21.嫌われた理由〜元ヒロイン2〜
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【リリア・ナーシアスはなぜ嫌われたのか?】
会場の空気が変わった。
元ヒロインはニヤリと笑う。
「ここ、すっごく大事だからね~。だって人って、集団心理で悪にでも正義にでもなる生き物だから。」
元ヒロインは指を一本立てる。
「まず嫌われた理由一つ目!“リリア・ナーシアスが、実際に現れたから”乙女ゲームの登場人物と同じ名前、同じ容姿、同じ立場。偶然にしては出来すぎてた。」
リリアは平民出身の少女。
王立学園へ編入し、王太子や攻略対象たちと出会う。
それは、カテリーナが語っていた“乙女ゲームの主人公”そのものだった。
「だから皆、本当に未来と同じようになるって思い始めた。」
未来を言い当てる人間ーーカテリーナがいる。
しかも、その“予言”通りの少女まで現れた。
疑いは、少しずつ確信へ変わっていく。
今度は二本目の指を立てた。
「そして二つ目!カテリーナさんには、“実績”があったから!」
元生徒達はうんうん頷く。
「飢饉対策、領地問題、貴族同士の揉め事、商会との交渉・・・カテリーナさんは実際に色んな問題を解決してきた。」
カテリーナはただの夢見がちな少女ではない。
結果を出してきた人間だった。
だからこそ、周囲は耳を傾けた。
「人ってね、正しいことを言う人じゃなくて、実績のある人を信じるんだよ。」
元ヒロインは皮肉げに肩をすくめる。
「しかもカテリーナさん、頭も良くて話も上手かった。言葉に説得力があったんだよね~。」
もしこれが、何の実績もない人間の妄言だったなら。
誰も本気にはしなかっただろう。
だが違った。
優秀で、有能で、多くの人間を助けてきた少女が語ったからこそ皆は信じたのだ。
「つまり。」
元ヒロインは笑みを消す。
「カテリーナさんの“信じられる土台”が、もう完成していたからリリアは存在するだけで嫌われた。」
実績のある人間の言葉。実際に現れた“証拠”積み重なった偶然。
それらが合わされば、人は簡単に真実らしきものを信じてしまう。
元ヒロインはゆっくり歩きながら続ける。
「しかも厄介なのがね~、最初から全員がリリアを嫌ってたわけじゃないってこと。」
元生徒や王都の人間の何人かがハッとした顔をする。
「むしろ最初は、普通だった。平民出身で戸惑ってる可愛い女の子。助けてあげたいって思ってた人も沢山いた。人の印象って、先入観でどんどん塗り替わるんだよ・・・例えば、偶然攻略対象と廊下で会った。本来ならそれだけのこと。」
元ヒロインは大袈裟にため息をつく
「『この子は男を誘惑する主人公だ』って先に聞かされてると、全部そう見えてくる。」
ざわり、と空気が揺れた。
「笑いかけただけで『媚びてる』。相談しただけで『男を利用してる』。助けられただけで『狙ってる』。」
元ヒロインは冷めた目で言う。
「怖いよねぇ。事実じゃなくて、そう見えるだけで罪になるんだから。」
誰かが、小さく息を呑んだ。
「しかもカテリーナさん自身は、最初から露骨にリリアを追い詰めたわけじゃない。だから余計に厄介だった。」
元ヒロインとカテリーナの視線が合わさる。
「カテリーナさんは直接リリアを潰せなんて言っていない。未来を知っている者として忠告のように周囲にリリアを警戒するように伝え、時には涙を使ってリリアに怯えたふりをしただけ。」
「怯えたふりなんてしてないわよ!」
カテリーナの言葉に元ヒロインは鼻で笑った。
「そして周囲は、リリアを警戒し排除することを正義だと思い込んだ。」
元ヒロインは民衆を見渡す。
「――これが、集団ってやつ。」
元ヒロインが肩をすくめる。
「でも!カテリーナ様が動かなかったら、カテリーナ様は破滅していただろ!」
セドリックが強く発言する。
元ヒロインは、待ってましたと言わんばかりに指を差した。
「そこなんだよ!」
会場に響く声。
「君たち、カテリーナさんがどうやって破滅するのかちゃんと聞いた?」
5人の攻略対象たちは答えない。
だが、その表情は徐々に変わっていく。
今まで確信していたはずのものに、小さな綻びが生まれていた。
攻略対象たちは漠然とした未来の流れは知っていたが、破滅した詳細を知らせれてなかった事に気付いたのだ。
「リリアの存在がトリガーになったのかもしれない。そこはいい。」
元ヒロインは真っ直ぐに6人を見る。
「でもさぁ、なんで破滅するの?なんで国外追放になるの?」
民衆がざわつき始めた。
国外追放。
それは貴族令嬢に下される罰としては、極めて重い。
些細な嫉妬や口喧嘩程度で下されるものではない。
元ヒロインは突然ライアスを指差した。
「はいライアスくん!」
「君が婚約破棄をカテリーナさんに突きつけるとしたら、どんな時?」
「5秒以内に答える!」
突然の指名にライアスが目を見開く。
元ヒロインは容赦なく数え始めた。
「いーち、にー、さーん――」
会場の空気が張り詰める。
「よーん――」
4秒目。
ライアスがようやく口を開いた。
「・・・人の道を外れた時、だ。」
元ヒロインが満面の笑みを浮かべた。
「それだよそれ!!」
パンッ!と手を叩く。
「悪役令嬢は、人の道を外れたんだよ!」
そして今度は、ゆっくりカテリーナへ顔を向けた。
「じゃあカテリーナさん。」
その笑顔は妙に明るいのに、空気だけが冷たい。
「乙女ゲームで、ライアスくんと仲が良かったリリアに何をやって国外追放されたの?」
「5秒以内に答えないと――」
元ヒロインは、自身の首を指さす。
「カテリーナさんも、セドリックくんが着けた首輪、着けたい?」
「ひっ!」
カテリーナの顔が青ざめる。
元ヒロインは再び数え始めた。
「いーち、にー、さーん――」
カテリーナの唇が震える。
何か言おうとして、言葉にならない。
「よーん――」
追い詰められたように口をぱくぱくさせる。
「ご――」
「リリアを・・・殺そうとしたから・・・!」
会場が凍りついた。
元ヒロインは即座に聞き返す。
「どうやって?」
「人を雇って・・・毒を盛ろうとしたから・・・。」
沈黙。
重く、冷たい沈黙だった。
観客たちは初めて理解したのだろう。
“女神のように優しいカテリーナ”。
そのイメージが、乙女ゲームの話とはいえ音を立てて崩れていく。




