EP.60 とべ! ゴーレム
[転生1200日目]
帰還したイボンヌたち一行を迎え入れ、ジャバ村は俄かに活気に溢れ出した。
村始まって以来の、外部からの入村者というのがひとつ。
村で最初に賢者修行に入ったイボンヌが、戻ったというのがひとつ。
そして、豪たちが山から戻ったのがひとつ。
三つの歓迎すべき出来事が一度に起こったのだから、盛り上がらないわけがない。
そしていつものように、歓迎の祭の準備が始まっていた。
*
「そうなの。キャシーは元気にしてるのね。それは良かった」
ちょうどイボンヌに、賢者の山でのことを話して聞かせていたところだった。
(おかげで、オレも真の能力に目覚めたってわけだ)
得意気に話す豪。
「真の能力ねぇ……」
なにやら意味ありげな表情で豪を見るイボンヌ。
広場の反対側では、ライナスとウサ子がノックノックやエリックと話していた。
二人の子供はというと、今まさに豪の両肩に乗っかったところだった。
「ゴーレム♪ ゴーレム♪」
左肩で、なにやら歌っているのが女の子のジョシー。
「ゴーレムって中に人が入ってるの? 入ってないならどうやって動いてるの?」
右肩で、延々と何かしゃべっている男の子がカル――っと。
そのポジションで語りかけられると、妙に懐かしい気分になる。
(やれやれ、この子たちと話が通じなくて助かった)
話せるとなったら、もう当分の間付きまとわれるのは明らかだった。
「そんなこと言って。本当は話したいんでしょう?」
今度は悪戯っぽく微笑んでみせるイボンヌ。
うーむ、改めて見ると全然イケる。
あの女に似ている点を除けば、だが。
これで60歳超えとは到底信じられない。
「失礼にもほどがあるわよ」
褒めてるつもりなのに、イボンヌは微笑んだまま、目だけが笑っていない。
――めっちゃ怖い。
それにしても賢者候補生ってのは、どいつもこいつも勝手に人の心の中を読むのが当たり前なのは、どうにかならないのか。
覗きは軽犯罪法違反だし、迷惑防止条例違反でもあるんだぞ。
まぁこっちでは何の意味もないけれども。
つまりオレが言いたいのは、そっちの方がよっぽど失礼だろうってことだ。
「…………」
(って、そういうとこだけスルーすんなよ!)
「あら、なんのことかしら?」
(うひぃ。白々しいにもほどがあるわ)
「…………」
いい感じに空気が冷えたところで、ジョシー乱入。
「ねえねえ、イボンヌ。イボンヌはゴーレムとお話できるの?」
「そうよ。賢者の修行をすれば、話せるようになるわよ」
豪には意味がわからないはずのジョシーの言葉が、なぜか聞こえてきた。
(おいおい……マジかよ)
豪の想像では、イボンヌが何かしたに違いない。
「ジョシーも賢者になる!」
「そんなに簡単じゃないわよ」
「できるもん! やるもん!」
「それじゃ、私の言うこと、ちゃんと聞ける? 約束、守れる?」
「聞く! 守る!」
「そう。わかったわ」
したり顔で、軽く頷くイボンヌ。
(おいおい、これ完全に思う壺だったろ今の。恐ろしい。恐ろしいわ、さすが賢者候補生)
「人聞きの悪いこと言わないで」
(人聞きはともかく、あんた今なんかしただろ?)
「あなたもジョシーの話、聞きたかったでしょ」
(いや別に……)
「私の耳を通して、あなたに聞かせてあげただけよ」
(え、マジか。そんなことも出来るのか、賢者候補生)
「別に難しいことじゃないわ。共感ってそういうことでしょ」
(……それ、もしかして逆もできるのか)
「あら、やっぱりジョシーとお話したいんじゃない」
「イボンヌ!? ジョシー、ゴーレムとお話できるの?」
(やめろオイ。余計な面倒増やさないでくれ)
「賢者になれたらね」
「わかった。ジョシー、絶対賢者になる!」
うん、完全に取り込まれてるわ。
ってか今、完全にオレを利用したろ。
やっぱこの女とはしゃべるのも危険ってことだな。
よし、気を付けよう。
「ボクは賢者じゃなくて、勇者になる!」
カルまで何故か宣言しはじめた。
だから、オレに聞かせなくていいから!
と、イボンヌの方を見たら、ジト目と視線がカチ合ってしまった。
ひぃ、くわばらくわばら。
*
遠くで微かに、花火のような音が聞こえた。
(なんだ、今の音は?)
イボンヌがすっと立ち上がると、どこかへ行ってしまった。
トイレかな?
しかし、なんだか胸騒ぎがする。
「ゴウ」
険しい表情のライナスが、近づいてきて耳打ちするように囁いた。
(どうしたんだ? もしかして今の花火の音か?)
「花火? なんのことだ? それより大変だ。近くで戦いをしているぞ」
(戦い? どこで? だれが?)
「そこまではわからん。ただ、方角からしてリザードマンの湖の方だな」
(なんだって!?)
まさかリザードマンが戦っているのか?
あんなおとなしい連中が?
っていうか、相手は誰なんだよ!!
