表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全てを奪われたヒロインは転生悪女に復讐する  作者: 鈴木べにこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/73

47.消えた未来2〜攻略対象3〜

セドリック。


 その夜。


 疲れ果てた身体を横たえながら、彼はいつの間にか眠りへ落ちていた。


 労働が始まってからというもの、夢などほとんど見なかった。


 見たとしても悪夢ばかりだった。


 泣いているリリア。


 加害に加担する自分。


 そんなものばかりだった。


 だがその日の夢は違った。




 夢の中で。


 セドリックは騎士団長ではなく、辺境伯になっていた。


 広大な領地。整備された街道。豊かな畑。笑顔で暮らす領民達。


 かつて自分が理想としていた領地そのものだった。


 そして、その隣にはリリアがいた。

 


「セドリック!」



 元気な声。


 振り返る。


 ピンク色の髪を風になびかせながら、リリアが駆けてくる。


 満面の笑顔だった。


 その笑顔を見ただけで胸が温かくなる。


 夢の中のセドリックにとって、それは当たり前の感覚だった。



「また勝手なことしてないだろうな。」


「失礼ね。」

 


 リリアは胸を張る。



「ちゃんと許可を取ってるわ。」


「何のだ。」


「水路の拡張。」


「・・・何だって?」



 嫌な予感しかしない。


 案の定だった。


 リリアは嬉しそうに地図を広げる。


 そこには新しい灌漑(かんがい)計画がびっしり書かれていた。



「この辺りの畑、収穫量が少ないでしょう?」


「そうだな。」


「だから水路を広げるの。」


「簡単に言うな。」


「でも成功したら収穫量二倍!」



 目を輝かせるリリア。


 セドリックは頭を抱える。


 だが、本気で止めようとは思わない。


 なぜなら、リリアが考えることは大体成功するからだ。



「お前、本当に無茶するな。」


「えへへ。」


「褒めてない。」


「知ってる。」



 そう言って笑うリリア。


 その姿が愛おしい。


 夢の中の自分は知っていた。


 リリアがどれだけ努力家か。


 どれだけ領地のために頑張っているか。


 誰よりも知っていた。


 だから、彼女を誇りに思っていた。


 そして彼女を誰よりも愛おしく想っていた。



 やがて二人は結婚していた。


 幸せだった。


 朝起きればリリアがいる。


 食事をすれば隣にいる。


 執務を終えれば迎えに来る。


 夜になれば笑い合う。



 ある日。


 執務室で仕事をしていると。


 後ろからふわりと抱き付かれた。 



「疲れてる?」

 


 リリアだった。



「少しな。」



 するとリリアは背中に額をくっつける。



「頑張りすぎ。」


「誰のせいだと思ってる。」


「私?」


「お前だ。」



 リリアが笑う。


 その笑い声が好きだった。


 守りたいと思った。


 一生。ずっと。その笑顔を。



 そして数年後。


 二人の間には三人の子供がいた。


 みんな元気だった。



「父上ー!!」



 泥だらけになりながら駆けてくる。



「また汚してきたのか。」


「楽しかった!」


「そうか。」



 怒ろうとしても結局怒れない。


 子供達はリリアによく似ていた。


 明るくて。元気で。好奇心旺盛で。


 そして、リリアも一緒になって泥だらけだった。


 

「お前もか。」


「だって楽しかったの!」


「母親だろうが。」


「えへへ。」

 


 全く反省していない。


 セドリックはため息を吐く。


 だが口元は笑っていた。



 夕暮れ。


 家族全員で丘へ向かう。


 辺境の大地が一望できる場所。


 黄金色の畑。綺麗な川。豊かな街。


 守り抜いた領地。

 

 そして、守り抜いた家族。


 リリアが隣へ座り肩を寄せる。



「ねぇ。」


「何だ。」


「幸せ?」  



 セドリックは即答した。



「ああ。」



 迷いなく。


 心の底から。



「お前がいるからな。」



 リリアが真っ赤になる。



「ずるい。」


「何がだ。」


「急にそういうこと言う。」


「事実だ。」

 


