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全てを奪われたヒロインは転生悪女に復讐する  作者: 鈴木べにこ


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28.盗 作〜悪役令嬢と攻略対象1〜

 民衆の視線が、6人へ突き刺さる。


 その目は疑念に満ちていた。


 元ヒロインは、そんな空気を楽しむように笑った。



「おかえり~!」



 両手を広げる。



「どうだった?証拠探し!」



 6人は誰も答えない。


 セドリック、アルベルト、ノアは俯き。


 ライアスは苦しげに眉を寄せ。


 ルイスは虚ろな顔をしていた。


 その様子だけで、民衆も察し始める。



「・・・見つからなかったのか?」

「まさか本当に・・・。」



 元ヒロインはニシシと笑う。



「え~?」

「まさか天下の王太子妃様が、設計図の一枚も残してないなんて事ないよねぇ?」



 カテリーナの肩が跳ねる。


 観客席の元生徒達もざわつき始めた。



「まさか!いや、でも・・・。」

「普通残すだろ?」

「発明家なんだから・・・。」



 元ヒロインはニシシと笑う。



「じゃあ結果発表いってみよ~!」



 パチン、と指を鳴らす。


 次の瞬間。


 スクリーンに文字が浮かび上がった。



【王太子妃カテリーナ・ルヴェルハイト】


【提出資料】


 ・アイデアノート 一冊

 ・簡易スケッチ 20枚



 静まり返る。


 そして次の瞬間。


 ざわっ——!!


 コロシアム全体が揺れた。



「少なっ!?」

「嘘だろ!?」

「いやいや待て待て!」

「リリア・ナーシアスの資料、あんな分厚かったぞ!?」

「比較になってねぇ!」



 既に資料を読み込んでいた商人達の顔色は険しい。



「工程記録がないなんて・・・。」

「設計図無しは有り得ん。」

「リリア嬢の方は修正履歴まで残ってたぞ・・・。」



 職人席からも声が飛ぶ。



「失敗作の記録があるのが本物なんだよ。」

「実際に作った奴しか、あんな細かく残せねぇ。」



 元生徒達の間にも動揺が走っていた。



「じゃあ本当に・・・。」

「盗作してたのって・・・。」



 誰も最後まで言えない。


 だが空気が答え始めている。


 元ヒロインはニヤニヤ笑いながら6人を見下ろした。



「さてさて~?」



 楽しそうな声。



「皆さんもうお気づきですねぇ?」



 スクリーンに、配られたリリアの資料の一部が映し出される。


 細かな魔力計算式。


 修正で何度も書き直された跡。


 失敗理由の考察。


 改善案。


 それを見た民衆の顔に浮かぶのは、もう“発明家”への目だった。



「努力してたんだな。」

「あんなに若い子が。」

「なのに盗作犯扱いされて・・・。」



 ある平民の女が、ぽつりと呟く。



「盗作だと思われたなんて可哀想すぎる・・・。」



 その声に同意するように、周囲もざわめいていく。


 元ヒロインは笑みを深める。



「じゃあ改めて聞くね~?」



 6人を指差す。



「リリア・ナーシアスは、本当に盗作犯だったのかな?」



 誰も、答えられなかった。


 長い沈黙の末。


 ライアスが、ゆっくりと口を開いた。



「・・・・・違った。」



 掠れた声だった。


 その一言に、カテリーナがはっと顔を上げる。



「ライアス・・・?」



 だがライアスは妻を見なかった。


 俯いたまま、震える声で続ける。



「リリア・ナーシアスは・・・盗作犯じゃなかった」



 それは愛する妻を、自ら告発する言葉だった。


 コロシアムが静まり返る。


 そして次の瞬間。


 元ヒロインの顔がパァッ!!と輝いた。



「皆様聞きましたでしょうか!?」



 大音量で響く声。



「王太子が認めました!!」



 バンッ!!とスクリーンに文字が浮かぶ。



【王太子、リリアの冤罪を認める】



「王太子が認めましたぁ!!」



 その瞬間だった。



「ふざけるなぁ!」



 ゴッ!


 一足の靴が飛んだ。


 それを合図にしたかのように。


 石がない代わりに、大量の靴が6人へ向かって投げられる。



「お前らのせいで!!」

「この国がこんな事になったんだろ!!」

「何もしてない娘を追い詰めやがって!!

