表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

015 とりあえず半休ってことで、ひとつ

「今日も美味しそうなお弁当っすねー」


 恨めしそうな視線が弁当箱に刺さる。

 ツヤとスミレちゃんと、三人でテーブルを囲むいつもの昼休み。

 スミレちゃんのメニューはコンビニの新作カレーだった。名店コラボのチキンカレー。スパイシーな香りがなかなかに食欲を刺激してくる。が、そんな名店の誘惑もスミレちゃんの心には届かない。


「いいなぁー! いいなぁー! つやひめちゃんのお弁当ー!」


 茶色のポニーテールをぶんまわし、上へ下へと両手を振る。

 でっかい駄々っ子だな、おい。

 我が社のスーパーアルバイトは今日も平常運転だ。


 昨晩、わざわざ夜中にメールを送ってきたくらいだから、一大事かと思って待ち構えていたのだが……。出勤してきたスミレちゃんには、「あ、それ、あとででイイっすよー」と軽く流されてしまった。

 安心したというか拍子抜けしたというか。


「今日のお弁当は焼き鮭、にんじんのきんぴら、ブロッコリーに煮豆ですのよ。煮豆はスーパーのお惣菜をつめてお手軽ですわ」


 えへんと胸を張り、ツヤが本日のメニューを解説する。

 ブロッコリーはレンチン、にんじんと焼き鮭は今朝作ってきたものだ。結構綺麗に焼けたなと思う。なかなかに彩り豊かだ。うむ。よく出来た。


「いいっすねぇー。愛妻弁当とか。リア充爆発しろ!」


 目が怖いぞ、スミレちゃん。

 そして俺。愛妻とか言われて少し焦る。

 思わず視線がツヤを向き、目が合いそうになって慌てて逸らす。

 あーもう、何が悪いって昨日の四百六十五万円が悪い。

 平常心、平常心。


「既婚者になった覚えはねえよ。だいたいコレだって作ってんの俺だぞ?」


「まあ! そこは共同作業と言ってほしいですわ! あとご飯はわたくしが炊いてますわ!」


 ツヤさん? 当事者が嫁ネタ拾わないでいただけます?


「いいっすよねぇ、社長。朝からエプロン姿のつやひめちゃんに起こされて? イチャイチャしながらお弁当作って? アーンとかやりながら朝ごはん食べてるんすよねー」


「そんなわけあるか!」


 口調にトゲしか感じないんだが!?


「そうですわ! アーンとかわたくしできませんわ!」


 ツヤさん? もう少し否定するところありましたよね?

 半分くらいは合ってる気がする、とか思ったのは気の迷いだと思いたい。


「もうね、つやひめちゃん炊飯器出たら絶対買うっす!」


 決意の炎を瞳に宿すスミレちゃん。


「そういや発売日って決まってるんだったか?」


 モニターしてるわりにそこらへんの話、よく知らんな。ツヤは首を横に振る。


「三月予定までしか決まってないですわ。新生活応援セールに合わせてという方針ですの」


「なるほど……?」


 無茶苦茶なアプデばっかりぶっこんでくる運営のくせに、そういうところは真っ当な思考なのか。なんか釈然としない気分。

 スミレちゃんにはその情報でも十分だったのか、ググッと拳を握る。


「あと半年、死ぬ気でお金貯めるっす! ソシャゲの課金も我慢するっす! でも足りなかったら社長に借りるっす!」


「もう借りる気満々かよ。しっかしなあ……」


 俺は改めてツヤを見た。澄ました感じで椅子に座るお嬢様は、俺を見て小首を傾げる。


「高そうだよなぁ、お前……」


 素直な感想だった。

 ウチの会社の業績にも大いに貢献しているわけで。献立管理から家庭教師までこなす。こんなハイスペックな炊飯器、一体いくらで売るつもりなんだろうか。仮に値付けしろと言われても俺なら困るぞ。


「まだ正式な価格は決まってないのですが、十万円は切る予定ですわ」


「うん?」


 一瞬戸惑った。高いには高いが、高級炊飯器ならそれくらいするものはザラにあるし、それ以上するものだって珍しくはない。再度、まじまじとツヤを見る。


「お前、安くないか?」


 途端、ツヤのこめかみのあたりから「怒りマーク」が飛び出した。


「ケイタさん? 安い女みたいに言わないで欲しいのですわ」


 ツヤはジトっと眉を寄せる。


「社長、いまのはナイっす。セクハラっす。モラハラっす」


 スミレちゃんの冷ややかな視線も追加された。


「なんか理不尽なんだが!?」


 若い女子二人に取り繕ったように言い訳をするアラフォーのおっさんがコチラです。はあ……。


 昼休みは続く。BGMはお昼の情報番組だ。一足早いクリスマス特集。もうそんな季節か。年末年始は組合関連多いし、いろいろ面倒なんだよなぁ……。


「そういえば、つやひめちゃん以外にもAIさんいるんすよね?」


 半分くらい食べ進んだところで、スミレちゃんが話を振ってきた。


「ん? ああ、説明書には百種類とか書いてあったと思うぞ」


 説明書は初日に開いたきりだったが、ガチャ関連のページは記憶に残っている。ガチャ機能搭載炊飯器とか、印象強すぎるんだよ。


「他にはどんな子がいるんすか?」


「あーこのアプリ、リセマラ禁止でベータ版は課金未実装なんだよ。だからツヤ以外は俺も知らん」


 説明書にあったのは排出率だけで、キャラクターリストはなかった。たしかSSRは一.三パーセントとかだったか。


「つやひめちゃんは他の子のこと知ってるんすか?」


「はい。メンテナンス中はサーバーにみなさんいらっしゃいますので、先日お会いいたしましたわ」


 ん? なんだって?


