30.正体〜悪役令嬢と攻略対象3〜
「それじゃあ最後のテーマにいこうか!」
巨大スクリーンに文字が浮かび上がる。
最終テーマ
【わたくし元ヒロインは、リリア・ナーシアスかどうか!】
会場がざわめく。
6人の顔色が変わった。
元ヒロインは楽しそうにくるりと回る。
「ここにいる6人に当てていただきまーす!」
そして満面の笑みで続けた。
「もし正解を当てれば。」
会場が息を呑む。
「帝国はこの国にこれ以上手を出しません!」
ドォッ!!
民衆が爆発した。
「本当か!?」
「絶対当てろ!!」
「頼むぞ!!」
「外すんじゃねぇぞ!!」
貴族も平民も関係ない熱気。
全員が6人へ視線を向ける。
「お前ら絶対当てろよ!!」
「外したら許さないからな!!」
「国の未来がかかってるんだぞ!!」
「死ぬ気で考えろ!!」
怒号が飛ぶ。
6人の顔がさらに青ざめた。
元ヒロインはニヤニヤしながら眺めていた。
「皆様、やる気十分ですねぇ。」
そして両手を広げる。
「制限時間は十分!」
【10:00】
スクリーンに巨大な時計が現れる。
元ヒロインは満面の笑みで叫ぶ。
「それじゃあ話し合いスタート!!」
6人は光に包まれた。
そして次の瞬間――。
別室へと転送されたのだった。
転送された部屋の中は重苦しい沈黙に包まれていた。
誰も口を開かない。
ただ一人を除いて。
「なんでそんな目で私を見るのよ!」
カテリーナが叫んだ。
その声に、ライアスも、ルイスも、アルベルトも、セドリックも、ノアも視線を向ける。
だがその目にあるのは、かつての敬愛ではない。
軽蔑と失望だった。
カテリーナは一歩後ずさる。
「なによ・・・。」
セドリックが吐き捨てるように言った。
「お前が乙女ゲームなんて持ち出さなければ、こんな事にはならなかった。」
冷たい声だった。
「俺達は今や国中の嫌われ者だ。」
カテリーナの顔が歪む。
アルベルトが壁に寄りかかったまま呟く。
「考えれば分かることだったんだよ。」
一度目を閉じる。
「乙女ゲームはヒロイン、リリア・ナーシアスの物語だった。」
アルベルトは自嘲する。
「だったら発明も、功績も、未来の知識も。元々はリリアの物だった可能性を疑うべきだった。」
拳を握る。
「なんで気付かなかったんだろうな。なんで疑問に思わなかったんだろうな。」
後悔しても遅かった。
ルイスが乾いた笑みを浮かべた。
「本当に笑えるよ。」
虚ろな目。
「完璧な存在だと信じていた姉がハリボテでーー」
一拍。
「本当に尊敬すべき相手がリリアだったなんて。」
ルイスも自嘲するように笑う。
「笑える。」
ノアも冷たく言った。
「この女は空っぽだ。」
カテリーナが睨みつける。
だがノアは怯まない。
「所詮、乙女ゲームの中の悪役令嬢のまま。裁かれて当然だ。」
その瞬間。
「私を馬鹿にするなぁぁぁぁぁ!!」
カテリーナが絶叫した。
髪を振り乱しながら叫ぶ。
「お前達が悪いんでしょう!?お前達があの女に惚れて!!私を破滅させようとするから!!」
少女ゲームの話に男達の表情が固まる。
カテリーナは止まらない。
「どのルートも!このルートも!あのルートも!全部そうだったじゃない!!」
涙と怒りで顔を歪める。
「お前達が私の邪魔をするから!!」
狂気じみた目で叫ぶ。
「結局あの女の味方なの!?今さら!?」
王太子妃としての威厳など欠片も残っていなかった。
ただ無様に本性剥き出しの女が喚いているだけだ。
「もう無理なのよ!!」
声が裏返る。
「お前達は私と一緒に!あの女から全部奪ったの!母親も奪った!今度は私達が全部奪われる番なの!!」
部屋に響く叫び。
「あの女と同じようにね!!」
静寂。
誰も反論しなかった。
できなかった。
それだけは事実だったからだ。
自分達は奪った。
未来も。名誉も。居場所も。家族も。
ライアスはゆっくり目を閉じた。
長い沈黙の後、ぽつりと呟く。
「俺が彼女を初めて見た時。」
全員が顔を上げる。
「敵意を向けるんじゃなくて。ただ話を聞けばよかった。」
掠れた声。
「見定めればよかった。調べればよかった。」
苦笑する。
「王太子として当たり前のことを・・・全て手遅れだが。」
静かに呟く。
「やり直したいよ。」
その言葉に誰も返事をしない。返せない。
やり直せるなら誰だってやり直したかった。
カテリーナだけを除いて。
カテリーナは舌打ちした。
「チッ!」
全員が眉をひそめる。
「ほんとムカつく。」
吐き捨てる。
「私ばっかり悪いみたいに。」
カテリーナは最後まで変わらない。
反省もしない。
