37.衝撃の出会い〜帝王〜
帝王ルシウスは、あの日のことを思い出していた。
ピンク色の髪と瞳を持つ美しい少女が。
アルバルガ国王の首を片手に、自らの寝室へ現れた日のことを。
アルバルガは強国だった。
ルシウスですら迂闊に手を出せず、長年膠着状態が続いていた相手。
そのアルバルガ国王を、目の前の少女はたった一人で討ち取ってみせたのだ。
しかも、現れた帝王の寝室は帝国内で最も警備が厳しい場所。
幾重もの結界。精鋭騎士。魔術師による監視。それら全てを突破して現れた。
その時点で理解した。
強い。
異常なほどに。
下手に戦えば、自分も無事では済まないかもしれない。
ルシウスの額に冷や汗が流れる。
少女は血の付いた首を無造作に床へ転がすと、静かに口を開いた。
「この国で一番偉いのは貴方?」
透き通るような声だった。
だがその瞳は冷たい。
少女は右手を前へ突き出した。
すると。
どろり、と。
黒い液体のような何かが手のひらから溢れ出す。
それは生き物のように蠢きながらルシウスへ向かって伸びてきた。
本能が叫ぶ。
危険だ、と。
ルシウスは思わず叫んだ。
「待ってくれ!」
黒いものがぴたりと止まる。
少女が怪訝そうに眉をひそめた。
「・・・何?」
ルシウスは即答した。
「惚れた!」
沈黙。
少女の眉間に深い皺が刻まれる。
「・・・は?」
「だから惚れた!」
ルシウスは力強く頷いた。
「一目惚れだ!結婚してくれ!」
「・・・・・。」
長い沈黙。
少女は心底呆れたような顔になった。
「貴方、馬鹿なの?」
その後の出来事は色々あった。
だが結局ルシウスは本人の意思などお構いなしに、城中にいる人々に向かって宣言した。
「紹介しよう!未来の帝国皇后だ!」
当然、大騒ぎになった。
特に反発したのは当時の魔塔主だった。
金髪の美女は激怒しながら玉座の間へ乗り込んできた。
「絶対認めないわ!」
彼女はリリアを指差した。
「帝王様の隣は私のものだもの!勝負なさい!」
その尊大な態度を見た瞬間。
リリアの脳裏にある女の顔が浮かんだ。
――カテリーナ。
嫌な記憶が蘇り、少し腹が立った。
「いいわ。」
リリアは静かに答えた。
周囲がざわめく。
だが次の瞬間、さらに大きなどよめきが起きた。
リリアの身体が光に包まれたのだ。
そして、一人だった少女が二人になった。
「なっ・・・!?」
「分身!?」
「いや違う・・・!」
玉座の間が騒然となる。
現れたもう一人の少女。
それはリリアと同じ顔をしていた。
だが雰囲気と髪と目の色は正反対。
楽しそうな笑み。底知れない闇。
元ヒロインだった。
リリアは面倒そうに言う。
「とことん怖がらせてあげて。」
「了解ぃ~。」
元ヒロインは嬉しそうに笑った。
そして、魔塔主へ向かって手を伸ばす。
漆黒の霧が溢れ出した。
瞬く間に魔塔主を包み込む。
「ぎゃあああああああ!!」
悲鳴が響く。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
魔塔主は必死に魔法を放つ。
炎。雷。氷。
帝国最高峰の魔術。
だが霧は消えない。
圧倒的だった。あまりにも力の差が大きすぎた。
やがて悲鳴が止む。
数分後。
霧がゆっくり晴れていく。
そこに魔塔主は床に倒れ、白目を剥いて気絶していた。
元ヒロインは満面の笑みで言う。
「じゃあ今日からリリアと私が魔塔主ってことで~。」
誰も反論しなかった。
いや。できなかった。
その場にいた全員が理解してしまったからだ。
帝国最強だった魔塔主が、一方的に敗北したことを。
ルシウスは当時を思い出しながら微笑む。
「良い思い出だ。」
しみじみと呟く。
ベッドではリリアが静かな寝息を立てている。
異世界を彷徨う長い夢の中。
ルシウスはそっと彼女の髪を撫でた。
「リリア。」
優しく名を呼ぶ。
「我が花嫁。」
そして小さく笑う。
「せめて夢の中では、幸せでいておくれ。」
窓の外では帝国の旗が風に揺れていた。




