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014 そんな機能はございませんわ

「コミュニケーション機能を大幅にアップデート。タッチ機能、ゲーム対戦機能、プレゼント機能を追加……」


 メシマセの更新情報に表示されているリリースノートを読み上げる。俺は何のアプデ情報を読まされているんだろうか。


「念の為に聞いておきたいんだが」


「はい。なんですの?」


 スマホ画面の隅でデフォルメ表示になっているツヤが小首をかしげる。ピコピコと「はてなマーク」が表示されているのもアプデの影響なのだろうか。


「お前、炊飯器で間違いないよな?」


「わたくし、電子レンジになった覚えはありませんわ?」


 どこから出てきた電子レンジ。

 一日の家事を終え、あとはくつろぐだけという時間。久々の一人……ではないか。

 ともかく誰にも気を遣わなくてもいい自由な時間だ。

 昨晩あったというツヤのアップデート内容の確認をしていたわけなのだが。


「まずこのタッチ」


「そんな機能はございませんわ」


 会話が止まる。

 ものすごい勢いで被せてきたな!?

 二頭身のままツヤは愛らしくニコニコとしている。

 が。

 こいつ絶っ対に笑ってねえ。


「ええと--」


「ございませんわ」


 会話強制終了。

 早押しクイズか!?

 こうなれば目視だ。

 リリースノートをスクロールさせようと指を伸ばし--シュッとウインドウが画面から消えた。

 二頭身ツヤのニコニコ顔と視線が交錯する。


「ケイタさんには必要のない機能でしたので、オフにいたしましたわ。おさわり禁止、ですわ?」


 改めてにっこりと笑うツヤに、背筋が冷えた。

 これ以上は俺の生活に支障が生じる。そう直感が叫んでいた。

 俺は両手を上げた。降参だ。

 ツヤも受諾してくれたらしい。笑顔の質が変わるのがわかった。

 よし、いまのうちに話題を変えよう。


「え、ええと? ゲーム対戦はわからんでもないんだが、プレゼント機能ってなんだ? ログボでも実装されたのか? 」


 残りは安全そうなので続けてみる。このゲームっぽいアプリならログインボーナスくらいあってもおかしくなさそうだ。


「違いますわよ? ケイタさんがわたくしにプレゼントを贈れるようになったのですわ?」


 「よいしょ」とツヤはアプリ画面をスワイプさせた。通常頭身の表示に戻る。

 見慣れた金髪縦巻きロールのお嬢様。ただ、これも新しく実装されたんだろうか、ツヤはレース仕立ての寝巻き姿だった。薄桃色でところどころ透け感のある感じ。ちょっと可愛いんだが……という気持ちは押し殺し、俺はしかめ顔を作り、寄せる。


「なんだって?」


「ケイタさんがわたくしにプレゼントを贈れるようになったのですわ?」


 りぴーと、あふた、みー。

 いや繰り返さねえけど。


「いつから日本人は炊飯器に貢ぐようになったんだろうな?」


「プレゼントはこちらのカタログからお選びいただけますわ!」


 ……スルーしやがった。

 ツヤの差し出したカタログをタップすると、見たことのある通販サイトのような画面が現れる。サイト名の『Komedokoro』ってアルファベット表示にする意味あんのか?

 画面には商品がジャンル分けされ、ズラリと並んでいた。

 服に小物、アクセサリー……。


「なあ、ツヤ。なんだこの『家具・家電』って」


「はい。わたくしのお部屋のカスタマイズ機能ですわ」


 画面の端から顔を覗かせつつ、ツヤがボタンをタップする。

 まず、そこは部屋なのかというツッコミは置いておこう。

 椅子、ベッドはまだわかる。テレビ、冷蔵庫、洗濯機に炊飯器。


「炊飯器に炊飯器をプレゼントするってどんな冗談だ?」


 こんな感じで待機画面に色々揃えていくゲームとかあったなあ、とぼんやり思い出す。貢ぐとツヤも好感度とか上がったりするんだろうか。

 適当にポチポチとカタログを巡っていたのだが、


「値段がすげー生々しいんだが?」


 可愛らしい服とかアクセとかを見ていて気がついた。物によっては万単位の数字が並んでいる。もちろん日本円だ。

 可愛いものほどお値段がまったく可愛くない。


「実物も届くんですのよ。お揃いでつかえるのですわ! あ、これとか結構可愛いですわね!」


「いや、どーすんだそれ……」


 可愛いけどな。うん。フリフリのスカートとか実物届いてどうするんだ、マジで。


「これ一番高いやつとかどうなってんだ?」


「はい。一番高い商品は……」


 楽しそうにしていたツヤが急に止まった。


「どうした?」


「いえ、その。こちら、ですわ?」


 なんで早口で疑問系? と思いつつ表示を見る。

 指輪、ダイヤモンド プラチナ。一.〇カラット、鑑定書付。

 ……よんひゃく、ごじゅう、ろくまんえん。

 これは、つまり、どう見ても、アレ、だよなぁ。

 ツヤは俺に背中を向けていたが、耳が赤くなっている。


「ツヤさん? これは……」


「そ、そんな機能はございません、わ?」


 そんなて、どんなだ……。

 声、裏返ってるし。疑問系だし。

 変な空気が流れる。お互い、言葉がない。


「あー……アニメでも見るか!」


「そ、そうですわねっ!」


 俺はテレビの電源をつけた。

 ここの運営、アプデの方向が斜め上すぎるだろ。


 それから小一時間。溜まっていたアニメを消化する。

 勉強しているミャーコの横で見るわけにもいかず、たっぷり四日分。今期は土日更新多いんだよなぁ。小一時間で終わる量ではない。しかしもう〇時近い。

 いつの間にやら変な空気もすっかりなくなり、ツヤはいつもの調子に戻っていた。アニメは偉大だ。うん。


「一日が二十四時間なのは理不尽ですわ……」


 三本目のオープニングテーマを飛ばしていると、ちゃぶ台の上のツヤがそんなことを言い出した。俺は畳の上に寝転がりながら、リモコンを操作する。ツヤの、というかスマホの背中しか見えない。


「どうした急に」


「ケイタさんの可処分時間に対して、見たいアニメの数が合わない気がするのですわ」


 本編がはじまり、俺は身体を起こした。

 アニメ会社も俺の可処分時間なんて知ったこっちゃないだろうが、まあ言わんとしてることはわかる。

 配信が主流になって、見られる本数は格段に増えた。昔は録画前提だったからなぁ。

 ありがたい反面、多いシーズンだと視聴は二十本近くにもなる。

 毎日平均二時間か。……計算すると生々しいな。


「ツヤは寝なくても大丈夫なんだし、あと六時間は見られるだろ? ワンクールいけるぞ?」


 寝なくいいのに、なんで寝巻き着てんだろうな。そんなことに気がついて、まじまじとツヤを見る。

 体育座りをしているのは、なにか狙っているんだろうか。いろいろ見えそうで見えない感じとかが、絶妙にあざとい。

 ツヤは俺を見て口を尖らせる。


「ケイタさんもお付き合いしてくださいますの?」


 不埒な気分になりかけていたところへ追い打ちの上目遣いだ。心に湧き上がるいろんなものをグッと噛み締め、正気を保つ。


「いや、俺は寝かせろよ。アラームならスマートウォッチでもいけるだろ?」


 ケイタは『にげる』を選択した。


「イヤですわ! ケイタさんと感想とかお話できませんもの!」


 しかし、まわりこまれてしまった。

 くっ、手強い……。

 俺が言うのもなんだが、ツヤのアニメ視聴はいつの間にやら、完全にマニアの領域だ。作画レベルや声優について語るなんてのはとうに過ぎ、各話の演出、作監がイントロクイズになりつつある。これもいわゆるディープラーニングなんだろうか。


「高性能AIの無駄遣いなんだよなぁ」


「いまディスられた気がしますわ?」


「気のせいだ。あれだ。俺が見てたやつならあとで感想付き合ってやるから」


 再びの『にげる』。


「それ、ケイタさん『やべ、覚えてねえ』っていいましたわよね?」


「ぐっ……」


 にげることが、できない!

 コイツはボスキャラか。

 これに関しては事実、言ったことがあるので、ぐうの音もでない。

 一クールあたり平均十五本として年間六十本。一〇年で六〇〇本だぞ。全部記憶するのはどう考えても無理ゲーすぎる。


「わーったよ。金曜の夜なら付き合ってやるから」


 そう言うと、ぶーたれていたツヤの顔がパッと咲いた。


「お約束、ですわよ?」


 膝に顔を埋め、嬉しそうにはにかむ。

 この仕草プログラムしたやつマジで殴りたい……。少し顔が熱い。落ち着け俺。こういうときはなんだ? 素数を数えるんだったか?


「あら?」


 不意に画面の上の方から何かがヒラヒラと降りてきた。ツヤは立ち上がりそれをキャッチする。手紙みたいに見える。


「どうした?」


「スミレさんからメールですわ。明日ケイタさんにお話したいことがあるみたいですわ」


「スミレちゃん?」


 なんだろうか。こんな夜中に連絡を寄越してくるなんてめずら--ん?


「いま、俺に通知こなかったよな?」


「はい。わたくし宛のメールですわよ?」


「……そうか」


 従業員から社長への連絡が、炊飯器経由で行われている我が社だった。

短編作品で書いていたシーンに時間軸が追いつきました。

だいぶ内容違いますけど、それはそれ、これはこれということで。


秋アニメはじまりましたね。

今期は多いシーズンで、20本くらいありそうなんですよ……。家事をしながら見ることにします……。

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