(ライナス、この子たちを下ろしてくれ)
「わかった。お前たち、大事な話があるから、ノックノックたちの方へ行っててくれるか?」
ぶっきらぼうが過ぎるが、子供たちは空気を察したのか素直に従った。
ライナスもゴーレムと話せるということは、早くも理解していた様子だ。
「じゃあね、ゴーレム!」
「また遊ぼうね」
笑顔で手を振って、走り去る。
なんだよ、あの女の子供とは思えない、良く出来たいい子たちじゃないか。
((ライナス! すごい魔力よ))
ウサ子も察知済みか、そりゃそうだよな。
「ああ。かなりマズイな」
(え、そうなのか? リザードマンがピンチってことか?)
「それはわからないが……ウサ子、どう思う?」
((イボンヌに聞いた方が早いと思う))
ウサ子が視線を向けた方向から、イボンヌとロレンツォが歩いてきた。
*
「そういうわけだから、急いで向かってちょうだい」
(は? いやいやいや。なんでそうなる?)
「話聞いてなかったの?」
(聞いてた。聞いてたけれども!)
「私たちがどんなに急いでも半日近くかかるわ。その点、あなたなら、ね?」
(ね? じゃなくて! 一人で行ってどうしろってんだよ!)
リザードマンは長老しか話せないし、相手が人間だった場合はもっと悪い。
向こうの言ってることもわからなけりゃ、こっちの話も当然通じない。
行ったところで、状況を理解することすら難しいんじゃないのか?
それともなにか。
ただリザードマンに加勢して暴れまわっていいなら、話は別だが。
「そんなわけないでしょ、バカね」
(ぐっ……)
((ゴウ、それじゃアタシが一緒に行ってあげようか?))
「ダメだ! 危険すぎる!」
((でも、ライナス……))
(いや、いい。ライナスの言う通りだ。もしウサ子になにかあったら、オレはウサ吉に申し訳が立たない。だから一人でいくよ)
ウサ吉の話は、もうだいぶ前に二人には話していた。
「やっとその気になったわね」
(それしか選択肢がないんじゃ、しょうがないだろ)
「ゴウ……すまん。オレも後から追いかける」
((アタシもライナスと一緒に行く))
(ああ、頼むよ。オレがもし失敗したらその後は任せる)
「なに弱気になってんのよ! シャンとしなさい!」
ペシッ。
イボンヌが、真顔でゴーレムのケツを叩いた。
(勝手なこと言うな。こちとらゴーレム初心者なんだぞ)
若葉マークは付けてないけれども。
もしあったらデカデカと目立つところに付けてるわ。
(ちなみにあんたはどうするんだよ)
「私は村に残るわ。万が一ってことがあるからね」
ああ、そういうことか。
湖の方が陽動で、こっちが本命の可能性もあるってわけね。
確かに、それは理に適っている。
(一人で大丈夫なのか?)
「一人じゃないわ。エリックにノックノックもいるもの」
(ほんとに強いのかよ、あいつら)
「うーん、そうね。まぁエリックの方はそこそこやれるわ、たぶん」
(そこそこねぇ……)
ということはノックノックとかいう若造はそうでもないと。
エリックの方は、一応イボンヌ公認なわけね。
まぁいいだろう。
「ゴウ、時間がない」
(わかった。じゃあちょっくら行ってくるわ)
「ゴウ様、どうかお気をつけて」
おう、いたのかロレンツォ。
片手を上げて、応える。
((ゴウ、頑張って))
(サンキュー、ウサ子)
「あなたなら出来るわ、きっと」
イボンヌがゴーレムの胸に手をあてて、魔力を注ぎ込む。
改めてゲージ5段階MAX!
あざぁーす!
(行ってくる!)
村に背を向け、豪は走り出した。
さぁ、みなさんお待ちかねの、ランニングゴーレムタイムだ!
*
出がけにイボンヌが色々と耳打ちしてくれたことを反芻する。
正直なところ、半信半疑だったが、今現在、賢者に最も近い者が言うのであれば、信じるほかない。
アルティメットゴーレムの走行速度は、セーフモードの実に2倍(体感)。
魔力消費を気にしなければもっと出力は上げられる。
だが、今試すべきはそれではない。
よし、行くぞ!
ゴーレム、飛行モード――ON!!
(おお!)
視界の右下に鳥のようなアイコンが現れた。
ホバーモードの時と同じ仕様だな、これは。
モードチェンジの時に表示されるUIなのだろう。
出力最大! マックパワー!!
からのジャンプ!!
ランニングゴーレムが、大きく高く跳び上がった。
と、同時に背面に魔法陣が出現。
背中に円盤状の魔法陣がくっついているのが、警戒機E-2Cを彷彿とさせる。
両脚の踵部分にも、小さな魔法陣が出現。
ゴーレムを空中に滞空させつつ、水平になった時には推進力に切り替わる。
背面の魔法陣も、同様に浮力と推進力を統合するような働きをしているようだった。
以上は、あくまでも豪が感じた魔力の流れによる推定。
そして、ついに――ゴーレムが空を翔んだ!!
ビバ! フライングゴーレム!