後悔もしない。
自分が被害者だと思っている。
だからこそ、自分達はここまで堕ちたのだと。
重苦しい沈黙が部屋を支配していた。
誰もカテリーナの言葉に反論しない。
いや、反論する気力すら残っていなかった。
残された時間は少ない。
時計は刻一刻と進む。
ライアスは深く息を吐いた。
そして静かに口を開く。
「・・・話し合いの空気じゃないな。」
カテリーナは未だに苛立った顔をしている。
ルイスは虚ろな目。
ノアは腕を組み。
セドリックとアルベルトも疲れ切った顔をしていた。
そしてライアスは額を押さえた。
「多数決で決めよう。」
その言葉に全員が顔を上げる。
「元ヒロインがリリア・ナーシアス本人だと思う者。挙手。」
静寂。
最初に手を挙げたのはルイスだった。
迷いはなかった。
続いてノア。
セドリック。
アルベルト。
そしてライアス自身も手を挙げる。
5人。
カテリーナだけが手を挙げなかった。
ライアスが確認する。
「5対1か。」
カテリーナが叫ぶ。
「馬鹿じゃないの!?」
立ち上がる。
「あれがリリアな訳ないでしょ!!リリアはもっと弱かった!もっと暗かった!もっと泣き虫だった!」
ノアが冷たく言う。
「アンタの中では五年前のまま止まってるんですね。」
カテリーナが睨みつける。
ノアは続けた。
「人間は変わる。まして人生を壊されれば尚更だ。」
カテリーナは歯ぎしりする。
セドリックも苦々しく呟いた。
「俺達だって変わった。五年前の俺達なら、こんな状況になるなんて想像もしなかった。」
アルベルトが腕を組む。
「正直、本人かどうかは分からねぇ。」
その言葉にカテリーナの顔が少し明るくなる。
だが次の言葉で凍りついた。
「だが、本人じゃないとも言えねぇ。」
ルイスが静かに頷く。
「あの人は知りすぎてる。発明のこと。学園のこと。僕達しか知らない・・・娼館の事。」
拳を握る。
部屋が静まり返る。
ライアスが呟く。
「少なくとも。あの人はリリアに極めて近い存在だ。」
誰も反論できなかった。
カテリーナだけが首を振る。
「違う!だって証拠がないじゃない!本人だって証拠も!別人だって証拠も!」
その言葉に。
珍しくノアが頷いた。
「それはそうですね。」
全員がノアを見る。
ノアは冷静に続けた。
「正直、今の情報だけでは断定できない。本人かもしれない。別人かもしれない。あるいは全く別の存在かもしれない。」
ライアスが目を閉じる。
「つまり。分からない。」
その結論に全員が沈黙した。
結局そこだった。
本人だと思う。だが確証はない。
別人だと思う。だが根拠もない。
カテリーナは必死に言う。
「ほら!分からないじゃない!だったら別人って答えれば――」
「それで外したら?」
ルイスが遮った。
カテリーナの言葉が止まる。
ルイスは疲れ切った顔で時計を見た。
残り
【05:30】
「俺達に残されてるのは、推理じゃなくて賭けだ。」
ライアスは深く息を吐く。
そして静かに言った。
「では次だ。」
全員が顔を上げる。
「本人かどうか。その答えを決める前に。」
一拍。
「俺達は、あの元ヒロインがなぜこんな問題を出したのかを考えるべきだ。」
ライアスの言葉に、全員が黙り込んだ。
「なぜ、こんな問題を出したのか。それを考えなければならない。」
ノアが腕を組む。
「帝国はこの国にこれ以上手を出さないーーその条件が、“元ヒロインがリリアかどうか当てること”。」
眉をひそめた。
「普通に考えればおかしいです。」
セドリックも頷く。
「そうだな。国への圧力を止める条件なら、賠償とか謝罪とかの方が自然だ。」
アルベルトが顔をしかめる。
「なのに本人確認。意味が分からん」。」
ルイスがぼんやりと呟く。
「意味はあります。」
全員がルイスを見る。
「だって、あの人。最初からずっと同じことしか言ってない。」
沈黙。
ライアスの目が見開かれる。
「真実。」
ルイスが頷いた。
「そう。発明の真実。学園での真実。追放の真実。娼館送りの真実。全部そうだ。だから最後も、本人かどうかじゃなくてーー僕達が真実を見るかどうか。」
部屋が静まり返った。
ノアが目を伏せる。
「なるほど。確かにあの人らしい。」
カテリーナが苛立ったように叫ぶ。
「だから何なのよ!」
全員が顔をしかめる。
「真実真実って!そんなのどうでもいいじゃない!」
ライアスがゆっくり顔を上げた。
その目には、かつてカテリーナへ向けていた優しさはなかった。
「どうでもよくないだろ!どうでもよくないからここまで来たんだろ!」
カテリーナが後ずさる。




