27.盗 作〜攻略対象1〜
セドリックが呟く。
「いや・・・ここまで来たら、もう。」
アルベルトが壁に寄りかかりながら吐き捨てた。
「最悪だな、俺達。信じる相手を間違えたんだからな。」
誰も否定できなかった。
自分達は何もしていない少女を、証拠もなく、ただ“信じたいもの”を信じて追い詰めたのだ。
重苦しい沈黙の中。
セドリックが力無く呟いた。
「俺たち、死ぬんだろうな。」
誰も否定できない。
セドリックは椅子に深く腰掛け、荒く息を吐いた。
「アイツの目を見ただろ?」
脳裏に浮かぶ。
黒髪黒目のリリアの顔をした元ヒロイン。
笑っていた。楽しそうに。だが、その目だけは違った。
「俺達を殺したくてうずうずしてる目だった。」
部屋の空気がさらに重くなる。
ライアスは苦しげに眉を寄せた。
「・・・やめろ。」
「事実だろ。」
セドリックは吐き捨てる。
「今は遊ばれてるだけだ。真実の解明とか言ってるが、俺達は処刑前の罪人みたいなもんだ。」
ノアも乾いた笑みを浮かべた。
「むしろ、よく今まで生かされてますよね。」
その時だった。
ルイスが、声を上げて笑った。
その笑い声に、全員の視線が向く。
「ははは!あははははは!」
ルイスはどこか遠くを見るように呟く。
「多分あの元ヒロインと名乗る魔術師は、全部知ってるんでしょうね」
アルベルトが眉をひそめる。
「全部?」
ルイスは静かに頷いた。
「リリアを娼館に送った犯人とか。」
アルベルトの目が見開かれた。
「・・・は?」
ルイスは壊れたように笑う。
「案外、殺されるのは僕だけかも。」
ライアスが険しい顔になる。
「ルイス、お前・・・。」
「そういえばアルベルトさん、あの場にいませんでしたね。」
ルイスは淡々と続ける。
「僕、リリアとその母親を娼館に送ったんです。」
アルベルトの顔から表情が消えた。
「・・・は?」
ルイスは構わず続ける。
「死んだって聞いてたんですけど。もしあの元ヒロインが本当にリリアならーー」
その瞬間。
ガンッ!!!
椅子が吹き飛んだ。
「お前何してんだァ!!!」
アルベルトの怒声が執務室を震わせる。
魔力混じりの怒鳴り声に窓ガラスがビリビリと震えた。
誰も反応できない。
アルベルトはルイスの胸ぐらを掴み、そのまま壁に叩きつけた。
「学園追放だけじゃ飽き足らず娼館!?」
顔を歪め、怒鳴る。
「お前頭おかしいのか!!」
ドンッ!!
再び壁に叩きつける。
ルイスの顔が苦痛に歪む。
「アルベルト!やめろ!」
ライアスが止めようとするが、アルベルトは振り払った。
「離せ!!」
怒りで目が血走っている。
「俺だってクズだ!リリアを疑った!追い詰めた!」
だが、と。
「娼館送りは違うだろうが!!!」
拳が壁に叩き込まれる。
石壁がひび割れた。
ルイスは抵抗しない。
ただ静かに笑った。
「だから殺されるのは僕だけかもって言ったじゃないですか。」
その笑みに、アルベルトはさらに怒りを燃やした。
「笑ってんじゃねぇ!!」
殴りかかろうとした腕を、今度はセドリックとノアが止める。
「気持ちは分かるが今はやめろ!!」
「ここで殺す気ですか!!」
アルベルトは荒い息を吐きながら、ルイスを睨み続けた。
「っ・・・クソが・・・!」
ルイスは壁にもたれたまま、目を閉じる。
「姉上の為だったんです・・・・結果、姉上に嫌われましたが・・・。今となっては姉上にどう思われようがどうでもいいです。」
アルベルトは今にもルイスを殴り殺しそうな目をしている。
ライアスは顔を覆い、ノアは俯き、セドリックは苦々しく歯を食いしばっていた。
カテリーナは違うを繰り返しながら泣いていた。
そして——。
誰も口にはしなかったが。
全員、理解していた。
自分達にはリリアに復讐される理由が、明確に全部あった。
いじめ。
孤立。
盗作冤罪。
学園追放。
石を投げられる原因を作ったこと。
居場所を奪ったこと。
人生を壊したこと。
そして最後に——娼館送り。
それを自分達は全部やった。
ライアスは震える指で額を押さえる。
「(・・・なんだこれは。)」
今になってようやく、自分達が何をしたのか形になって突きつけられる。
今までは“過去の出来事”だった。
曖昧だった。後悔や反省を自分に都合よく解釈していた。
だが違う、一つ一つ並べられると、それはもう言い逃れできない“加害”だった。
もうすぐ公衆の面前で、誰が盗作したのかが明らかになる。
その事実が、6人の心を静かに蝕んでいた。
仮に。
仮にカテリーナが、本当に一から全部自分で考えていたとしても。
証拠が足りない。
アイデアノート一冊。
簡単なスケッチ20枚。
それだけでは、到底“発明者”の証明にはならない。
まして相手には。
工程記録。詳細な設計図。試作の過程。完成までの資料。
全てが揃っている。
ノアは商人として断言できた。
世間が信じるのはどちらかなど、もう分かりきっている。
部屋は静まり返っていた。
誰も怒鳴らない。
誰も責めない。
責める気力すら、もう残っていなかった。
カテリーナだけが、小さく震えている。
「違うの・・・。」
掠れた声。
「私は・・・私は・・・。」
だが、その先が続かない。
どう言い繕っても。
何を叫んでも。
もう誰も、“無条件に信じてくれる側”には戻れなかった。
そして。
終わりの時間は、あまりにも早く訪れた。
『タイムアーップ!!』
楽しそうな声が響く。
次の瞬間、視界が歪む。
ぐにゃりと空間が曲がり、体が浮く感覚。
そして6人は再び、巨大なコロシアムの中心へ転送されていた。
民衆の視線が一斉に集まる。
全員が6人を見ていた。
中央で宙に浮かぶのは黒髪黒目のリリアの顔をした元ヒロイン。
その顔にはニシシ、と。
心底楽しそうな笑みが浮かべていた。




