35.10日後〜元ヒロイン6〜
『お迎えにあがりました~!』
明るく弾んだ声が、国中に響き渡った。
次の瞬間、民衆の視界が白く染まる。
「なっ――!?」
「きゃあああっ!」
そして目を開けた時。
そこにあったのは見慣れた場所ではなかった。
どこまでも続く荒れ果てた大地。
草木もまばらな荒野。
遠くには崩れた城壁の残骸が見える。
見知らぬ土地だった。
数十万人の民衆が呆然と立ち尽くす。
「ここ・・・どこだ?」
「家がない!」
「王都は!?」
混乱する人々の前に、ふわりと元ヒロインが現れた。
相変わらず楽しそうな笑顔だった。
「ようこそ皆様~!」
両手を広げる。
「ここは最近帝国が征服したアルバルガ地方でございまーす!」
民衆達がざわめく。
「アルバルガ・・・?」
「確か戦争で滅んだ土地じゃ・・・。」
元ヒロインは満足そうに頷いた。
「そうそう!だから何もないんだよね~!私が滅ぼしたから!」
その言葉に全員の顔が青ざめる。
元ヒロインは笑顔のまま続けた。
「皆様にはここを開拓してもらいます!」
バンッ!!
巨大な地図が空中に浮かび上がる。
「畑を作って~!道路を作って~!家を建てて~!最終的には街を作ってくださーい!」
民衆は言葉を失った。
「む、無理だろ。」
「そんな不毛な地を最初から・・・。」
「どうやって・・・。」
その瞬間だった。
全員の服が光に包まれる。
「え?」
貴族達の豪華な衣装が消える。
商人達の高価な服も消える。
平民達の服も変わる。
全員が同じだった。
白い作業服。丈夫な長ズボン。動きやすい靴。
身分を示すものは何一つ残らなかった。
「なっ!?」
「私のドレスが!」
「宝石が!」
悲鳴が上がる。
元ヒロインは楽しそうに拍手した。
「いや~、平等って素晴らしいねぇ!」
そして指を鳴らした。
ドンッ。
ドンッ。
ドンッ。
100人の男達が現れる。
全員が帝国軍の軍服を着ていた。
鋭い目。鍛えられた身体。腰には鞭。
民衆が震え上がる。
「この方々が監督でーす!」
元ヒロインは紹介する。
「監督の言うことはちゃんと聞いてね!」
「聞かなかったら・・・どうなるのですか?」
誰かが震える声で尋ねた。
元ヒロインはにっこり笑った。
「む・ち・う・ち!」
投げキッスをする。
その答えに空気が凍った。
「子供達はレンガ作りね~!力仕事じゃないから安心安心!」
全く安心できない。
泣き出す母親達が現れる。
「女性は労働が終わった後に炊事や洗濯、お茶汲みとかのサポート業務でーす!男は開拓と建築と力仕事がメインかな!」
元ヒロインの笑みが少しだけ深くなった。
「サボってもシンプルに鞭打ちだから頑張ってね~。」
一拍置く。
「それでも抵抗するなら――」
にっこり。
「娼館送りか処刑だからねん!」
一瞬、誰も言葉を理解できなかった。
だが、理解した瞬間。
「ひっ!」
「いや!」
「嘘だろ・・・。」
絶望が広がる。
女性達は顔を真っ青にし。
男達は震え。
子供達は泣き出した。
元ヒロインはそんな様子を見て肩をすくめる。
「安心してよ~。真面目に働く人には関係ない話だから。」
その言葉に誰も安心できなかった。
監督達が前に出る。
鞭を鳴らす音が響く。
パァンッ!!
民衆の肩が跳ねた。
「整列!!」
怒号が飛ぶ。
「今から班分けを行う!!」
慌てて並ぶ人々。
誰も逆らえない。
逆らった先に待つものを知ってしまったから。
元ヒロインは空を見上げた。
そして楽しそうに笑う。
「さぁ皆さん。十日前までの生活は忘れてください。ここからが新しい人生ですよ~!」
その言葉を聞きながら。
民衆は、自分達が本当に全てを失ったのだと理解するのだった。




