。
父を守ろうとする。




