20.前説〜元ヒロイン1〜
黒髪黒目のリリアーー元ヒロインはニヤニヤと笑う。
「リリア!どういうつもりだ!皆んなを元の場所へ戻してくれ!」
元ヒロインはライアスを睨む。
「元ヒロインだっつってんだろ。首輪つけたい?」
「・・・っ!すまない元ヒロイン。」
ライアスは言いたい事を飲み込んで押し黙った。
元ヒロインがニヤニヤと笑う。
「先に皆様へ説明しなきゃだったねぇ。」
元ヒロインが楽しそうに指を鳴らす。
スクリーンの文字が切り替わった。
【皆様をここに呼んだ理由】
コロシアム中がざわつく。
元ヒロインはコロシアム全体を見渡した。
「関係ある人も関係ない人もいるし、なんの関わりもない人もいるから説明するねぇ。」
軽い口調。
まるで遊びでも始めるような声だった。
「皆、最近思わなかった?なんか国、貧しくなってない?って。」
観客席がざわつく。
「・・・!」
「それは・・・!」
民衆が顔を見合わせる。
「最近輸入品が全然入らねぇんだ!」
「物価も上がってる・・・。」
「日照りの影響だけじゃないって話だったよな・・・。」
元ヒロインはニコニコ頷く。
「そうそう!」
そして、ゆっくりライアス達6人を指差した。
「それねぇ。」
笑顔のまま告げる。
「ここにいる6人と、王都に住んでた人達が関わってるんだ。」
6人の肩がびくりと揺れる。
民衆の視線が中心にいる6人に集まる。
「え?」
「王都の人間?」
「真ん中にいる6人が?」
「王太子に王太子妃もいるぞ!」
「あの人達のせいなの?」
ざわざわざわざわ。
元ヒロインは構わず続ける。
「なぜなら1人の少女から、全部奪ったからなんだぁ。」
元ヒロインの笑みが少しだけ冷えた。
「リリア・ナーシアスって女の子から。」
6人の顔色が変わる。
観客席の元生徒達もの顔色も変わる。
元ヒロインは静かに言った。
「居場所・名誉・尊厳・未来。」
スクリーンに映像が映る。
石を投げられるリリア。
泣きながら歩くリリア。
母親と共に王都を彷徨うリリア。
「全部奪ったんだ。」
その声は、先程までの軽さが無かった。
「だから帝国は怒ったんだ。」
ざわり、と空気が揺れる。
「帝国はリリアの味方だからねぇ」
ライアスの顔が強張る。
嫌な予感しかしない。
元ヒロインは楽しそうに続ける。
「だからリリアを傷つけたこの国にジワジワと圧力をかけたんだ。」
民衆が息を呑む。
【日照り】【輸入停止】【商人の撤退】【技術提供の拒否】【優秀な人材の引き抜き】
次々とスクリーンに文字が浮かぶ。
観客席から悲鳴のような声が漏れた。
「そ、それ全部・・・。」
「帝国が・・・?」
元ヒロインはにっこり笑う。
「小さな復讐としてね。」
ノアが思わず叫んだ。
「あれのどこが小さな復讐なんですか!!」
コロシアムに声が響く。
元ヒロインはきょとんとした顔をする。
「え?」
本気で不思議そうに首を傾げた。
「戦争してないよ?」
その瞬間、民衆が息を飲んだ。
元ヒロインはケラケラ笑う。
「本気ならとっくに国ごと潰してるって!」
ノアの顔から血の気が引く。
ライアスも唾を飲み込んだ。
この女の力なら本気でこの国を潰せるだろうと説得力が何故かあった。
ライアスは歯を食いしばり、元ヒロインを睨みつけた。
「復讐なら!」
怒鳴るような声がコロシアムに響く。
「直接俺達にすればいいだろ!」
元ヒロインは数秒ぽかんとしたあと。
ぷっと吹き出した。
「わかってないな~!」
呆れたように肩を竦める。
「リリア・ナーシアスの復讐はそんな簡単な物じゃない。」
ライアスの眉が寄る。
「・・・何だ。」
元ヒロインの笑みが深くなる。
「真実の解明と公表が先だよ。」
「真実?」
ライアスが掠れた声を出す。
元ヒロインはゆっくり頷いた。
「君達が・・・いや、そこの悪役令嬢が隠した真実の解明。そして公表。」
その瞬間、カテリーナの肩がびくりと跳ねた。
元ヒロインはその反応を見逃さない。
ニヤリと笑う。
「おやおやぁ?今、すっごく分かりやすく反応したねぇ。」
観客席の視線が一気にカテリーナへ集まる。
カテリーナは顔を青くした。
「ち、違うわ!」
震える声。
「私は何も隠してなんか——」
「じゃあ何で怯えてるの?」
元ヒロインが即座に切り返す。
カテリーナの言葉が止まる。
観客席がざわめき始めた。
「やっぱり何かあるのか?」
「隠してたって事・・・?」
元生徒達も不安そうな顔になる。
「え・・・。」
「でもカテリーナ様は被害者で・・・。」
元ヒロインはクスクス笑う。
「そうだよねぇ。皆、ずーっとそう思ってたもんねぇ。」
その笑みが冷たくなる。
「でも本当にそうだったのかな?」
スクリーンに映像が映し出される。
泣いているカテリーナ。
それを慰めるライアス達。
その裏で一人で責められているリリア。
元ヒロインは静かに言った。
「皆、『悪役令嬢が可哀想』って信じた。だから誰も、リリア・ナーシアスの話を聞かなかった。」
元ヒロインは楽しそうに6人を見渡した。
「だから今から皆の前で全部暴いていくんだよ。」
その宣言に6人の背筋を、冷たい汗が流れ落ちた。
「もう一つ、リリア・ナーシアスを知る上で欠かせないのが——」
元ヒロインが指を鳴らす。
スクリーンの文字が切り替わった。
【乙女ゲーム】
ざわり、と観客席が揺れる。
聞き慣れない単語に民衆が困惑する中、五年前の元生徒達も強く反応する。
「あ・・・。」
「その話か・・・。」
元ヒロインはニヤニヤ笑う。
「説明係は王太子くんね~。」
ライアスは苦い顔で口を開いた。
「・・・乙女ゲームとは、カテリーナが語った“未来を知る物語”だ。」
観客席がざわつく。
「未来?」
「予言書みたいなものか?」
ライアスは続ける。
「その物語では、カテリーナは“悪役令嬢”として描かれていた。そしてリリア・ナーシアスは“主人公”で“ヒロイン”だった。」
民衆から驚きの声が上がる。
「主人公?」
「あそこに映る女の子が?」
スクリーンに映るピンクの髪と目の美少女を幾人もの民衆が指さす。
「主人公であるリリアは、攻略対象と呼ばれる男達と親しくなり、最終的にカテリーナは婚約破棄と国外追放をされる・・・そういう内容だった。」
ライアスの説明に元ヒロインがケラケラ笑う。
「恋愛ゲームって面白ーい!ちなみに攻略対象っていうのは~・・・。」
ライアス達男性5人を指差す。
「この人達ね!」
観客席がざわつく。
「この設定を忘れないでね~後でテストに出まーす・・・なんてね!」
乙女ゲームの説明を王太子から受け、初めてその言葉を聞いた民衆たちは顔を見合わせた。
「なんだそれ。」
「それが何故、リリアって子の全てを奪うことに繋がるんだ?」
「そんな話を信じたってことか?」
「・・・いや、普通に意味が分からないだろ。」
困惑と疑問が広がっていく。
それは当然だった。
未来が分かる?運命が決まっている?誰かが“悪役令嬢”で、誰かが“主人公”“ヒロイン”?
そんなもの、普通の人間なら簡単には信じない。
ざわつく会場を見渡しながら、元ヒロインは満足そうに笑った。
「そうそう!まともな人なら疑問に思うよね!」
そして、パンッと手を叩く。
「そこで最初のテーマはこれだっ!」
空中に映像のように文字が浮かび上がる。