 リリアは照れながら笑った。


 子供達の笑い声が聞こえる。


 風が吹く。平和だった。穏やかだった。


 これ以上望むものは何もなかった。


 その時、セドリックは理解した。


 これはただの夢ではない。


 本来なら自分が手に入れていたかもしれない未来だ。


 守るべきだった未来。


 リリアの味方になって守っていれば、こんな未来もあったのかもしれない。



 そして夢は終わる。



 目を開ける。


 薄汚れた労働者の宿舎。硬い寝床。冷たい空気。


 隣には誰もいない。リリアはいない。子供達もいない。笑顔もない。幸せもない。


 あるのは、後悔だけ。


 セドリックは天井を見つめた。


 夢の中のリリアの笑顔が離れない。


 本当に。


 幸せそうだった。


 だが、その笑顔を壊したのは自分だった。


 だから失った。


 セドリックは目を閉じる。



「俺は・・・。」



 掠れた声が漏れる。



「守るべきものを・・・。」



 拳が震える。



「間違えた。」



 誰も答えない。 


 そして朝が来るまでセドリックは眠ることができなかった。


 自分の選択を悔やみ、二度と手に入らない未来を思いながら。






 ノア。


 その夜。


 ノアは久しぶりに夢を見た。


 それは労働現場の悪夢ではなかった。


 誰かに殴られる夢でも。


 罵倒される夢でも。


 リリアが泣く夢でもなかった。




 夢の中で。


 ノアは大陸最大の商会長になっていた。


 王国。帝国。共和国。海を越えた異国。


 どの国にも支店がある。


 誰もがその名を知る大商会。


 エヴァンス商会。


 その頂点に立つのがノアだった。



 巨大な執務室。


 壁一面に世界地図が広がっている。


 物流網。航路。商路。契約先。取引先。


 全てが記されていた。


 だが、ノアは地図を見ていなかった。



「ノアーーー!」



 勢いよく扉が開く。


 聞き慣れた声。 


 リリアだった。


 ピンク色の髪を揺らしながら走ってくる。


 両手には大量の資料。


 顔は満面の笑み。


 夢の中のノアは自然と笑った。



「また何か思いついたの?」


「うん!」



 リリアは机いっぱいに資料を広げる。

 


「ここ!」



 指差したのは新しい商路だった。



「この流れ悪いから変えよう。」


「根拠は?」


「経験。」



 即答だった。


 ノアは苦笑する。


 だが、それだけで十分だった。


 なぜならリリアの勘は外れない。


 夢の中のノアは知っていた。


 彼女がどれだけ優秀か、どれだけ努力家か、どれだけ未来を切り開いてきたか。


 誰よりも知っていた。



「分かった。」


「信じるの?」


「君だからね。」



 リリアが嬉しそうに笑う。


 その笑顔を見るだけで。


 ノアの疲れが吹き飛ぶ。



 夢の中のノアは。


 そんな毎日を送っていた。


 仕事をして。


 リリアと笑って。


 一緒に商会を大きくして。  


 夜になると二人で帰る。


 当たり前のように。



 ある日の帰り道。


 王国の夜景が広がっていた。


 リリアが隣を歩いている。

  


「ねぇ。」


「何?」


「今日も楽しかった!」


「仕事なのに?」


「ノアと一緒だから。」



 ノアは思わず立ち止まる。


 リリアは首を傾げた。



「どうしたの?」


「反則だよ。」


「何が?」


「可愛すぎる。」



 リリアの顔が一瞬で真っ赤になった。



「ばっ・・・!いきなり何言うの!?」


「本当のこと。」



 ノアは笑う。


 リリアは顔を隠す。


 そんな姿すら可愛かった。



 やがて二人は結婚した。


 盛大な結婚式だった。


 商会関係者。貴族。王族。帝国の重鎮。


 大勢の人間が祝福する。


 だが、ノアの視線は一人しか見ていなかった。


 花嫁姿のリリア。


 世界で一番綺麗だった。


 誓いの言葉を交わした時。


 リリアは泣いていた。幸せそうに。嬉しそうに。


 その姿を見て。


 ノアは心から思った。


 この人を愛して良かった。


 この人を、本当に・・・。



 そして数年後。


 二人の間には息子が生まれていた。


 ピンク色の髪。


 ノアによく似た優しい紺色の瞳。


 元気いっぱいの男の子だった。

 


