39.怒りの矛先1〜元王太子〜
帝国の領土の一部であるアルバルガ地方に送られて一ヶ月。
最初の頃は民衆に怒りがあった。
反発もあった。
自分達は悪くない。
全部が自分達の責任ではない。
そう思っていた。
だが、そんな考えは日に日に削られていった。
なぜなら。
民衆の怒りが彼ら6人に向かったからだ。
民衆は彼等を絶対に許さなかった。
ライアス。
かつて王太子だった男は採石場で石を運んでいた。
朝から晩まで、重い石を担ぎ。運び。積み上げる。
それが今の彼だった。
だが、身体の痛みより辛いものがあった。
人々の視線だ。
「あいつだ。」
「元王太子だ。近づくな。」
「リリア嬢を危険人物扱いしてた奴。」
「証拠もないのにな。」
ライアスの足が止まる。
聞き慣れた言葉だった。
ここ一ヶ月ずっと。似たような事を言われ続けている。
『リリアに近付くな。』
『奴は危険な女だ。』
『皆も警戒しろ。』
それは昔。
ライアス自身が口にしていた言葉だった。
カテリーナから聞いた話を信じた。
乙女ゲーム。
未来の破滅。
ヒロイン。
最初は半信半疑だった。
いつしか自分も信じるようになった。
そして周囲にも言った。
リリアは危険だと。気を付けろと。近付くなと。
結果、学園中に噂が広がった。
誰もがリリアに警戒した。
陰口が始まった。孤立が始まった。嫌がらせが始まった。いじめが始まった。
そしてライアスは、それを見て安心していた。
『これでカテリーナは大丈夫だ。』
そう思っていた。
今思えば最低だったと自分でも思う。
昼休憩。
ライアスが一人でパンを食べていると。
近くの男達が話していた。
「聞いたことあるか?」
「何を?」
「あいつさ。」
男がライアスを指差した。
「王太子の権力使って一人の娘を危険人物して追い詰めたんだと。」
「うわ。」
「しかも何の証拠も無し。乙女ゲームが未来でどうのこうのらしいぜ?」
「どうのこうのってなんだよ。」
「とにかくその乙女ゲームってのでおかしくなったらしい。」
「何それ、意味わんねー。」
「最悪じゃねぇか。」
笑い声が起きる。
男達がライアスを見る。
「おいお前、今なら分かるよな。」
「お前がやったことは集団リンチの先導役だ。」
ライアスは俯いた。
否定できなかった。
実際、カテリーナに言われて最初に声を上げたのは自分だった。
王太子が警戒している。
そう知られれば周囲も警戒する。
その影響力を理解していたはずなのに。
権力を使った。
リリアを追い詰めるために。
男達の視線に耐えきれなくったライアスは、別の場所へと逃げるしかなかった。
夜。
宿舎に帰る途中。
突然、何かが飛んできた。
ゴッ。
石だった。
額から血が流れる。
振り返る。
若い男が2人立っていた。
「お前さ。」
男は睨み付ける。
「リリア嬢が危険だって言いふらしてたんだろ。」
「・・・・。」
「何もしてない人間を。皆で追い詰めて楽しかったか?」
ライアスは答えない。
答えられない。
すると別の男が言った。
「俺なら耐えられねぇよ。何十人にも嫌われて。何百人にも噂されて。王太子に危険人物扱いされるなんてな。普通なら壊れる。」
ライアスの胸が締め付けられる。
壊れたのだ。
実際。
リリアは壊れた。壊れたように笑っていた。
表情も知っているモノではなかった。
学園の生徒の時のリリア泣いていた。苦しんでいた。
結果、無害だったのに危険人物だと言い続けた。
カテリーナの乙女ゲームを信じて。
「お前息子がいるらしいな。」
「こんな親がいるなんて可哀想な子どもだな。」
「こいつに似て最低な人間に育つんだろうな!」
親のせいで息子まで悪く言われるのは、悔しくて拳を握りしめるしかできなかった。
「チッ!もう行こうぜ!頭がおかしいのが移る。」
「そうだな。」
男2人は立ち去った。
残されたライアスは俯く。
「・・・・・すまない。」
誰に対してなのか何に対してなのか、小さく呟く。
それは誰にも届かない。
届くはずがない。
謝罪が許される段階など。
とっくに過ぎているから。
翌朝。
ライアスは再び石を運ぶ。
かつて人々に警戒を呼びかけた男は。
今度は人々から警戒され。
軽蔑され。嫌悪される側になっていた。
そして元王太子ライアスは今日も石を運ぶ。
自分が広めた悪意の重さを。
背負い続けるように。




