23.危険人物?〜元ヒロイン4〜
重苦しい空気が会場を包む中――。
元ヒロインだけは、まるで祭りの司会者のようなテンションで両手を広げた。
「さぁさぁ盛り上がってまいりましたー!!」
温度差が酷い。
だがその明るさが逆に、場の緊張感を際立たせていた。
元ヒロインはクルリと回り、空中を指差す。
「次のテーマはこちら!」
バンッ!!と大きく文字が浮かび上がる。
テーマ
【リリア・ナーシアスは本当に危険人物だったのか】
その瞬間。
民衆が再びざわついた。
「・・・そこだよな。」
「結局、一番重要なのは。」
「実際に危険だったなら、警戒自体は間違いじゃない。」
「でも違ったなら・・・。」
最後まで言えず、男は口を閉ざした。
元ヒロインはニヤニヤ笑いながら頷く。
「そうそう!ここ超重要!だってさ、“本当に危険人物だった”なら、カテリーナさん達の行動にも多少は正当性が出るわけじゃん?」
そして急に真顔になる。
「でも、もし危険人物じゃなかったら?」
空気が張り詰める。
「ただの普通の女の子を。未来がどうとかいう曖昧な話だけで。集団で追い詰めて。人生を壊したことになるんだよね。」
民衆の顔色が変わる。
元ヒロインはそんな空気を楽しむように、口角を吊り上げる。
「というわけで皆さん!ここからは、“リリア・ナーシアス危険人物説”を検証していきましょー!」
元ヒロインは攻略対象たちへ向き直る。
「質問です!リリア・ナーシアスは、皆さんに何か危害を加えましたか?」
最初に視線を向けられたライアスは、苦々しく眉を寄せた。
「・・・いや。」
「脅迫された?」
「・・・されていない。」
「薬を盛られた?」
「・・・ない。」
短く答える声には、どこか歯切れの悪さがあった。
元ヒロインは逃がさない。
「暴力振るわれた?」
「・・・・・ない。」
「誘惑された?」
ライアスが一瞬黙る。
民衆の視線が集まる中、答えた。
「・・・少なくとも、俺はそう感じなかった。」
ざわり、と空気が揺れる。
元ヒロインは今度はアルベルトを見る。
「アルベルトくんは?」
アルベルトは不機嫌そうに顔をしかめた。
「俺は・・・最初から警戒していた。平民が急に編入してきたんだ。当然だろう。」
「うんうん、それで?」
「・・・・・。」
「何かされた?」
「・・・いや。」
言いづらそうに視線を逸らす。
「暴言とか。」
「ない。」
「色仕掛けとか。」
「・・・された覚えはない。でも魔力は流された。」
「それ授業じゃん!その後体調に変化は?」
「・・・・なかった。」
民衆がざわついた。
アルベルトは居心地悪そうに舌打ちする。
元ヒロインはニヤニヤ笑いながらノアを指差した。
「ノアくん!」
ノアは困ったように眉をひそめた。
「ノアくんに好意を持って近づこうとした?」
「彼女は・・・・仲良くなろうと努力はしてました。」
「うんうんそれで?」
「それでも・・・僕たち6人のことは・・・避けてたと思う。」
「へぇ。」
「じゃあ自分から好意を持って近づくことはなかったんだね。」
「・・・・少なくとも・・・僕は、そういう印象は受けてません。」
ノアは段々声が小さくなっていく。
自分たちの認識が崩れていく感覚があるのだろう。
元ヒロインは次にセドリックを見る。
「セドリックくんは?」
セドリックはしばらく沈黙した後、重い口を開いた。
「親しい訳ねーだろ。」
「会話は?」
「ほとんどしてねぇ。」
「リリアの問題行動は?」
「・・・・・・盗作。」
「それとこれとはまた別!目の前で暴力・暴言・盗み・恐喝これらをリリアがやった姿を見た?」
「・・・それは、見てない。」
民衆がどよめく。
元ヒロインはさらに踏み込む。
「じゃあなんで危険人物扱いしてたの?」
セドリックの眉が苦々しく歪む。
「それは・・・カテリーナ様が・・・泣いて・・・。」
セドリックの言葉が止まる。
元ヒロインは最後にルイスを見る。
「ルイスくんはどう?」
ルイスは俯いて震えていた。
「・・・姉上が、警戒していたから。」
声が少し震えている。
「姉上は昔から正しかった。誰より努力して・・・結果を出してきた。だから僕は・・・姉上を信じた。」
その言葉には迷いがあった。以前のような確信ではない。
ルイスは苦しそうにスクリーンに映るリリアを見た。
元ヒロインは大げさに驚いてみせる。
「えっ、じゃあリリアさん結局何もしてなくない!?」
観客席から困惑混じりの声が漏れる。
「・・・本当に。」
「発言通りなら危険なことは何もしてないぞ。」
「むしろただ疑われてただけでは・・・?」
元ヒロインはビシッと空中を指差した。
「はい、ここ大事ー!リリア・ナーシアス!攻略対象と特別親しくありません!誘惑してません!犯罪してません!でも危険人物扱いされました!」
会場が静まり返る。
そして元ヒロインは、ゆっくり口角を上げた。
「リリアって、実際何が悪かったのかなぁ?」
誰も答えない。
「乙女ゲームの主人公だったこと?攻略対象達に近づく可能性があったこと?」
リリアの受けた理不尽の一片を、民衆は感じ初めていた。
「何もしてないけど将来危険かもしれないから排除しようって話なんだよね。怖くない?だってそれ、まだ罪を犯してない人間を裁いてるってことだから。」
観客席の一角で、誰かが小さく呟く。
「魔女狩りみたいだ。」
元ヒロインは指を鳴らす。
「そう!本人が何をしても悪く見える!何もしてなくても裏があるって言われる!」
元ヒロインは肩をすくめた。
「詰みゲーだよねぇ。」
ライアスが苦しそうに目を伏せる。
「・・・俺達は。」
掠れた声。
「カテリーナを守りたかった。だから、最初からリリアを“そういう存在”として見ていた・・・。」
元ヒロインは頷く。
「うん。だって皆、リリア本人を見てなかったからね。」
カテリーナの言葉。乙女ゲームの知識。未来の情報。
それらを通してしか、リリアを見ていなかった。
「リリアさん可哀想・・・。」
「やりすぎだよね・・・。」
女性達がリリアを思って泣きそうな顔になる。




