29.その後の行方〜悪役令嬢と攻略対象2〜
次の瞬間、元ヒロインは声を張り上げた。
「皆さ~ん!ここで重要な事実をお伝えしまーす!」
スクリーンが切り替わる。
テーマ
【リリア・ナーシアスの追放後の行方】
「学園を追放されたリリア・ナーシアスと母親エミリアは。」
一拍。
「行き場を失い。」
民衆は息を飲む。
「母と共に人攫いに遭い。」
「え?」
という民衆から幾人もの小さな声が聞こえる。
「娼館へ送られました。」
一瞬の沈黙の後。
「「「はぁぁぁぁ!?」」」
女性達が爆発した。
「ちょっと待って!!」
「何それ!!意味わからない!!」
「女の子を娼館!?正気なの!?」
悲鳴と怒号が入り混じる。
貴族の婦人たちが扇を握り潰し。
若い女性たちは顔を真っ赤にして立ち上がる。
「追放だけでも酷いのに!」
「そこからさらに!?」
「犯罪じゃないそれ!!?」
「誰がやったのよそれ!!!」
怒りは一気に民衆全体へ燃え広がった。
女性達の怒りが特に強い。
「王宮は何してたの!?」
「治安どうなってるのよ!!」
「人の人生なんだと思ってるの!!」
怒号が嵐のように吹き荒れる中。
元ヒロインは、楽しそうに目を細める。
「もちろん・・・誰かの手によって、ですけどね」
その一言で。
女性たちの怒りはさらに跳ね上がった。
「はぁ!?」
「“誰か”って何よ!!」
「曖昧にするな!!」
「責任者出しなさいよ!!」
扇が投げられ、帽子が床に落ちる。
それでも怒りは収まらない。
女性達の怒りは、収まるどころかさらに燃え広がっていった。
「曖昧にするなって言ってるのよ!!」
「“誰か”じゃなくて名前を出しなさい!!」
「女の子を娼館ってどういうこと!?正気じゃないわ!!」
貴婦人たちは扇を握り潰しては投げ、平民の女性たちは顔を真っ赤にして叫ぶ。
中には震えながら涙を浮かべている者もいた。
「同じ女として許せない・・・。」
「そんなの・・・人生を壊すどころじゃないじゃない・・・!」
その怒りの波が、男たちへもじわじわと広がっていく。
元ヒロインはそれを楽しむように見ている。
「いい反応ですねぇ。」
くすくす、と笑う。
「ルイスくん、ああルイスくん。君はどうしてルイスくんなの?」
まるで演劇がかったようにルイスの名を呼ぶ元ヒロイン。
ルイスな首を横に振り泣きそうな顔をしていた。
「いい反応だねぇ。」
元ヒロインはくすくすと笑う。
ルイスの顔色は真っ青だった。
やめろ。
言うな。
その表情だけで全員に伝わる。
だが元ヒロインは楽しそうに続けた。
「皆さん気付きました?」
民衆を見回す。
「さっきからルイスくんだけ、娼館の話になると顔色が悪いんですよねぇ」
ざわっ、と民衆が揺れる。
「まさか・・・。」
「関係あるのか?」
ルイスは歯を食いしばった。
額には冷や汗が浮かんでいる。
元ヒロインはニヤニヤと笑った。
「じゃあ聞いちゃおうかなぁ」
一拍。
「リリアとその母エミリアを娼館へ送ったのは誰?」
静寂。
ルイスは答えない。
観客全員が息を呑む。
「答えないの?」
元ヒロインが首を傾げる。
「じゃあ私が言っちゃうよ?」
ルイスの肩が震えた。
そして――。
「・・・・・僕です。」
掠れた声。
コロシアム全体が凍りつく。
次の瞬間。
「はぁぁぁぁぁ!?」
怒号が爆発した。
「お前か!!」
「最低だ!!」
「人間かお前!!」
ルイスは俯いたまま動かない。
元ヒロインは笑みを消した。
「理由は?」
ルイスは唇を噛む。
血が滲むほど強く。
「・・・・・っ。」
「理由は?」
もう一度。
元ヒロインは逃がさない。
ルイスは震える声で答えた。
「姉上の・・・為でした。」
観客席が静まり返る。
「は?」
誰かが呟いた。
ルイスは拳を握り締める。
「姉上が苦しんでいたから・・・。」
声が震える。
「姉上が泣いていたから・・・。」
苦しそうに息を吐く。
「姉上から全部を奪おうとしている存在だと思ったから・・・。」
今なら分かる。
本当は違う。
リリアはそんな人物じゃなかった。
だが当時は本気だった。
だから今、余計に苦しい。
「だから・・・。」
ルイスの目から涙が落ちた。
「姉上の為に・・・。」
絞り出すような声。
「僕が勝手にやりました・・・。」
静寂。
「勝手に?」
元ヒロインが呟く。
ぞっとするほど冷たい声だった。
「勝手に?」
もう一度。
「つまりルイスくんは、姉の為なら平民の少女を娼館送りにしても良いと思ったんだ?」
ルイスは何も言えない。
元ヒロインは観客席を振り返った。
「皆さん聞きました?」
にっこり笑う。
「姉の為なら娼館送りはセーフらしいですよ!」
「「「ふざけるなぁぁぁ!!」」」
怒号が爆発した。
「狂ってる!!」
