EP.06 さすらうゴーレム
[転生1162日目]
ゴーレムの家を出て6日が経過した。
豪は尾根を伝って高所へ登ったり、逆に下ったりしたが、人間には出会わなかった。
人間がいる気配や痕跡すらなかった。
人の手によらない、獣道のようなものは幾つか見かけた。
獣にも魔物にも会わなかったが、おそらくゴーレムの気配で逃げたのだろう。
ゴーレムの足取りは思いのほか軽快だった。
豪の中では、動くとギギギと音がして、歩くとズシンズシンと音と振動が響くようなイメージだったのだが、さにあらず。
動きは非常にスムーズだし、駆動音もほとんどない。
歩くのはさすがに無音というわけにはいかないが、ちょっと重い人間が歩いているくらいの存在感。
バランサーや重力制御の機構が優秀なのだと思われる。
ただ、不可抗力や不意のアクシデントでバランスを崩したりコケたりした時には、それはもう派手な音が鳴り響いた。
これにより、通常動作における調整がいかに優秀かが裏付けられた。
(でも、一番驚くのはこの燃費の良さだよな……)
実はあれから赤ゲージは1ミリ分減っただけ。
ちょうどウサ吉の分――。
(この調子だと、あと10日以内に魔力補給をしとかないと不安だな)
あの動けないスリープ状態に戻るのだけは、絶対に回避しなければ。
(クマモンでも出てきてくれたら、遠慮なく殺れるんだけどな……)
物騒なことを考えつつ、今は水場を探していた。
そろそろクマモンの血を洗い落としたかったからだ。
ゴーレムに嗅覚がないのは幸いだったが、この調子だと味覚もなさそうなので、食への欲求はもう諦めなければならないのだろうと豪は観念していた。
他にもいろいろと諦めるべき欲はあるのだが、ここであえていうほどのことではない。
ゲフンゲフン。
*
(あ!)
そういうこともあろうかと覚悟はしていたが、やはりあった。
ウサ吉の仲間がいたのだ。
大きな個体と小さな個体二匹。
いずれもツノなしだったが、普通のウサギにしてはデカすぎる。
(まさか……)
豪はその先を考えたくなかった。
ゴーレムの家からここまではかなり距離がある。
ウサ吉の家族の可能性は極めて低い。
それでも、その可能性がゼロではない以上、気にしないわけにはいかなかった。
(なぁ、お前たち、もしかしてウサ吉の家族なのか?)
そう言いながら無言で近づくゴーレムに気づいたウサギ家族は、一目散に逃げ出す。
(おい! ちょ待てよ!)
走って追いかけようとして思い留まる。
(当たり前か。こんなわけわからんもんが近づいてきたら逃げるしかないよな)
豪は久しぶりに激しく落ち込んだが、ゴーレムは無表情。
ウサ吉の仲間と一度でいいから触れ合いたかった。
潰さぬよう細心の注意で撫でてやりたかった。
もちろん叶わぬ夢だ。
今その現実を思い知らされた。
(ウサ吉。せめてもの償いにオレは誓うぞ。お前の仲間だけはもう二度と殺さない)
それで許されるとは思わないが、それしか出来なかった。
あとは、もしピンチのところに出くわしたら必ず助ける、とも。
*
[転生1164日目]
山ふたつほど越えた先に、狼煙が上がっていた。
いや、正確には煙だ。
何かが燃えているようだ。
火と言えば人間。
今度こそ人間と遭遇するかもしれない、という期待と不安を胸に走るゴーレム。
そう、豪は走れるのだ。
走るゴーレム。
ランニングゴーレム。
(こんなに軽快に走れるのか。すごい技術だな。ロストテクノロジーってやつなのか)
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ……。
思った以上に軽快な走りだった。
これなら、足音で遠くからでもバレるようなことはないと思われる。
(めちゃくちゃ速いな。しかもゴーレムだけに全く疲れない!)
みるみる煙の発生地点が近づいてくる。
豪は頭の片隅でちょっとだけゲージのことが気になった。
走ったことで消費が加速する可能性は――ある。
だが、今のところは大丈夫だった。
そして、視界に現場の状況が映った時、だいたいの事情は察してしまった。
馬車が、大勢の盗賊に囲まれて襲われていたのだ。
馬車のすぐ近くに女性がひとり。
その周囲を守るように、護衛と思われる武装した人間たちが全部で七人。
馬車は既に燃えていて、曳いていた馬の姿はなかった。
(これは、介入していいのかどうなのか……)
躊躇する豪。
とはいえ万が一にも、盗賊風の連中の方が正義という可能性は低そうだった。
(異世界の人間との初コンタクトがアクションシーンとか、テンプレすぎるだろ)
かなり善戦している護衛の人間たちに任せて様子を見るという手もあるが、この後の展開を考えるなら当然加勢して助けてやるのがこれまたお約束だ。
豪はわざとゆっくり、できるだけ音を立てるように歩きながら近づいていった。
月曜~金曜の朝8時台に更新予定です。
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