「まじか、初耳だぞそれ」


「ケイタさん、何も聞かれませんでしたわよ?」


 ツヤはきょとんとした顔。いや、確かに聞いてないけどさ。


「メンテ中何してた? なんて聞くか?」


「あら、みなさんお休み明けに、帰省中のこととかお聞きになりませんの?」


「帰省扱いなのか、メンテって……」


 納得できるような、できないような。


「それでそれで、どんな子いるんすか?」


 スミレちゃんは興味津々。かくいう俺も結構気になる。ツヤは指折り数えはじめた。


「そうですわね。いろんな方がいらっしゃいますわ。『イケメンドS執事』さん、『ヤンデレJK』さん、『昼下がりの団地妻』さんに、『森のくまさん』さんとは仲良しですわ」


 うん。ちょっと待て。


「それ炊飯器に搭載するAIのラインナップじゃないだろ絶対。なんだよクマって」


 ヤンデレJKの作ったご飯も大概だとは思うが、炊飯するクマってなんだよ。あと「くまさん」までが名前扱いなのか……?

 しかし、「団地妻」と「タッチ機能」のコンボは製品版で両方とも実装されるんでしょうか。運営さま。

 くっ、こういう時のための課金なのか? 


「ちなみにつやひめちゃんはどんなカテゴリなんすか?」


「『お嬢様』ですわ」


 うん。ちょっと待て。


「さっきの奇天烈なラインナップのなか、ただの『お嬢様』がSSRってどうなんだ!?」


「あら? ケイタさんはわたくしのことなんだと思っていましたの?」


 う……ん? 改めて聞かれると、なんだ?


「つやひめだし、姫、とか?」


「ケイタさん、そのまんまですわよ?」


「安直すぎっすよ、社長」


 ツヤはクスリ。スミレちゃんには鼻で笑われてしまった。

 くそう、自分でもそう思ったよ!


「あ、てことは、他のつやひめちゃんと会ったりもしたんすか?」


 他のつやひめ? 2Pカラーみたいな? ツヤがたくさん集まっているのを想像すると、なかなかシュールだ。その発想はなかったな。

 そうか。そうだよな。他にもつやひめが--。


「いえ、いまのところ、つやひめはわたくしだけですわ」


「そうなんすか!?」


「そうなのか!?」


 スミレちゃんと声がハモる。


「はい。わたくしSSRですので」


 まじかよ……。コイツ一体何パーセントだったんだ?


「ぐぬぬ……社長! いくら! いくら課金すれば!?」


 ギリギリしながら身を乗り出すスミレちゃん。顔が怖いから! 血の涙でも流しそうだぞ。


「俺に聞くな! それに他のAIだっていいだろうが。百種もあるんだぞ?」


「よくないっすよ! なんすか、その、女なら誰でもいいだろ? みたいな!」


「誰もそんなこと言ってねえ! 」


「私はつやひめちゃんがいいんす!」


 なんだこの修羅場は!?

 するとツヤが困り顔で微笑んだ。


「わたくしたちはパーソナルアシスタントAIですから、ユーザーに合わせて個別に自己アップデートをするのですわ。ですから、もしスミレさんがつやひめをゲットされても、わたくしとは別のつやひめなのですわ」


 スミレちゃんがピタリ止まり、ツヤを見る。

 俺の視線もツヤに向かう。思考より口が先に動いていた。


「マジ……?」


「マジですわよ? わたくし、つやひめは、ケイタさんのツヤなのですわ!」


 ツヤは得意満面の笑顔だった。

 論理的には間違ってない。間違ってないんだが。なぜここで、ドヤるんだお前は……。

 思わず額に手を当てる。顔が熱い。

 と。

 ガタッと音がした。スミレちゃんが立ち上がったのだ。光が消えたうつろな瞳が冷たく俺を見下ろしている。


「あー、社長。私これから先週発売したリア充に爆弾投げつけるFPS買いに行ってきてもいいっすか。ダウンロードコンテンツに写真取り込み機能があるんで、写真も撮らせて欲しいんすけどいいっすよね。とりあえず半休ってことで、ひとつ」


「ひとつ、じゃねえよ。盛大に闇堕ちすんな!」


「だって! リア充が! ああ! わが社滅べぇえ!?」


 滅ぼすな!!

 髪を振り乱し、変なスイッチの入ったスミレちゃんは暴走状態だ。

 俺の手に負えんぞこんなの!


「ツヤ!! なんとかできないか!?」


「ええぇ!? わたくしですの?」


 スミレちゃんの変貌ぶりに戸惑っていたツヤだが、意を決したようにぐっと両手を握りしめる。


「……スミレさん! 本日の業後はスミレさんの好きなことにお付き合いいたします、わ?」


 勢いよく……尻すぼみになって最後に「?」までついたツヤ。

 暴走が、止まった。

 え、嘘だろ。


「デート! つやひめちゃんとデートっすね!!」


 そんなカードを裏返すみたいに、ころころ機嫌が変わるのか……。

 社員の知ってはいけない一面を見てしまったような気分だった。

秋らしくなりましたねえ。物語の季節にそろそろ追いついてしまいそうな感じです。

今回は八割方書いてから、なんかしっくりこないー! とうぬうぬしていました。

作者の納得感なんて八割は自己満足なんですが!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