26.盗 作〜悪役令嬢5〜
黙っていたカテリーナが突然叫ぶ。
「違う!」
涙声だった。
「私が考えたの!私が!」
ノアが机を叩く。
「じゃあ説明してくださいよ!!どうやって考えた!?どうやって作ったんだ!!」
ノアの顔は真っ赤だった。
「設計図は!?試作品は!?工程記録は!?商品開発舐めてるんですか!!」
ライアスが声を荒げる。
「やめろノア!」
その瞬間、ノアの感情が爆発した。
「殿下!アンタの責任でもあるんですよ!!」
ノアはライアスを睨みつけた。
「いや、アンタが一番悪質だ!」
ライアスの目が見開かれる。
「アンタと、そこの嘘つき女が!!」
ノアがカテリーナを指さす。
「婚約破棄されるだの、国外追放されるだの騒ぎ出したのが始まりだろ!!」
一歩、また一歩とライアスへ詰め寄る。
「僕の人生どうしてくれるんだよ!!」
その叫びは、怒りだけではなかった。
恐怖。後悔。崩れ去っていく未来への絶望。
ノアがライアスに掴みかかろうとした瞬間。
「やめろ!」
セドリックが後ろから止めた。
ノアが荒く息を吐く。
セドリックも顔色が悪かった。
「まだカテリーナ様の話が途中だろ!」
ノアは鼻で笑う。
「はん!」
その目には怒りしかなかった。
「じゃあご説明願いますか。」
皮肉たっぷりに頭を下げる。
「王太子妃殿下。」
全員の視線が、カテリーナへ向いた。
全員の視線が、カテリーナへ突き刺さる。
逃げ場はなかった。
カテリーナは震えていた。
肩が小刻みに揺れている。
唇は青白く、指先はぎゅっとドレスを掴んでいた。
「わ、私は・・・。」
声が掠れる。
ノアが冷たく言う。
「ご説明を。」
カテリーナはびくりと肩を跳ねさせた。
「・・・っ!」
ライアスは苦しげに妻を見る。
説明してくれ。違うと言ってくれ。
そう言いたげな目だった。
だがカテリーナは視線を合わせられない。
「わ、私は・・・アイデアを・・・。」
そこで言葉が止まる。
ノアが机を叩いた。
「アイデアの話じゃない!!」
怒声。
「どうやって完成させたかを聞いてるんだ!!設計図は!?試作品は!?記録は!?」
カテリーナは涙目になりながら首を振る。
「そ、それは・・・っ。」
答えられない。
アルベルトが呟く。
「おいおいマジかよ。」
セドリックも顔を歪める。
ルイスだけが、じっと姉を見ていた。
その目は静かだった。
静かすぎて、逆に恐ろしいほどに。
「姉上。」
カテリーナがびくっとする。
「じゃあ教えてください。」
ルイスはノートを開いた。
そこには、簡単な発想メモだけが並んでいる。
「この魔導冷却器。」
ページを指さす。
「魔力循環を安定化させるための中核術式は?」
カテリーナの顔が固まる。
沈黙。
ルイスは続けた。
「じゃあ次。」
別のページを開く。
「自動洗浄魔導具の内部構造は?汚水逆流防止はどうしました?」
答えられない。
「じゃあこれ小型照明器の魔石消費量を抑えた理論は?」
「そ、それは・・・。」
カテリーナは言葉が出ない。
ルイスはゆっくりノートを閉じた。
その顔から、感情が消えていた。
「・・・やっぱり、知らないんだね。」
カテリーナの目から涙が落ちる。
「ち、違うの・・・!」
必死に首を振る。
「私は考えたのよ!本当に!」
ノアが吐き捨てる。
「考えただけでしょう。」
その言葉は刃物より鋭かった。
「完成させたのは別の誰かだ。」
カテリーナは泣き出す寸前だった。
ライアスが苦しげに声を出す。
「ノア・・・まだ決まった訳じゃ・・・。」
「じゃあ証明してくださいよ!!」
ノアが叫ぶ。
「証拠を出してください!設計図でも!試作品でも!失敗作でもいい!!」
部屋中に怒声が響く。
「何も無いじゃないですか!!」
カテリーナはとうとうその場に崩れ落ちた。
「ち、違う・・・違うの・・・。」
だが、その“違う”の先が続かない。
何が違うのか。どう違うのか。
もう、自分でも説明できなかった。
カテリーナは床に崩れ落ちたまま、震える声を漏らした。
「だってーー」
全員の視線が集まる。
「アイデアを言ったら・・・職人さんが作ってくれたんですもの・・・!」
空気が止まった。
カテリーナ自身も、言った直後に気づいたのだろう。
慌てて両手で口を塞ぐ。
だが、もう遅かった。
沈黙。
誰も動かない。
ライアスの目が見開かれている。
セドリックの顔から血の気が引く。
アルベルトは呆然としていた。
ルイスは目を伏せた。
そしてノアだけが、ゆっくり鼻で笑った。
「・・・ほら。」
乾いた笑い。
「そうだろうと思った。」
ノアは額を押さえ、俯く。
「アイデアだけ出して後は他人任せ。設計図が無い理由も、工程記録が無い理由も、全部説明つくじゃないですか。」
カテリーナが涙目で叫ぶ。
「で、でも私は考えたのよ!!発想は私だったの!!」
ノアは冷たく返す。
「それを世間では“発明した”とは言わない。」
カテリーナの顔が凍る。
ノアは机のスケッチを掴み上げた。
「職人が形にして、技術者が設計して、魔法士が調整した。」
鋭い視線。
「アンタはその過程を何も知らない。」
言い逃れできない現実だった。
ルイスがゆっくり目を閉じる。
「・・・じゃあ、リリアこそが発明者だったんだね。」
カテリーナがびくっと震える。
ライアスは信じたくないように首を振った。
「ま、待て!アイデアはカテリーナが先だったかもしれないだろ!たまたま同じだっただけで!盗作と決まった訳じゃ・・・。」
しかしその声には、もう力が無い。




