25.盗 作〜悪役令嬢4〜
空中スクリーンに黒々とした文字が浮かぶ。
テーマ
【盗作】
場の空気が一気に張り詰める。
ライアスは眉をひそめた。
元ヒロインは、視線をゆっくり動かした。
「そこの大商会長の息子!」
ぱっと指がノアを刺す。
「違った、今はただの商会長の息子だったね!」
軽く笑う。
「君なら、自分が“盗作ではない”ことをどう証明する?」
ノアは一瞬目を閉じ、思考を整理する。
「・・・発明になるまでの過程を提出する。」
慎重に言葉を選んで言った。
元ヒロインは嬉しそうに頷く。
「そうそう!他には?」
「設計図です。」
ノアは続ける。
「盗作とされるなら、より詳細な設計図の内容が一番必要です。」
元ヒロインの目が細くなる。
「さすが、商会の息子だけあるね。」
そして、ニヤリと笑った。
「じゃあ、お手元に資料をお配りしまーす!」
その瞬間——
民衆全員の目の前に、分厚い資料が出現した。
空間からソレは落ちてきた。
ドサッ。
重い音。
ページをめくると、そこには詳細な図面と工程、記録。
元ヒロインは楽しそうに告げる。
「これはリリア・ナーシアスが盗作と言われた、10個の発明品についての説明と過程と設計図でーす!」
コロシアムがざわつく。
「・・・こんなものが・・・。」
「本当にここまで・・・。」
「詳細に明記されてるぞ!」
元ヒロインは両手を広げる。
「これでリリア・ナーシアスが盗作じゃない理由ができたと思うけど?」
その瞬間、セドリックが強く言い放つ。
「でもカテリーナ様の方が先だったぞ!」
一瞬、空気が止まる。
元ヒロインは、くすっと笑った。
「だから今度は逆。」
指がゆっくりとカテリーナへ向く。
「カテリーナさんに証明してもらうよ。」
沈黙。
「リリア・ナーシアスの作品を“盗作していない”ってね。」
5人の男たちの額に、じわりと汗が滲む。
それは最近のカテリーナを知っているからこそだった。
“もし本当に盗作していたのは・・・。”
思考がどうしてもそこに行き着いてしまう。
ライアスがはそれを振り払い重く口を開く。
「どう証明するんだ?」
元ヒロインは即答した。
「同じだよ。」
にこりと笑う。
「今から君達6人が協力してカテリーナさんの設計図やら試作品やら説明書やら、リリアの発明を盗作してない証拠を探してもらう。」
軽い声だった。
「半日あ・げ・る!」
元ヒロイン投げキッスをした。
そしてわざとらしく首を傾ける。
「まさか大事な発明品の設計図くらいあるよね?」
カテリーナの肩がびくりと跳ねる。
その反応を見て、元ヒロインは楽しそうに笑った。
「じゃあ頑張ってねん!」
パチン、と指が鳴る。
次の瞬間——
ライアス、セドリック、ノア、アルベルト、ルイス、カテリーナの姿が。
コロシアムから消えた。
6人が次に目を開けた時。
そこは王宮にあるライアスの執務室だった。
重厚な机。
大量の書類。
夕日が差し込む大きな窓。
いつもと変わらない王太子の部屋。
だが、空気だけが違った。
誰も口を開かない。
誰もが理解していた。
これは“猶予”であって解放ではないと。
ライアスが最初に声を出した。
「カテリーナが先に発明したんだ!」
まるで自分自身に言い聞かせるような声だった。
「盗作なわけがない!・・・そうだろ、カテリーナ!」
視線が一斉にカテリーナへ向く。
カテリーナは肩を震わせた。
「え、ええ・・・。」
返事は小さい。
ライアスは無理やり頷いた。
「ほら見ろ!」
強引だった。
嫌な予感を押し潰すような口調。
他の4人も、黙るしかない。
信じるしかなかった。
もし違ったら——。
もし本当に盗作していたのがカテリーナだったなら。
自分達は終わる。国中から最低の人間だと知られる。
何もしていない少女を集団で追い詰め、いじめ、人生を壊した愚かな権力者達として語られる。
そして、盗作をしていたカテリーナこそが、“真の悪役”として歴史に名を残す。
当然、その取り巻きだった5人の名も残るだろう。
そんな人間が、この先まともに生きていけるのか。
しかも帝国に目を付けられた原因が自分達だったなど・・・。
部屋の空気は息苦しいほど重かった。
ライアスが机に向かう。
「確か・・・俺の執務室に、カテリーナの発明関連の資料が仕舞ってあったはずだ!」
ノアもすぐに頷く。
「商会にもいくつか保管されていた筈です!」
ルイスは必死な顔で言った。
「公爵家にならいっぱいあると思います!」
カテリーナも慌てて続ける。
「わ、私も実家に帰って探すわ・・・!」
セドリックが腕を組見ながら発言する。
「じゃあ俺はノアについていく。」
アルベルトも立ち上がった。
「いっぱいあるなら公爵家に俺も行く。持ち帰る人手は必要だろ。」
そして6人は、それぞれの場所へ散った。
3時間後。
ライアスの執務室。
再び集まった6人の顔色は、全員悪かった。
テーブルの上には、集められた資料が置かれている。
だが——少なすぎた。
アイデアノート一冊。
簡単なスケッチ画が20枚ほど。
それだけ。
沈黙が落ちる。
アルベルトが眉をひそめた。
「これだけ?捨てたのか?」
紙を何枚か乱暴にめくる。
セドリックも嫌な顔をした。
「なぁこれ・・・。」
ノアが急に机を叩いた。
「足りないんですよ!!」
怒声が部屋に響く。
「なんですかこれ!?設計図は!?設計図はどこなんですか!?」
ノアはノートを掴み上げる。
「商品化までしたんですよ!?魔導具も、生活用品も!こんな簡単なメモみたいな内容だけで完成する訳ないでしょう!!」
商会を運営してきたノアだからこそ分かる。
これは異常だった。
開発記録が、あまりにも少なすぎる。
ライアスの顔色も変わる。
「カテリーナ?」
カテリーナは視線を泳がせながら、震える声を出した。
「設計図は・・・ーー」
一瞬、間が空く。
「ない。」
沈黙。
「はぁ!?」
ノアが声を荒げた。
そのままカテリーナへ掴みかかりそうになる。
「ざけんな!」
ライアスが咄嗟に止める。
「やめろノア!!」
「離してください!!設計図が無い!?そんな訳あるか!!量産化した商品だぞ!?試作品も工程記録も無しでどうやって作ったんですか!!」
ノアの声は半ば悲鳴だった。
ルイスの顔も青ざめていく。
「姉上・・・。」
カテリーナは何も言えない。
セドリックが低く呟いた。
「・・・これじゃまるで。」
盗作していたのは——。
そこまで考えた瞬間。
全員が言葉を飲み込んだ。
重苦しい沈黙が執務室を覆っていた。
誰もが机の上の“少なすぎる資料”を見ている。
アイデアノート一冊。
簡単なスケッチ20枚。
それだけ。
あまりにも薄い。あまりにも空っぽだった。
その沈黙を破ったのは、ルイスだった。
「・・・姉上。」
静かな声。
だがその声音に、ライアスは思わず顔を上げた。
ルイスの目が違った。
その目は今までと違って姉を敬愛していた目ではない。
あれほど盲目的だった愛情が、音もなく消えていた。
ルイスはゆっくり口を開く。
「僕達も・・・バカじゃないんだよ。」
カテリーナの肩が震える。
「ただ、バカだったよ。」
ルイスは苦く笑った。
「姉上を盲目に信じて。」
一歩近づく。
「でもね、バカのフリをしてたんだ。」
声が震える。
「姉上が・・・みんな大好きだったから。」
その言葉に、ライアスも、セドリックも、アルベルトも、ノアも顔を伏せる。
否定できない。
誰もが薄々気づいていた。
おかしい、と。
だが見ないフリをした。
カテリーナを信じたかったから。
ルイスは机の資料へ視線を落とした。
「・・・これ全部。」
小さく息を吐く。
「あの人が作ったんでしょ?」
沈黙。
カテリーナは答えない。
いや、答えられなかった。




