32.再会〜ヒロインと元ヒロイン1〜
「さぁさぁ全ての真実が明らかになりましたー!!」
元ヒロインが両手を広げる。
「王太子のライアスくんは私の正体を外してしまいました!ざんねーーーん!!」
民衆はショックで声が出なかった。
「もう皆さん理解できていますよね?」
ニヤリと笑う。
「これはリリア・ナーシアスの復讐です。」
会場内が不安そうにざわつく。
「その復讐の結果、帝国はこの国を賊国と認定することを決定しましたー!」
その瞬間、観客が大混乱に陥った。
「待て待て待て!!」
「復讐相手はそこの6人だけだろ!?」
「王都の連中がやったことだ!」
「地方の俺達には関係ないぞ!!」
「賊国ってどうなるんだ!?」
「戦争か!?」
「奴隷にされるのか!?」
「いやあああああ!!」
悲鳴と怒号が飛び交う。
元ヒロインは楽しそうにその様子を眺めた。
「千人かなぁ。」
ぽつりと呟く。
「うるさいなぁ。」
一本の指を上に動かす。
次の瞬間。
民衆千人分の首元に光の首輪が現れた。
「「「ぎゃあああああああああ!!」」」
千人分の絶叫がコロシアムを揺らした。
元ヒロインが指を下げる。
すると首輪は消え、悲鳴も止んだ。
だが千人分の息遣いだけが響いている。
誰もが青ざめていた。
元ヒロインはにっこり笑った。
「安心してよ。」
その笑顔が逆に恐ろしい。
「帝国は無意味な虐殺なんてしない。戦争をすれば人が死ぬからね。」
肩をすくめる。
「ちなみに戦争の最前線に立つ相手はわ・た・し。」
小さな悲鳴が上がる。
「帝国が欲しいのは国土。そして労働力。」
民衆の顔が引きつる。
「奴隷じゃない。」
元ヒロインは慈愛に満ちた笑みで言った。
「正確には、帝国の管理下で働く忠実な人材なんだ。」
カテリーナが眉をひそめる。
「それ、奴隷と何が違うのよ。」
元ヒロインは彼女を見た。
そして笑う。
「全然違うよ。」
だがその目は冷たい。
「奴隷は使い潰すもの。労働力は維持するもの。帝国は人を壊して捨てたりしない。食事も与える。住む場所も与える。働けば生きていける。」
そこで言葉を切る。
「ただし。」
ぞくり、と誰もが背筋を震わせた。
「自由はないけどねん。」
重い沈黙が落ちた。
元ヒロインは6人へ視線を向ける。
「もっとも。」
笑みが深くなる。
「そういう未来を招いた原因は――」
スクリーンに6人の顔が映し出される。
「君達なんだけどね。」
その瞬間。
会場中から憎悪の視線が6人へ突き刺さった。
「全部お前達のせいじゃないか!!」
「ふざけるな!!」
「俺達まで巻き込むな!!」
「責任取れ!!」
怒号が再びコロシアムを揺らした。
そして6人は、理解する。
自分達が奪ったものの大きさを。
そして、その代償がどれほど巨大だったのかを。
「では皆様。」
元ヒロインが優雅に一礼する。
「十日後に帝国の労働者としてお迎えにあがります。」
コロシアムが凍りつく。
「この十日間で、最後の自由をお楽しみください。」
その言葉が終わった瞬間。
パチン――。
指が鳴らされる。
次の瞬間。
コロシアムを埋め尽くしていた民衆が、一斉に光に包まれた。
「えっ!?」
「待っ――」
「いやあああ!!」
悲鳴と共に人々が消えていく。
貴族も。
平民も。
元生徒達も。
全て。
そして数秒後。
巨大なコロシアムには6人だけが残されていた。
ライアス。
カテリーナ。
ルイス。
ノア。
セドリック。
アルベルト。
6人は警戒するように周囲を見回した。
ライアスが鋭く声を上げる。
「俺達だけ残して何のつもりだ!」
元ヒロインは答えない。
ただ静かに笑っている。
そして、勢いよく両手を打ち鳴らした。
パンッ!!
その瞬間だった。
黒髪がみるみるピンクへと変わっていく。
黒い瞳がピンクへと染まる。
6人の顔から血の気が引いた。
「なっ!」
その姿は。
誰も忘れられない。
五年前に自分達が追い詰めた少女。
リリア・ナーシアス。
そのものだった。
ライアスが掠れた声を漏らす。
「・・・リリア・ナーシアス」
少女は。
いや。
リリアは。
腹を抱えて笑い始めた。
「あはははははははは!!」
笑う。笑う。狂ったように。止まらない。
「あーっははははは!!」
瞳から涙を流しながら笑う。
「ザマァないわねぇ。」
6人を見渡す。
その目には憎悪が宿っていた。
「悪役令嬢。」
カテリーナが震える。
「攻略対象たち。」
ライアス達の顔が強張る。
リリアは唇を吊り上げた。
「今の気分はどう?」
誰も答えられない。
リリアは満足そうに笑った。
「これからを楽しみにしていてね。」
一歩前へ出る。
「お母さんと私が味わった地獄は。」
声が低くなる。
空気が震える。
「こんなものじゃなかったから。」
その言葉に。
6人は息を呑んだ。
リリアの瞳には。
五年間積み重ねた憎しみが燃えていた。
「絶対に忘れさせない。」
静かな声。
「一日たりとも。一瞬たりとも。後悔しない日なんて与えない。」
6人は動けない。
目を逸らすこともできない。
ただ、その憎悪だけを焼き付けられる。
そして、最後にリリアは微笑んだ。
だからこそ恐ろしかった。
「そうだ、ルイス・ヴァレンティア。」
名指しされたルイスはびくりと反応する。
「なんで私が生きてるか疑問に思ってるでしょ。」
「・・・・。」
ルイスは黙るしかできない。
「お母さんがね、私の代わりに客をとってくれたの。私を守る為に。たくさんの客をね・・・。」
リリアは拳を握りしめた。
「そしてボロボロになって伝染病で亡くなった。誰のせいかしらね。」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
ルイスは声をあげて必死に謝る。
「謝られてもお母さんは戻らないしどうでもいいわ。そういえば一度娼館に調査員らしき人が来たけど、伝染病が怖くてまともに確認せずに直ぐに出ていったわよ。どうせ私が死ぬと思ったんでしょうね。いい加減な仕事だこと。」
ルイスは何も言えず下を向くしかできなかった。
リリアは肩をすくめた。
「アンタ達これが地獄の入り口だから、出来るだけ長く、しぶとく生きなさい。」
リリアは真っ直ぐ6人を見た。
「じゃないと、つまらないでしょ?」
リリアはニヤリと笑った。
「じゃあ、また十日後。」
リリアは笑顔で手を振る。
パチン。
指が鳴る。
視界が白く染まる。
気が付けば。
6人はそれぞれ元いた場所へ戻されていた。
だが、誰も安堵はできなかった。
脳裏に焼き付いて離れない。
最後に見た。
リリア・ナーシアスの笑顔。
その意味を知ることになるのだから。