「頭おかしいだろ!!」
「姉の為なら何してもいいのか!!」
ルイスは俯いたまま動けない。
その時だった。
「私のせいにしないでよ!!」
カテリーナが叫んだ。
全員の視線が集まる。
カテリーナは涙を流しながら叫んでいた。
「私は命令してないわ!!私知らなかったもの!!勝手にやったのはルイスでしょう!?」
「姉上・・・。」
「だってそうじゃない!」
カテリーナは必死だった。
「私は頼んでない!私はやれなんて言ってない!全部ルイスが勝手に――」
その瞬間。
ルイスが笑った。
壊れたように。
乾いた笑いだった。
「ははは・・・あはは・・・あぁ。」
ルイスはゆっくり顔を上げた。
その目は赤かった。
「そうですね。」
笑う。
涙を流しながら。
「姉上は命令してない。」
カテリーナがほっとした顔をする。
だが、次の言葉で凍りついた。
「姉上はいつもそうだった。」
涙が地面に落ちる。
「直接は言わない。でも泣くんだ。苦しいって言うんだ。怖いって言うんだ。リリアに全部奪われるって言うんだ。」
カテリーナの顔色が変わる。
ルイスは止まらない。
「だから僕が動いた。だから僕がリリアを消そうとした。だから僕が娼館へ送った。」
震える声。
「全部姉上の為だった。」
観客席がざわめく。
ルイスは笑った。
「今更、理解したよ・・・姉上は守る価値なんてなかった。」
カテリーナが目を見開く。
「ルイス!?」
「僕は人生を壊した。人を地獄へ落とした罪人だ。」
ルイスは泣きながら言った。
「でも姉上はーー」
一拍。
「全部僕のせいにするんだね。」
カテリーナの顔が真っ白になる。
観客席から怒声が飛んだ。
「最低だ!!」
「弟に責任押し付けるのか!!」
「自分だけ助かろうとしてる!!」
「クズ女!!」
女性達から特に激しい罵声が飛ぶ。
「全部の元凶はあんたでしょ!!」
「泣けば済むと思うな!!」
「被害者ぶるな!!」
怒号はどんどん大きくなる。
そして誰かが叫んだ。
「娼館に入れろ!!」
一人だった。
だが。
「娼館に入れろ!!」
二人。
三人。
十人。
百人。
「娼館に入れろ!!」
「娼館に入れろ!!」
「娼館に入れろ!!」
コロシアムが揺れる。
何万人もの声が重なる。
「娼館に入れろ!!」
「娼館に入れろ!!」
「娼館に入れろ!!」
特に女性達の怒りは凄まじかった。
「リリアさんとエミリアさんにしたことを味わえ!!」
「姉弟揃って同じ目に遭え!!」
「それでも足りない!!」
ルイスはぼーっとしている。
カテリーナはその場に崩れ落ちる。
「いや・・・。」
震える。
「いやぁ・・・。」
だが誰も同情しない。
セドリックも。
ノアも。
アルベルトも。
夫のライアスさえも。
もう誰も庇わなかった。
コロシアムにはただひたすらーー
「娼館に入れろ!!」
「娼館に入れろ!!」
「娼館に入れろ!!」
という大合唱だけが響き渡っていた。
元ヒロインはパンッと手を叩いた。
「ストップストップ。」
その一言で、会場中の怒号がぴたりと止まる。
元ヒロインは満足そうに頷いた。
「では皆様。」
スクリーンに大きな文字が浮かぶ。
【これまでのまとめ】
その下に次々と文字が並んでいく。
【乙女ゲームの未来を信じる】
↓
【リリアを危険人物認定】
↓
【排除決定】
↓
【何もしてないのに集団で追い詰める】
↓
【盗作犯扱い】
↓
【学園追放】
↓
【社会的抹殺】
↓
【人攫い被害】
↓
【娼館送り】
↓
【母エミリア死亡】
民衆が静まり返る。
元ヒロインは笑顔のまま続けた。
「乙女ゲームを見た悪役令嬢が、自らの破滅を防ごうとした結果。」
一拍。
「ヒロインの全てを奪いました。」
スクリーンが切り替わる。
「現在も。」
リリアが設計図を書いていた姿。
「未来も。」
学園を追放される姿。
「希望も。」
石を投げられる姿。
「そして――」
映像が切り替わった。
民衆から悲鳴が上がる。
そこには痩せ細り、疲れ果てた女性が映っていた。
乱れた髪。虚ろな瞳。鬱血と傷だらけの身体。
リリアの母、エミリアだった。
「そして愛すべき母親も。」
「「「いやぁぁぁ!!」」」
女性席から悲鳴が響く。
「酷すぎる!!」
「なんでこんな事に!!」
「人間のすることじゃない!!」
元ヒロインは頭を掻いた。
「あー。これはちょっと刺激が強かったかな?」
パチンと指を鳴らす。
スクリーンの映像が消えた。
代わりに映し出されたのは、ニコニコ笑う元ヒロイン自身。
「さーて。」
ぱんっと両手を合わせる。
「それじゃあ最後のテーマにいこうか!」
巨大スクリーンに文字が浮かび上がる。
女性達の悲鳴を置き去りにして、最後のテーマへと元ヒロインは行くのだった。




