EP.08 ゴチになります
矢や槍ならともかく、火の球が飛んできた時にはさすがの豪も一瞬たじろいだ。
しかし、ゴーレムなので痛くも痒くも熱くもなくてひと安心。
(やっぱ魔法がある世界なんだな……)
ピコーン!
(は?)
感慨に耽りかけた豪を、現実に引き戻す聞き覚えのある音。
赤ゲージがちょっとだけ増えたのだ。
どうやら魔法攻撃を受けると、その魔力をも吸収するらしい。
このゴーレムの制作者、天才か!?
賢すぎるだろ。
(ははは、ここへ来て大正解だったな。魔物狩りしなくても回復できるじゃねえか)
豪は含み笑いが止まらない……気分だった。
実際のゴーレムは血まみれの無表情。
そこへ今度は氷漬け魔法だ。
凍って動けなくなったのにはさすがに驚いたが、豪はむしろワクワクしていた。
ピコーン!
(キターーーーッ!!)
今度は赤ゲージがほぼ倍の長さになった。
氷の魔法ゴチになります、と心の中で合掌。
一方、傍目には凍ったゴーレムに対してタコ殴り大会開催中。
ノーダメージ、ノープロブレム。
だが、動けないままというのも味気ない。
(ふんっ!)
全身に力を込めてみる。
パキッ!
バリンッ!
僅かに動いただけで、ゴーレムを覆っていた氷が一気に砕け散った。
(氷うっす!)
もう少しなにか芸がないと面白くないな、などと呑気な豪。
ふと我に返ると、周囲が騒がしかった。
「わあああああっ!!」
「動いたっ!!」
「氷が砕けたぞっ!」
「距離を取れっ!」
盗賊どもが騒ぎ立てているようだが、豪にはなにを言ってるのかサッパリ意味不明。
まさかと懸念していた事実がここで明らかになった。
異世界の言葉がまったくわからない。
オーマイガッ!
パキパキパキパキッ。
どうやらもう一度氷の魔法を放ったらしい。
また全身が氷に覆われた。
ピコーン!
(あざぁーっす!!)
豪はもう可笑しくて楽しくて仕方がない。
誰も傷つけず、タダで回復できるのだ。
こんなにありがたい、おいしい話はなかった。
言葉の問題は一旦棚上げしよう、うん、そうしよう。
(もうちょい我慢したら、あの人たちも逃げ切れるだろ)
さっき後退していった一団は、ズームしてももう見えない。
かなり森の奥の方まで行ったようだ。
なぜか盗賊どもも、追って行かなかったみたいだし。
逆に逃げた盗賊の仲間を追って行ったのはなぜなのか。
あの弓のヤツだけが不安要素だが、まぁ大丈夫だろう。
などと考えながらも、魔法を使うローブの男をじっと見る。
(今後のためにも、できればもう一回氷ほしいなぁ)
もはや目的が変わってしまっていた。
*
「おいベニー、もう一度やれ! オレが直接行く」
二度目の氷結が破られたところへ、三回目を指示すると、ドレイクは巨人に向かって走り出した。
「氷結!」
ベニーの魔法で巨人が三度氷漬けになる。
巨人の動きが完全に止まっているのを確認した上で――。
「うらぁッ!!」
高くジャンプしたドレイクが、愛刀の大剣を振りかぶって巨人の頭へ打ち下ろす。
ガギィィィン!!
物凄い音が響いて、盗賊の子分たちが身を竦める。
「ってぇなチクショウ。なんだってこんなにバカかてぇんだよ」
ドレイクが痺れた手を交互に振りながら、痛みに顔をしかめる。
凍った状態なら破壊できるかも、と淡い期待を抱いていたのが不発に終わってしまった。
「ちょっと待て、お前ら」
そのまま子分たちを制して、ドレイクは巨人の周囲を歩きながら観察する。
「どうしたドレイク」
ベニーもやってきた。
ドレイクとベニーは冒険者時代からの腐れ縁だった。
「コイツ、どうやって動いてるのかと思ってな」
「こんな時になに呑気なこと言ってんだ。倒せねぇってんなら時間の無駄だ。とっととズラかろうぜ。そろそろ魔力が心もとねぇ」
ベニーは魔剣士だが、どちらかと言えば剣の方が得意なのだ。
魔力量は普通の魔法士の半分ほどで、氷結が三発でおつりが少々あるくらいだった。
「いや、もうちょっと待ってくれ。コイツを手に入れてぇんだ」
「なんだって!?」
ベニーだけでなく周囲の子分たちも耳を疑った。
この血みどろ巨人を自分たちのものにすると、お頭は言ったのか?
それは恐ろしくもあり、魅力的でもあった。
ドレイクは諦めず、氷漬けになった巨人を入念に観察していく。
氷が邪魔だったが、それで動きを止めている以上文句は言えなかった。
「よし」
ドレイクは巨人の肩に跨ると、凍った頭をコンコンと叩き始めた。
コンコン。
「おい、聞いてるか? オレはドレイク。お前の味方だ」
ベニーはじめ子分一同、呆気に取られて固まる。
コンコン。
「おーい、聞こえてたら返事しろ。オレはドレイクだ。お前の名前は?」
お頭がいよいよおかしくなっちまった、と恐怖にかられる子分たち。
だが、ベニーだけは理解した。
また、ドレイクの悪いクセが始まったのだと。
「おい! やめとけって。さすがにそいつは無茶だ」
ダメなのはわかっているが、言わずにはいられないベニー。
その時――。
パキッ!
バリンッ!
ほとんど全員が危惧し、予測していたことがまさに起きてしまった。
――と思ったのも束の間、予想外の光景が目の前に。
血みどろの巨人がマッスルポーズを取っていた。