「最低だ!!」



 靴。帽子。飲みかけの水。


 次々と宙を飛ぶ。


 6人のいる場所と観客席は離れている。


 だから届かない。


 届かないのに。


 その怒気だけで、十分恐ろしかった。


 カテリーナが悲鳴を上げる。



「いやっ!!」



 5人も顔を歪める。



「っ!!」



 ライアスは初めて民衆の怒りに襲われる感覚を味わっていた。


 今までは逆だった、自分達が糾弾する側だった。


 石を投げられる側ではなく、投げる側だった。


 だが今は違う。


 民衆の怒りが、自分達へ向いている。


 ノアが青ざめた顔で呟く。



「こんなの・・・・・。」



 耐えきれない。


 怒声が飛ぶ。



「お前達のせいで帝国に目をつけられたじゃないか!!」

「商人が撤退したのも!!」

「物流が止まったのも!!」

「全部お前達が原因か!!」

「仕事が無くなったんだぞ!!」

「店が潰れた!!」

「食料の値段だって上がってる!!」



 怒号が、波のように押し寄せる。



「まぁまぁ皆さん落ち着いて。」



 元ヒロインの言葉に、観客はピタリと静かになった。


 先程まで飛び交っていた怒号が嘘のように消える。


 元ヒロインは満足そうに頷いた。



「ではライアスくん。」



 ニコニコ笑いながら問いかける。



「カテリーナさんの発明品が先に、リリアの発明品が後に。なったのは何故だと思う?」



 ライアスの喉が、ごくりと鳴った。


 逃げられない。もう誤魔化せない。


 ライアスは震える声で答える。



「それは・・・。」



 カテリーナがハッと顔を上げる。


 だがライアスは、もう妻を見なかった。



「カテリーナが・・・乙女ゲームで。」



 唇が震える。



「先に・・・リリアの発明品を知って。」



 一瞬、目を閉じる。


 そして。



「盗作したから。」



 コロシアムが静まり返った。


 カテリーナの顔から血の気が引く。



「ライアス・・・っ。」



 そして元ヒロインがパァァッ!!と顔を輝かせた。



「だーいせーいかーい!!」



 パァンッ!!


 次の瞬間、コロシアム中に紙吹雪が舞った。


 祝福するように。ふざけるように。残酷なほど楽しげに。


 スクリーンには巨大な文字が浮かぶ。



【祝!!リリア無罪!!カテリーナ盗作決定!!】



 そして——。


 観客の罵声が再び爆発した。



「ふざけんなぁぁぁ!!」

「じゃあ最初からリリア嬢はただの被害者じゃねぇか!!」

「盗作したのはそっちかよ!!」



 今度特に激しかったのは、五年前の元生徒達だった。



「私達あの子を責めたのに!!」

「盗作犯って言って石投げちゃったじゃない!」

「全部嘘だったっていうの!?」



 女子生徒の一人が半狂乱になって叫ぶ。



「だってカテリーナ様がそう言ったのよ!!」

「信じるしかなかったじゃない!!」



 別の男子生徒も顔を真っ赤にして叫ぶ。



「俺達の人生まで終わったじゃねぇか!!」

「王都で俺達、いじめの加害者って言われるんだぞ!?」

「ふざけんな!!」



 怒声は、カテリーナと彼女を信じた5人へ向いていた。


 罵声は止まらなかった。



「人の人生めちゃくちゃにしておいて!!」

「盗作したのはお前だったのかよ!!」

「リリア嬢に謝罪しろ!!」

「死んで詫びろ!」



 靴が飛ぶ。


 今度は資料の紙束まで宙を舞った。


 カテリーナは耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込む。



「いや・・・っ!いやぁぁっ!!」



 誰もカテリーナを庇わない。もう庇えなかった。


 夫のライアスですら動かなかった。いや、動けなかった。


 自分の口で認めてしまったからだ。


 元ヒロインは楽しそうに観客席を見回した。



「いやぁ~盛り上がってきたねぇ!」



 笑っているのに恐ろしい。


 元ヒロインはわざとらしく咳払いした。



「ではここで整理しましょ~!」



 スクリーンに文字が浮かぶ。



【乙女ゲームの未来を信じる】

 ↓

【リリアを危険人物認定】

 ↓

【排除決定】

 ↓

【何もしてないのに集団で追い詰める】

 ↓

【盗作犯扱い】

 ↓

【真犯人はカテリーナ】



 観客席から悲鳴のような声が漏れた。



「最悪だ!」

「未来で破滅だぁ!?そんなよくわからん理由で寄ってたかって一人を潰していい訳あるか!!」

「しかも盗作まで擦り付けて!!」



 元ヒロインは、そんな罵声をBGMのように聞きながら笑う。


 そして、ゆっくり元生徒達へ視線を向けた。



「いやぁでもさぁ。」



 ニヤニヤ笑う。



「君達、本当に“乙女ゲーム”信じてたんだねぇ。」



 その言葉に、五年前の元生徒達が肩を震わせた。



「だ、だって・・・。」

「本当にリリアって名前でピンク髪の子が現れたんだぞ・・・。」

「しかも平民で・・・。」

「乙女ゲームと条件が同じだったんだ。」



 元ヒロインは「うんうん」と頷く。



「説得力のある人間の言葉だったから仕方ないけど、よく乙女ゲームの話なんて信じたもんだよ・・・誰もバカみたいだと思わなかった訳?」



 大人になった今だからこそ。


 その異常さに、自分達でも気づいてしまう。


 恥じるかのように元生徒達は下を向いた。


 元ヒロインは、楽しそうに笑った。



「いやぁ青春って怖いねぇ!」



 だがその目だけは、全く笑っていなかった。



「これは悪役令嬢が攻略対象や信者を使って、ただいじめて追い詰めて学園追放になっただけの話じゃないんだなぁ・・・。」


 

 そして元ヒロインはルイスを見た。



「娼館送りにする必要あった?」



 一瞬の静寂。



「・・・は?」

「娼館?」



 観客席がざわり、と空気が波打つ。


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