「お父さん!」



 執務室へ飛び込んでくる。



「どうした?」


「ぼくも商人になる!」



 息子は胸を張った。


 ノアは笑う。

 


「そうなんだ。」


「うん!」



 すると後ろからリリアが現れる。



「絶対なれるよ。」


「うん!絶対なる!」


「だってノアに似てるもの。」


「リリアじゃない?」


「私?」



 二人は笑う。


 息子も笑う。

 

 本当に。


 幸せだった。



 ある日の夜。


 仕事を終えたノアは屋上へ向かう。


 そこにはリリアがいた。 


 夜景を眺めている。

 


「こんなところにいた。」


「少し考え事。」  



 ノアは隣へ立つ。


 リリアが自然に肩へ寄り掛かる。


 それが当たり前だった。


 夫婦だから。家族だから。



「ねぇノア。」


「うん。」


「幸せ?」



 ノアは笑った。


 迷う理由がない。



「ああ。」



 即答だった。



「君がいるから。」



 リリアが照れながら笑う。



「私も。」



 その一言だけで十分だった。


 世界中の富より。


 どんな商会より。


 価値があった。


 その時、ノアは理解する。


 この商会は完成している。


 物流網。技術。家族。未来。


 全てが繋がっている。


 そして中心には、リリアがいる。


 リリアを信じたからこそ、この未来は存在している。


 夢ではない。


 本来なら自分が掴めたかもしれない未来。



 そして。


 夢は終わる。


 目を開ける。


 冷たい寝床。薄暗い小屋。硬い床。


 現実だった。

 

 隣にリリアはいない。息子もいない。商会もない。笑顔もない。幸せもない。


 あるのは、労働と後悔だけ。


 ノアは天井を見つめた。


 夢の中のリリアの笑顔が離れない。


 自分を愛してくれた瞳。


 幸せそうな明るい声。


 温かな家族。


 全部。


 本当に存在していた気がした。


 だが、自分が壊した。


 カテリーナを信じたから。


 自分が傷付けた。


 だから失った。


 ノアは震える手で顔を覆う。



「僕は・・・。」



 声が震える。



「未来の流通だけじゃない・・・。」



 涙が零れた。



「未来の家族も・・・。」



 喉が詰まる。



「全部・・・壊したのか・・・。」



 ただ悔しくて悲しかった。


 その夜のノアは、朝が来るまで泣き続けた。


 二度と手に入らない未来を思いながら。







 4人が目を開けると現実があった。


 朝の光の中。


 4は同じ結論に辿り着いていた。


 4人は自然と同い場所に集まっていた。


 夢の中のリリアは“理想”ではない。


 そこには必ず「子供」がいた。


 それは象徴ではない。


 “未来の証明”だった。


 だが現実には存在しない。


 誰もその未来を選ばなかったからだ。


 理由は一つ。


 カテリーナだ。



「・・・全部、あの時からだったな。」



 セドリックが答える。


 初めて会った時の校舎の玄関前にいたリリアを思い出す。



「止められたはずだった。乙女ゲームなんか信じなかったら。」



 アルベルトが唇を噛み締める


 そして最後に、四人の心の奥で同じ名前が沈む。



「カテリーナ・・・。」



 ノアは忌々しそうにその名を呟く。


 それはもう人の名ではない。


 失われた未来の、原因の名だった。



「あと、ライアスのせいだ。」



 ルイスの目は新たな敵を見つけた目をしていた。



「婚約者のあいつがクソ姉を止めないから!」



 そして4人は歩き出す。


 ライアスの元へ向かって。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