19.コロシアム〜????〜
巨大なコロシアムの中は、貴族も騎士も民衆も関係なく、ただ一つの空間に押し込まれた人間たちが混乱している。
叫び、怒鳴り、祈り、泣き声が入り混じり、まるで世界そのものが崩れたようだった。
「何だここは……!」
「魔法か!?攻撃か!?」
「家族はどうなったんだ!!」
あちこちでパニックが爆発していた。
その中でライアスは気づく。
自分の周囲にいる顔ぶれ。
「・・・まさか。」
見覚えのある顔。
王都学園で共に学んだはずの貴族令息、令嬢、騎士の子息たち。
「・・・・同じ世代の人間ごとに分けている?」
5年前、学生だった者たちがライアスの周りに集められていた。
「ライアス!!」
声が飛ぶ。
人の波をかき分けて、セドリックが走ってくる。
「何が起きてるんだ!?これは敵襲か!?それとも帝国か!?」
ライアスは周囲を見渡しながら答える。
「私にも分からない・・・だがカテリーナも、息子のライアンも・・・どこかにいるはずだ。」
視線を動かす。
叫び声の中に紛れて、必死に探す。
その時だった。
『皆様お静かに~!』
再び響く、あの声。
若い女の声。
しかし今度は、圧倒的に場を支配する響きを持っていた。
ライアスは一瞬、呼吸を止める。
「(この声・・・どこかで・・・。)」
記憶の奥がざわつく。
そして——
光が弾けた。
気がつけばライアスは、コロシアム中央に立っていた。
「・・・っ!?」
セドリック、ノア、ルイス、アルベルト。
そして——カテリーナ。
6人が同じように、中央へと引き出されていた。
さらに、彼らの頭上。
空中に、巨大な“四つの光の画面”が現れる。
そこには、それぞれの顔が映し出されていた。
「な、なんだこれは・・・!!」
ライアスの声が響く。
「魔法か!?それとも幻術か!?」
セドリックが剣を抜く。
「こんな魔術、見たことねぇぞ・・・!」
アルベルトは唖然とする。
「理論的に・・・存在しない・・・。」
ノアは青ざめたまま空を見上げる。
その中でただ一人、別の反応をした者がいた。
「スクリーン・・・?」
カテリーナだった。
その目は恐怖ではなく、理解の断片に揺れていた。
「スクリーン・・・?どうしてここに・・・?私が、頼んでも・・・作れなかったはず・・・。」
震えた声。
ライアスが振り向く。
「カテリーナ・・・知っているのか?」
だが彼女は答えられない。
ただ混乱と恐怖と、言葉にならない違和感だけが積み重なっていく。
「では始めましょうか。」
再び、若い女の声。
そして空間全体が静まり返る。
コロシアムの中心。
逃げ場のない円のど真ん中で——
何か大変なことが始まろうとしていた。
「皆様ようこそお越しくださいました“真実と解明の場”へ。」
女の声が、コロシアム全体に響く。
その瞬間、ざわついていた民衆が一斉に黙り込んだ。
まるで従わなければならないと本能が理解したかのように。
ライアスは顔を強張らせる。
「(……支配系の魔法か?いや、それだけじゃない。)」
空中に、黒い影が浮かんでいた。
全身を覆うフード。
顔すら見えない。
だがその存在感だけが、異様なモノがそこにあると認識させてくる。
「わたくし、帝国の魔塔主でございます。」
「帝国だと!?」
セドリックが即座に声を上げた。
「ふざけんな!帝国の仕業かよ!今すぐ戻せ!ここから出せ!」
セドリックの叫びが響いた直後。
セドリックの首に、光の輪が現れた。
「・・・っ!?」
次の瞬間。
「ギャアアアアアアアア!!!」
絶叫。
セドリックの体が跳ねるように崩れ、床に転がる。
首の輪は、まるで意思を持つように電気を流しながら締まり続けていた。
スクリーンに浮かぶ映像には、セドリックの苦悶の姿が大きく映し出される。
「いやっ……!」
「何これ……!?」
貴族の令嬢たちが悲鳴を上げる。
「静かにしないと、同じ目に遭いますよぉ。」
淡々とした声。
しかしそこには一切の情もない。
直後、悲鳴は途切れた。
誰もが、自分の口を両手で塞ぐ。
息を殺す音だけが広がった。
セドリックは涙と涎でぐちゃぐちゃになった顔のまま、空中の存在を睨みつけている。
怒りと恐怖が混ざった目。
ライアスは唇を噛む。
「(・・・勝てない!刺激した瞬間終わる!)」
カテリーナは震えあがり。
アルベルトとルイスは魔法攻撃をしようとしたが即座に止めた。勝てないと本能で分かったからだ。
ノアは青ざめ理性で状況を計算しようとしていたが、答えが出ない。
その時だった。
「さて、ここからが本題です。」
フードの人物がゆっくりと手を上げる。
「皆様には、私のことをこう呼んでいただきます。」
空気が張り詰める。
フードが外れた。
そこに現れたのは、黒髪黒目の女。整いすぎた顔立ち。
しかしその目には、感情の温度がない。
誰かが息を呑む。
そして、その瞬間。
「・・・リリア。」
ライアスが、無意識にその名を呟いた。
声は小さい。
だが、静まり返ったコロシアムにははっきりと届いた。
ルイスの表情が凍る。
目の前の女は、ゆっくりと民衆へ視線を向けた。
「私を《《元ヒロイン》》と呼んでください。」
黒髪黒目の“リリア”の顔をした存在の声が、コロシアム全体に落ちた瞬間。
誰一人として、次の言葉を発することができなかった。




