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全てを奪われたヒロインは転生悪女に復讐する  作者: 鈴木べにこ


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31.正体〜悪役令嬢と攻略対象


 ライアスは続けた。



「俺達は五年間。見たいものだけを見た。信じたいものだけを信じた。都合の悪いものから目を逸らした。」



 苦しそうに語る。



「だから今度は違う。」



 部屋の空気が変わる。


 ライアスは静かに言った。



「俺は。」



 一拍。



「あの元ヒロインはリリアだと思う。」



 カテリーナが首を振る。



「だから証拠は――」


「ない。」



 ライアスはあっさり認めた。



「証拠はない。」



 ノアも頷く。



「ないですね。」



 セドリックも苦笑した。



「ないな。」



 アルベルトも肩をすくめる。



「さっぱり分からん。」



 ルイスも目を閉じる。



「分からない。」



 カテリーナの顔が明るくなる。



「だったら――」



 しかし、ライアスが静かに続けた。



「それでも。俺はあの人がリリアだと答える。」



 カテリーナが固まる。



「な、なんでよ!」



 ライアスは疲れ切った顔で笑った。



「簡単だ。もし本当にリリアだったのに、また俺達が『違う』と決めつけたら。」



 苦笑する。



「俺達は五年前と何も変わってない。」



 部屋が静まり返った。


 誰も否定できなかった。


 ノアが小さく笑う。



「確かに。それは最悪ですね。」



 セドリックも目を閉じる。



「また同じ過ちか。」



 アルベルトは天井を見上げた。



「反吐が出るな。」



 ルイスは静かに呟く。



「もう二度と。本人の言葉を聞かずに決めつけたくない。」



 時計は残り3分を切っていた。


 初めて全員が同じ方向を向き始めていた。


 ただ一人。


 カテリーナを除いて。


 残り時間は、もうほとんど残されていなかった。


 カテリーナだけが必死に首を振る。



「やめて・・・!違うわ!あれはリリアじゃない!リリアな訳ない!乙女ゲームをやってたから分かるの!信じて!」



 嘘をつき続けたカテリーナの言葉を誰も聞かなかった。


 ライアスは静かに立ち上がる。



「決まりだな。」



 その一言でカテリーナの顔から血の気が引いた。



「ライアス・・・。」



 ライアスは振り返らない。



「俺達の答えは一つだ。」



 ルイスも立ち上がる。


 ノアも。


 セドリックも。


 アルベルトも。


 5人が並ぶ。


 そして。


【00:00】



 話し合いの時間が終わる。


 周囲の空間が歪み始めた。


 



