17.誰の責任?〜悪役令嬢3〜
「私は知らない!!知らないわ!!」
カテリーナは後退りしながら叫ぶ。
「だって私はただ・・・破滅したくなかっただけ!!嫌われたくなかっただけ!!」
その叫びは、正当化ではなく恐怖だった。
責任から逃げるための必死の否定。
「全部ルイスよ!!私じゃない!!」
その言葉に、ルイスの表情が消える。
そしてその直後。
「それに・・・あんた達うるさいのよ!!」
カテリーナは怒鳴った。
空気が跳ねる。
「新しい発明!発明!!全部私に押し付けて!!何かあったら私に頼って!!うるさいのよ!!」
机を叩く音が響く。
「どいつもこいつも!!私を便利な頭脳みたいに扱って!!」
ライアスが低く言う。
「落ち着け、カテリーナ。」
「うるさい!!」
即座に返される。
「王太子が何よ!!騎士が何よ!!商会が何よ!!」
叫びは止まらない。
「全部私!!全部私がやるのが当然みたいに!!」
誰も否定できなかった。
少なくとも一部は事実だった。
だが今は、それが本質ではない。
「私は悪くない!!」
カテリーナは涙目で叫ぶ。
「知らない!!ルイスが勝手にやった!!」
その言葉に。
ルイスが小さく笑った。
乾いた笑いだった。
「ははは・・・姉上、姉上の為だったんだけどなぁ・・・。」
敬愛する姉に見捨てられたことに胸を痛めるルイス。
「私は悪くない!」
ライアスはただ、カテリーナを見ていた。
確かにカテリーナはルイスに娼館に送れなど命令していない。
だが、ルイスの行動原理は全て姉のカテリーナが関わっている。
ルイスの暴走はカテリーナにも原因があるのは明白だった。
今まで尽くしてきた弟を見捨て、その責任から逃れようとする姿にライアスの心に変化が現れる。
なんだか目の前にいる妻が、ただの愚かな女に見えた。
そして彼の脳裏には。
ずっと、泣いていたピンク髪の少女の顔が離れなかった。
『どうして・・・私、何もしてないのに・・・。』
ライアスは静かに目を伏せる。
「最初から悪と決めつけず・・・もっと彼女の話を聞いていればよかったかもな・・・。」
その言葉が落ちた瞬間、応接室の空気が変わった。
誰もが動かなかった。
ライアスの一言のあと、しばらく沈黙が続いた。
セドリックが歯を食いしばる。
ノアは視線を落とす。
カテリーナは荒い呼吸のまま、その場に立ち尽くしている。
ルイスだけが、ぼんやりと壁に寄りかかていた。
「・・・何よ、それ。」
カテリーナが震える声で言った。
「今さら・・・今さらそんな事言って何になるのよ・・・!」
ライアスは答えない。
その沈黙が、逆に全てを肯定していた。
「私のせいじゃない!あの女が娼館に送られたのは私のせいじゃない!私は悪くない!!」
カテリーナは叫ぶように繰り返す。
だがその声は、もはや誰にも届いていなかった。
「姉上。」
ルイスがゆっくり口を開いた。
「もう・・・全てが遅いんです。」
カテリーナが一瞬怯む。
ルイスは静かに続けた。
「彼女は死にました。」
「・・・は?」
ノアの声がかすれる。
ライアスは目を見開いたまま動かない。
セドリックの目も見開かれる。
「娼館に送られた後、伝染病で・・・・母親も含めて、そこで終わりました。」
沈黙。
音が消える。呼吸すら重くなる。
セドリックが低く呟く。
「・・・死んだ?」
拳が震えている。
怒りの行き場が、わからなくなるほどの事実だった。
ノアは椅子に手をつき、息を整えることすらできない。
「そんな・・・。」
ライアスはゆっくりと視線を落とした。
脳裏に浮かぶのは、校舎の玄関前。
泣きそうな顔で立っていた少女。
そして、追放の時に誰も止めなかった光景。
「死なせるつもりはなかったの!」
カテリーナが叫んだ。
空気が跳ねる。
涙と怒りと恐怖が混ざった声だった。
「私は・・・・ただ!追い出せばいいと思っただけ!!死なせるつもりなんてなかった!!ルイスがやったの!!私は頼んでない!!」
必死だった。
必死に“罪”を軽くしようとしていた。
だが、セドリックが冷たく言う。
「結果は死だけどな。」
カテリーナの声が止まる。
ルイスは何も言わない。ただ静かに、その場を見ていた。
全員リリアが学園から居なくなればいいと思っていた。
だが、死までは望んでなかった。
ライアスはゆっくりと目を閉じる。
『どうして、私・・・何もしてないのに・・・。』
リリアは死んだ。娼館に送られて。
ただ、一人の少女の結末だけが、皆んなの脳裏に深く刻まれた。




