34.報いは無垢な者に〜王太子と王子〜
「ごめんな。ごめんな。俺のせいで・・・。」
ライアスを最も苦しめたのは。
息子ライアンの事だった。
三歳。
まだ何も知らない。
何も理解していない。
ただ父と母が好きなだけの幼い子供だ。
八日目が経った時。
ライアンは乳母に連れられて王都の公園へ出かけた。
楽しそうだった。久しぶりの外出だったからだ。
走る。笑う。転んでまた立ち上がる。
そんな普通の子供だった。
すると、近くに同じくらいの年齢の子供達がいた。
ライアンは嬉しそうに駆け寄る。
「いっしょにあそぶ!」
無邪気な笑顔だった。
だが、子供達の親が慌てて我が子を引き寄せる。
「こっちへ来なさい。」
「関わっちゃ駄目。」
ライアンは立ち止まった。
何が起きたのか分からない。
少し年上の男の子が言った。
「おまえ、わるいやつのこどもだろ。」
「ちがうよ!」
ライアンは即座に否定する。
「とーさま、かーさま、やさしいもん!」
だが男の子は鼻で笑った。
「うそだ。」
「ぼくのおとうさんがいってた。」
「くにをめちゃくちゃにしたんだって。」
周囲の子供達も口々に言う。
「わるいやつー!」
「いっしょにあそばない!」
「かえれ!」
小さな石ころが投げられた。
ライアンの肩に当たる。
痛くはない。
だが、幼い心には十分だった。
ライアンの目に涙が浮かぶ。
「なんで・・・?」
誰も答えない。
また石が飛ぶ。
砂も飛ぶ。
「お前なんかきらい!」
その言葉が何より痛かった。
遠くから見ていた乳母は走ってきて慌ててライアンを抱き上げた。
「ライアン様!」
子供達は逃げていく。
残されたライアンは泣いていた。
「らいあん、なにもしてない・・・。」
ぽろぽろ涙が落ちる。
「なんできらわれるの・・・?」
乳母は返事ができなかった。
その夜。
ライアンは父の部屋を訪れた。
小さな足で歩き。
そっと扉を叩く。
「おとーさま。」
ライアスが振り向いた。
「ライアン?」
息子の目が赤いことに気づく。
「どうした。」
ライアンは俯いた。
そして、震える声で尋ねる。
「らいあん・・・わるいこ?」
ライアスは固まった。
「おともだち、あそんでくれなかった。」
ぽろぽろ涙が落ちる。
「らいあんのこと、きらいなんだって。」
小さな肩が震える。
「とーさま。」
涙声だった。
「らいあん、なにしたの?」
その瞬間、ライアスは言葉を失った。
三歳の子供だ。
何もしていない。罪などない。
それなのに、親の罪だけで傷ついている。
ライアスは震える手で息子を抱き上げた。
「違う。」
声が掠れる。
「ライアンは悪くない。」
「ほんと?」
「ああ。」
ライアンは父の胸に顔を埋めた。
その温もりを感じながら。
ライアスの脳裏には、ただ一人の少女の姿が浮かんでいた。
リリア・ナーシアス。
何もしていなかった少女。
信じてもらえなかった少女。
孤独だった少女。
そして自分達が壊した少女。
あの日のリリアも。
こんな気持ちだったのだと理解したのだった。
「ライアンは悪くない。悪いのは俺だ。ごめんな。ごめんな。ライアン・・・。」
「おとーさま?」
ライアスは小さな身体を抱きしめて、ひたすら謝ることしか出来なかった。
そして十日目が近づく。
王都には絶望が満ちていた。
誰も未来を語らない。
誰も希望を口にしない。
6人は知っていた。
この十日間はまだ前座だと。
本当の報いは――これから始まるのだと。