 コロシアム。


 数万人の民衆が固唾を飲んで見守る中。


 6人が再び中央へ転送される。


 ざわっ——。


 観客席が揺れた。



「戻ったぞ!」

「どうするんだ!?」

「答えは決まったのか!?」



 元ヒロインがニコニコと笑っていた。



「おかえり~!」



 両手を広げる。



「さぁさぁ!運命の回答タイムだよ!」



 巨大スクリーンに文字が浮かぶ。



【元ヒロインはリリア・ナーシアスか?】



 民衆が息を呑む。


 元ヒロインは楽しそうに笑った。



「それじゃあ代表者!回答をどうぞ!」



 ライアスが前へ出る。


 先程までの王太子らしい威厳は無い。


 あるのは疲労と後悔だけだった。


 それでも。


 彼は真っ直ぐ元ヒロインを見た。



「俺達の答えは——」



 コロシアムが静まり返る。


 誰も息をしない。


 元ヒロインだけが笑っている。


 ライアスはゆっくりと言った。



「貴女は。」



 一拍。



「リリア・ナーシアスだ。」



 その瞬間。


 コロシアム全体が静止した。


 平民達も。貴族達も。元生徒達も。


 誰もが元ヒロインを見る。


 元ヒロインは。


 無言だった。


 笑顔のまま。


 じっとライアスを見つめている。


 数秒。


 十秒。


 誰も動かない。


 異様な沈黙。


 そして——。


 元ヒロインがゆっくり口元を押さえた。



「ぷっ。」



 肩が震える。



「くくっ・・・。」



 笑いを堪えている。


 そして。



「アハハハハハハハハハハハハハハ!!」



 大爆笑した。


 民衆がざわつく。



「な、何だ!?」

「正解なのか!?」

「違うのか!?」



 元ヒロインは腹を抱えて笑い続ける。



「いやぁ!いやいやいや!ライアスくん!」



 目尻の涙を拭う。



「面白すぎるって!」



 ライアスは眉をひそめた。



「・・・何がおかしい。」



 元ヒロインは笑いながら首を振る。



「だってさぁ!五年前なら絶対そう答えなかったでしょ?」



 ライアスの顔が強張る。


 元ヒロインはニヤリと笑った。



「五年前の君達なら。証拠が無い。確証が無い。だから違う。」



 そう言ったはずだ。


 その言葉に。


 男5人が黙り込む。


 反論できない。


 その通りだったからだ。



「でも今回は違ったね。」



 元ヒロインは笑みを深める。



「証拠は無い。確証も無い。それでも。自分達が見てきた事実から答えを出した。」



 満面の笑みを浮かべた。



「成長したじゃん。」



 その言葉に男5人の胸が妙に痛んだ。


 褒められているはずなのに。


 どうしても、遅すぎたという意味にしか聞こえなかった。


 元ヒロインは民衆へ向き直る。



「さて皆さん!」



 パンッと手を叩く。



「運命の判定タイムです!」



 スクリーンが光り始める。


 民衆が総立ちになる。


 誰もが結果を待っていた。


 元ヒロインは楽しそうに笑った。


 そして。



「正解か不正解か——」



 わざとらしく言葉を区切った。


 コロシアム中が息を呑む。


 元ヒロインの口角が、ゆっくりと吊り上がった。



「私は、リリアじゃありませーん!」



 元ヒロインは、にぃっと笑った。


 その言葉に6人の顔色が変わる。



「・・・何?」



 ライアスが掠れた声を漏らした。



「残念でした~!」



 元ヒロインは両手を広げる。



「不正解!」



 その瞬間、コロシアム全体が凍りついた。



「は?」

「嘘だろ?」

「じゃあ誰なんだ!?」



 元ヒロインは楽しそうに笑った。



「私はリリアじゃない。」



 両手を広げた。



「私は――リリアが作り出した“闇の力”そのもの。」



 静寂。


 誰も意味が理解できない。



「リリアはヒロイン。」



 元ヒロインは自分の顔を指差した。



「だから私はヒロインの見た目をしてる。」



 そして大きく両手を広げる。



「でもヒロインじゃない!だから元ヒロイン!」



 観客席がざわつく。


 セドリックが顔を歪めた。



「闇の力だと?」



 声が震える。



「そんなもの禁術だ!どうやって作った!」



 元ヒロインはニヤリと笑った。



「愛の力だよ。」


「は?」


「セドリックくん。」



 真っ直ぐ指を差す。



「身に覚えあるだろ?」



 セドリックの肩が跳ねた。



「あの授業。」



 その瞬間、セドリックは思い出した。


 学園時代。


 魔法実技の授業でペアを組んで互いに魔力を流し合う訓練を。


 元ヒロインは楽しそうに続ける。



「リリアは天才だった。それはもうみんな認めてるよね?」



 誰も否定しない。



「だから考えたんだ。」



 元ヒロインは指を一本立てる。



「魔力を流すんじゃなくて。」



 くるりと指を反転させる。



「吸い取ればどうなるんだろうって。」



 観客席から悲鳴が漏れた。



「ひっ!」

「魔力吸収・・・!」

「そんなこと・・・!」



 ライアスが顔をしかめる。



「待て!そんな事は出来ないはずだ!」


「知ってるでしょ?リリアは天才なんだよ。やろうと思えばなんでもできる!」



 元ヒロインは自慢げだった。



「・・・もし、そんな事ができたとしたら相手は死ぬだろ!俺はそんな事件は聞いた事がない!」



 元ヒロインはケラケラ笑った。



「当たり前だよリリアは天才なんだ!遺体の処理だって簡単にできる!それに安心して?ちゃんと相手は選んでるから・・・。」



 元ヒロインの目はギラギラしてた。



「魔力吸引の相手は、母エミリアに地獄を味合わせた奴等。」



 コロシアムに寒気が走る。


 元ヒロインは淡々と続けた。



「リリアは考えた。お母さんを苦しめ地獄を味合わせた人間は誰か。」



 誰も声を出せない。



「だから復讐したんだ。」



 静かな声だった。



「リリアは美少女だからね。誘い込むのは簡単だった。」



 観客席の誰かが息を呑む。



「誘って。近づいて。触れて。吸い取る。それだけ。」



 パチンと指を鳴らすとスクリーンの映像が変わった。



「そしてミイラの完成。」



 スクリーンに映るのはミイラのように干からびた人だったモノ。


 悲鳴が上がる。



「いやああっ!」

「怖い!!」

「きゃあああああ!!」



 元ヒロインは楽しそうに笑う。



「だから安心して。リリアは無差別にはやってない。」



 その目が冷たくなる。



「狙ったのは娼館のオーナーと客だけだからね。」


「「「ヒィ!」」」



 民衆は小さな悲鳴をあげる。



「そして集まった膨大な魔力。」



 元ヒロインの身体から黒い靄が立ち上る。



「憎しみ。怒り。絶望。復讐心。全部混ざり合って。私が生まれた。」



 観客席が息を呑む。



「私はリリアじゃない。」



 ゆっくりと言う。



「リリアであったものでもない。」



 そして6人を見下ろした。



「私は。リリア・ナーシアスが生み出した闇の力。」



 黒い魔力が渦を巻く。



「リリアではない。」



 その目が細まる。



「だがリリアの全てを知る存在。だから元ヒロイン。」



 ライアス達は言葉を失った。



「さーて。」



 そして元ヒロインは、楽しそうに笑った。



「仕上げと行こうじゃないか。」




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