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全てを奪われたヒロインは転生悪女に復讐する  作者: 鈴木べにこ


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41.怒りの矛先3〜元次期魔塔主〜

アルベルト。


 労働が辛いわけではなかった。


 殴られるのも。罵倒されるのも。もう慣れていた。


 本当に辛いのは。


 父から目の敵にされる事だった。



 グランツ・シルヴァニア


 王国魔塔主。


 かつて誰よりもアルベルトを愛し。


 誰よりも期待していた男。


 その父が今では、リリアの狂信者になっていた。



 ある日の昼休憩。


 外でアルベルトが粗末なパンを食べていると。


 周囲がざわついた。



「魔塔主様だ。」


「グランツ様だ。」



 人々が道を開ける。


 グランツが現れた。


 その胸には小さなペンダントが下がっていた。


 リリアの肖像画だった。


 アルベルトは目を見開く。



「父上・・・それは・・・。」


「リリア様だ。」



 即答だった。


 グランツの目は恍惚としていた。



「美しいだろう。我々を導くお方だ。」



 アルベルトは言葉を失った。


 グランツは続ける。



「リリア様は被害者だった。誰よりも苦しんだ。それでも生き抜いた。」

 


 グランツはニヤリと笑った。



「闇の力を手に入れて。」



 恍惚とした表情に戻り、ペンダントを撫でる。



「なんと気高い。」



 周囲の魔法使い達も深く頷く。



「リリア様万歳!」

「リリア様のおかげで真実が明らかになった!」

「我々は目を覚ましたのだ!闇の力こそ最強の魔法だと!」



 アルベルトは背筋が寒くなる。


 まるで宗教だった。


 そしてグランツの視線がアルベルトに向く。



「お前は。」

 


 冷たい声。

  


「そのリリア様を苦しめた。」

 


 アルベルトは俯く。



「父上・・・。」


「私をそう呼ぶな!!」



 グランツは怒鳴った。


 周囲が静まる。



「お前のような人間が私の息子であるはずがない!」



 アルベルトの肩が震えた。


 グランツはさらに続ける。

 


「リリア様が泣いていた時、お前は何をしていた!」


「・・・・・。」


「リリア様が学園を追放された時。お前は何をしていた。」


「・・・・・。」


「答えろ!」



 アルベルトは何も言えない。


 答えを知っているからだ。


 加担して追い詰めていた。


 加害者側にいた。 


 グランツは吐き捨てる。



「情けない。恥だ。汚点だ。私の人生最大の失敗作だ。」



 周囲の魔法使い達も頷く。

   


「こいつのせいで我々は魔法が使えなくなった!」

「リリア様を傷付けた男ですからね!」

「生きているだけで有り難いと思え!」



 誰も味方しない。


 グランツは最後に。


 胸元のリリアの肖像画を優しく撫でた。


 まるで宝物のように。


 そしてアルベルトを見る。


 その目には親子の情など欠片も残っていなかった。



「リリア様がお前を許さなくても当然だ。私がお前を許さないのだから。」



 そう言い残して去っていく。


 アルベルトはその場に立ち尽くした。


 父に憎まれている。


 それだけでも辛い。


 だが、父が他人を神のように崇め。


 その相手と比べて自分を否定する。


 その事実が何よりもアルベルトの心を削っていった。


 グランツ達が去った後。


 アルベルトはその場から動けなかった。


 父の言葉が頭から離れない。


 失敗作。汚点。恥。


 昔、父は自分を誇りだと言っていた。


 次期魔塔主。王国最高の才能。


 そう言ってくれていた。


 それなのに今は違う。


 アルベルトは休憩時間が終わるまで動けないでいたのだった。





 別の日。



「おい。」



 突然肩を掴まれた。


 振り返る。


 そこには数人の魔塔の魔法使いだった者達。


 ただし魔法は使えないが・・・。


 かつてアルベルトに頭を下げていた男達だった。


 だが、今は違う。


 目の中にあるのは憎しみだけだった。



「随分と偉そうにグランツ様を父上と呼んでいたな!リリア様を傷つけた分際で!」



 アルベルトは男達を睨む。



「父上を父上と呼んで何がーー」



 言い終わる前だった。


 拳が飛んだ。


 頬に激痛。


 視界が揺れる。


 地面に倒れ込む。



「ぐっ・・・!」



 男は吐き捨てた。



「そう言えばお前、リリア様に謝ったのか?」



 アルベルトは答えられない。


 すると腹を蹴られた。


 息が出来なかった。



「元ヒロイン様にも謝ったのか?」



 さらに蹴りが入る。



「何もしてないよなぁ?」



 笑い声。


 周囲には人がいる。


 だが誰も止めない。


 皆見ているだけ。


 中には頷いている者までいた。




「リリア様の苦しみに比べれば安い!」

「もっとやれ!」



 そんな声すら聞こえる。


 アルベルトは立ち上がろうとする。


 だが背中を踏み付けられた。



「うっ・・・!」



 地面に顔が押し付けられる。


 砂が口に入る。


 その時だった。


 重い足音。


 グランツだった。


 魔法使い達が慌てて頭を下げる。



「グランツ様。」



 アルベルトは少しだけ期待した。


 父なら、父だけは止めてくれるかもしれない。


 そう思った。


 だが、グランツは無言で近付く。


 そして倒れているアルベルトを見下ろした。


 冷たい目。親が子を見る目ではない。


 罪人を見る目だった。



「立て。」



 アルベルトは震えながら立ち上がる。


 次の瞬間。


 バチィッ!!


 強烈な平手打ち。


 アルベルトの身体が横へ吹き飛んだ。


 周囲が静まる。


 グランツは怒りで震えていた。



「その顔を見るだけで腹が立つ!リリア様を怒らせ!私から魔法を奪ったのだからな!」



 アルベルトは耳鳴りの中で父を見る。



「父上・・・・・。」



 もう一発、頬を殴られた。


 

「私をそう呼ぶな!お前などあの時さっさと処刑すべきだったのだ!」



 怒鳴り声が響く。



「リリア様がどれだけ苦しんだと思っている!元ヒロイン様がどれだけリリア様を大切に想っているのか分かっているのか!お前達が人生を壊したんだぞ!」



 アルベルトは何も言えない。


 グランツは胸倉を掴む。



「お前が私の息子であることが恥だ。お前が実の息子であることを後悔している。」



 アルベルトの瞳が揺れる。


 父だけは、父だけは、どこかでまだ自分を愛してくれているとそう思っていたから。


 グランツはアルベルトを突き飛ばした。



「二度と私を父と呼ぶな。視界にも入るな。」



 そう言って去っていく。


 魔法使い達も後に続いた。


 だが去り際、一人が吐き捨てる。



「リリア様は優しい、だから生かされている。感謝しろよ。」



 笑い声が遠ざかる。


 アルベルトは地面に座り込んだ。


 身体が痛い。


 顔も腫れている。


 だが、それ以上に心が痛かった。


 父はもう、自分の父ではない。


 リリアを崇拝する狂信者で。


 自分を憎む男になってしまった。


 その事実をアルベルトはようやく受け入れた。


 そして誰もいなくなった休憩所で。


 声を押し殺しながら。


 一人泣き続けた。


 その後も労働でも涙を流しながら働く姿に、周囲の人々の目は冷たかった。



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