44.悪役令嬢の行き着く先〜悪役令嬢6〜
帝国へ送られてから、まだ一ヶ月。
過酷な労働に民衆は疲弊していたが、それでも大半の者は必死に働いていた。
働かなければ食事が減る。
反抗すれば鞭が飛ぶ。
それを理解していたからだ。
だが――カテリーナだけは違った。
「ふざけないでよ!!」
朝から怒鳴り声が響く。
レンガ運びをしていた女性達が顔をしかめた。
「王太子妃だった私にこんな仕事をさせるなんてどうかしてるわ!」
監督役の兵士が冷たく言う。
「全員同じ労働者だ。」
「私は違うわ!!」
カテリーナは地面にレンガを叩きつけた。
「私は王太子妃よ!!」
周囲の空気が凍る。
そして次の瞬間。
女性労働者の一人が吐き捨てた。
「まだ言ってる。」
「え?」
「アンタのせいで私達ここにいるんでしょ。」
カテリーナの顔が引きつる。
「私のせいじゃないわ!」
「またそれ?」
別の女性も口を開く。
「全部リリア様のせい。」
「全部攻略対象のせい。」
「全部弟のせい。」
「全部周りのせい。」
「自分は悪くない。」
周囲から失笑が漏れた。
カテリーナの顔が真っ赤になる。
「黙りなさい!!」
「図星だから怒るんでしょ。乙女ゲームおバカさん。」
女性からのまさかの言葉に、言葉を無くすカテリーナ。
「なっ・・・!」
「リリア様から全部奪っておいて被害者面するなっての。」
その時だった、カテリーナの理性が切れた。
「うるさいっ!!」
バチン!!
女性の頬を思い切り叩いた。
悲鳴が上がる。
しかし次の瞬間、周囲の労働者達が立ち上がった。
「何すんだ!!」
「また暴力かよ!!」
「最低だな!!」
「リリア様にも同じ事したんじゃない?」
「乙女ゲームバカはいなくなれ!」
カテリーナは怒鳴り返す。
「私を責めるなぁぁぁ!!悪いのはあの女よ!!リリアが生まれてこなければ!!」
その瞬間、全員の顔色が変わった。
全員冷たい目を向ける。
監督役の兵士達ですら冷たい目を向けている。
そして監督役の兵士は手元のボードに何かを書いていた。
その目は処理をするよな目だった。
その日の夕方。
カテリーナは監督本部へ連行された。
ライアスとルイスが家族として呼び出される。
「何があったんですか?」
ライアスが尋ねる。
兵士は淡々と答えた。
「労働者への暴行。反抗。作業妨害。複数回の警告無視。」
ルイスの顔が青ざめた。
嫌な予感がする。
兵士は書類を机に置いた。
「規則に従い処分が決定した。」
カテリーナが叫ぶ。
「待ちなさいよ!!私は悪くない!!向こうが先に――」
兵士は遮った。
「黙れ。」
その一言で静まり返る。
そして、兵士は冷たく告げた。
「カテリーナ・ルヴェルハイト。娼館送りが決定した。」
ライアスとルイスの顔色が変わった。
「なっ・・・。」
ライアスがよろめく。
「ま、待ってください!」
ルイスも叫ぶ。
「お願いです!それだけはっ!」
だが兵士は首を振る。
「帝国法だ。労働拒否、暴行、再三の反抗。規定通りの処分。」
カテリーナは理解できなかった。
ぽかんと口を開く。
「嘘・・・よね?」
誰も答えない。
「嘘よね!?」
声が震える。
「私が!?この私が!?そんな場所に行くわけないじゃない!!」
兵士達が近づく。
カテリーナは後ずさった。
「嫌!!やめて!!助けてライアス!!」
夫へ手を伸ばす。
だがライアスは動けない。
動けなかった。
兵士に腕を掴まれた瞬間。
カテリーナは絶叫した。
「助けてぇぇぇぇ!!私は悪くないの!!悪いのはリリアよ!!全部あの女のせいなの!!」
誰も返事をしない。
誰も信じない。
ただ冷たい視線だけが向けられていた。
「離せぇええええ!リリア出てこい!絶対殺してやるー!!」
引きづられながら呪いの言葉を吐くカテリーナ。
そしてルイスは、遠ざかる姉の背中を見ながら呟いた。
「・・・姉上は最後まで。」
呆れと失望の混ざった声だった。
「最後まで、自分は悪くないんだな。」
その言葉に。
ライアスは何も言えず、ただ連れて行かれる妻を見ているしかできなかった。




