24.危険人物?〜元ヒロイン5〜
元ヒロインはうんうんと頷いた。
パンッ、と手を叩いた。
「これ、もう“未来を理由にした私刑”なんだよね。」
誰も笑わない。というか笑えない。
民衆の視線が、一斉にカテリーナへ向く。
カテリーナの肩がビクリと震えた。
「違っ・・・!私は破滅したくなくて・・・!」
だが元ヒロインは即座に返す。
「うん、分かるよ。怖かったんだよね。未来で愛する人から婚約破棄されて、国外追放されて、全部失うの。」
優しい声。
けれど次の瞬間、その声色が変わる。
「でもさ。だからって、まだ何もしてない女の子を追い詰めていい理由にはならないよね?」
カテリーナが息を呑む。
元ヒロインはニヤニヤ笑った。
「実際に現れたリリア・ナーシアスは無害だったのに。追い詰めて潰そうとした。未来を理由にした私刑!恐ろしねぇ~!怖いね~!」
ざわざわざわ!!
今までとは明らかに違う空気が、会場中へ広がっていく。
「怖すぎるだろ・・・何もしてないのに。」
「無害だったんでしょ?調べなかったの?」
「未来で自分を害そうとするかもしれないって理由で排除されるのか?」
「そんなの、誰にでも出来るじゃないか!」
民衆たちの声には、怯えが混じり始めていた。
彼らは理解してしまったのだ。
これは決して他人事ではないと。
カテリーナと攻略対象たちは、その空気の変化に顔を強張らせた。
向けられる視線が違う。
尊敬でも憧れでもない。恐怖と嫌悪が混じった目だった。
元ヒロインは、その空気を煽るように両手を広げた。
「皆さーん!ここで考えてみてください!」
そして、観客席をぐるりと見回す。
「今度皆さんの前に、カテリーナさんが現れて。」
わざと明るい声で言った。
「『あなたは未来で私の敵になります。だから潰します。全て奪います。』って言われたら?」
その瞬間。
スクリーンに映像が流れ始めた。
教室で孤立するリリア。
陰口を叩かれる姿。
いじめられる姿。
怯えた顔。
取り巻きに囲まれ、逃げ場を失っていく様子。
そして最後には、全てを奪われ絶望した表情。
「――っ。」
民衆から息を呑む音が漏れる。
元ヒロインは映像を指差した。
「次!こうなるのは、皆様の中の誰かかもしれないのです!」
悲鳴のようなざわめきが会場を揺らした。
「いやっ!」
「そんなの嫌よ!」
「何もしてないのに・・・!」
カテリーナが青ざめながら叫ぶ。
「違う!そんなことしないわ!」
だが、その声は観客達にはもう届かない。
「信用できるか!」
「リリアさんにも同じことしたじゃないか!」
「未来を理由に排除したんだろ!?」
悲鳴に近い非難が飛ぶ。
カテリーナは必死に首を振る。
「違うの!私はただ――」
だが元ヒロインが冷たく言葉を重ねた。
「権力のある令息を使い!王太子の権力を使い!そして最後には、全てを奪われてしまうです!リリア・ナーシアスのように!」
「イヤァ!やめてぇっ!!」
観客席の一人の女性が叫んだ。
「私から全て奪わないで!!」
次の瞬間。
ヒュンッ――!!
ハイヒールが投げつけられた。
それは6人の手前へ落ち、乾いた音を立てる。
届きはしなかった。
だが、6人は凍りついた。
民衆達の目に宿る恐怖。拒絶。怯え。
それはかつて、自分達がリリアへ向けていたものと同じだったからだ。
ライアスの顔から血の気が引く。
セドリックとアルベルトは息を呑み。
ノアは頭を抱え。
ルイスは震え。
カテリーナは泣きそうになっていた。
元ヒロインだけが、ニヤニヤと笑っていた。
「怖いでしょ?リリアも、怖かったと思うよ。」
元ヒロインの声は先程より静かだった。
だからこそ、よく響いた。
カテリーナは唇を震わせる。
攻略対象達も、誰一人として反論できない。
元ヒロインは、床に落ちたハイヒールへ視線を落とした。
「皆さん怖かったよね・・・。今度は自分が一方的に悪人扱いされる側になるかもしれないって。」
幾人の民衆が青い顔で頷く。
「でもリリアは、それをもっと酷い形で受けてた。」
逃げ場もなく。味方もなく。権力を持つ相手から疑われ。周囲から距離を置かれ。何をしても悪意に変換される。
「正義って、信じてる側の権力が強いとめちゃくちゃ怖いんだよ。」
民衆が静まり返る。
誰も否定できない。
元生徒達もカテリーナ側の話を信じていたのだから。
元ヒロインは笑みを消した。
「ねぇ、ライアスくん。」
突然名前を呼ばれ、ライアスが顔を上げる。
「もし今、『ライアスくんは未来で暴君になります』って言われて。周囲が皆それを信じ始めたらどう思う?」
ライアスの表情が強張る。
「それで王族だからって隔離されて。誰も信用してくれなくて。何を言っても『本性隠してるだけ』って言われて。」
「・・・っ。」
ライアスは何も言えなかった。
元ヒロインは、静かに問いかける。
「辛くない?」
その問いに。
ライアスは完全に言葉を失った。
反論できなかった。
民衆の視線が痛い。
恐怖と非難の入り混じった空気に、攻略対象達は初めて追い詰められる側の感覚を味わっていた。
そんな中――。
「・・・じゃあ。」
セドリックだった。
苦しげに眉を寄せながらも、彼は元ヒロインを見る。
「じゃあ盗作の件はどう説明するんだよ!」
会場がざわつく。
セドリックは拳を握り締めた。
「あれも実は、リリアが先に作ってたっていうのかよ!そんなわけあるか!」
叫ぶような声。
「俺は・・・俺はカテリーナ様を信じる!」
その瞬間。
カテリーナの肩が大きく震えた。
その反応を元ヒロインは見逃さなかった。
ニタァと口角が吊り上がる。
「そうそう!」
嬉しそうな声。
「そういうのを待ってたんだよ、セドリックくん!」
元ヒロインは楽しそうに笑う。
「落としがいがあるよ!」
セドリックの顔が険しく歪む。
次の瞬間。
バンッ!!
スクリーンに、大きな文字が浮かび上がった。
【盗作】
会場がどよめく。
元ヒロインは舞台役者のように両手を広げた。
「次のテーマは!リリア・ナーシアスの学園追放が決定した最大の原因!」
一拍置き。
「テーマは――【盗作】だぁ!!」




