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転生したらゴーレムだったが全然動けない件  作者: くろイけ
第三章:発現するゴーレム

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EP.57 サメ

 野獣(ワイルドビースト)は5人とも満身創痍だった。


 影巨人(シャドウジャイアント)影人形(シャドウゴーレム)による連携攻撃で、サムとスパイクが分断され、個別に痛めつけられたのが大きかった。


 フランツ山羊は森の中ならもう少し動けるのだが、湖畔の障害物が少ない場所では宝の持ち腐れだった。

 一方、マングースサラはスピードでは負けないが、パワー不足で決定打に欠ける。


 ジェシカは臭いで本体を探して追うのだが、相手の動きが素早くトリッキーなため、なかなか捉えきれずにいた。


 そしてジェシカは、影人形(シャドウゴーレム)3体に囲まれてしまった。


 仲間も交戦中で、助けに来るのは難しい状況。


 ガギィッ。


 影人形(シャドウゴーレム)の攻撃を剣で防ぐ。

 直後に後ろから、別の1体が攻撃してくる。


(やられる!)


 ジェシカが思わず身を竦めて、目を瞑ってしまった時――。


 何も起こらなかった。

 すぐに目を開けて、身構える。


 前と後ろに、氷漬けになった影人形(シャドウゴーレム)が1体ずつ。

 もう1体の姿もなくなっていた。


 何が起きたのかわからず、周囲を見回すジェシカ。

 すると、少し先に立っていたリザードマンたちの1体が、近づいてくるのが見えた。


 そのまま歩いてくると、凍っている2体の影人形(シャドウゴーレム)を槍で一突きにして破壊してしまった。


「もしかして、キミが助けてくれたの?」


 ジェシカが尋ねる。

 不思議と恐怖は感じなかった。


「ソウダ」


 ちゃんと言葉が通じたことに、ジェシカは驚いた。

 リザードマンが人間の言葉を話せるなんて、知らなかった。


「ありがとう。助かっちゃった」


 ちゃんと律儀に頭を下げるジェシカ。


「レイ、イラナイ」


 言葉は通じるが口調に抑揚がなく、しかも顔はトカゲなので一切表情が読めない。


「キミたちはこの湖に住んでるの?」


「ソウダ」


「あそこにいるみんな一緒に?」


「ソウダ」


「うわぁ、楽しそう!」


「…………」


「楽しくないの?」


「タノシイ、トワナニカ」


「ええっ! リザードマンにも感情はあるんだよね?」


「カンジョウ、アル」


「じゃあ楽しいもあるよね?」


「…………ワカラナイ」


「嬉しい、は?」


「ウレシイ、ワカラナイ」


「悲しい、は?」


「カナシイ、ワカル。ナカマ、シヌ、カナシイ」


「あ、それはわかるんだ。じゃ、怒る、は?」


「ワカル。ナカマ、コロサレル、オコル」


「ははは、全部誰か死んじゃうんだ。うーん、じゃあ、面白い、は?」


「オモ、シロイ? シッポカ?」


「尻尾じゃないよ、面白いだよ。えーっと、笑うこと。笑う!」


「ワラウ、ワカル。テキ、シヌ、ワラウ」


「……もう! 戦い以外の感情はないの?」


「チョウロウ、シッテル。タブン」


「ちょうろう? 長老様みたいな人がいるの?」


「イル。ムラニ」


「へぇ、そうなんだ。今度会ってみたいなぁ」


「チョウロウ、アイタイカ?」


「うん、もっと色々お話したい」


「オマエ、イヌカ?」


「え、ああ、うん。まぁ犬だね。犬人族だけど」


「ケンジンゾク?」


「犬だけど人間のこと」


「ワカラナイ。イヌ、ニンゲン、チガウ」


「うーん、今度長老さんに会った時、説明するね」


「ワカッタ」


「ねえ、一緒に戦わない?」


「タタカイ、オワッタ」


「でもまだいるじゃん。あっちの仲間は見てるだけなの?」


「ニンゲン、ユダン、デキナイ。ダカラ、ケイカイ」


「ああ、そういうことか。アタシたちは大丈夫だよ。いい人間だから」


「イイ、ニンゲン? ニンゲン、ワルイ」


「悪い人間ばっかりじゃないってば。あ!」


 フランツとサムが影巨人(シャドウジャイアント)とやり合うのが見えた。


「ごめん。仲間が戦ってるから、もう行くね」


 早口で言い残すと、返事は待たずに走り出すジェシカ。


 リザードマンは、その場に立ったままただ見送っていた。



 *



 腹は決めたが、手は決まっていなかった。


 こちらは1人、対して敵はターゲットを入れて5人。

 しかも、分身や影人形(シャドウゴーレム)では、足止めしきれない相手だった。


 そして何よりもあの中年紳士――あいつをどうやって倒すのか。


 クマの戦術は全て読まれていた。

 動きでもこちらの上だと、認めざるをえなかった。

 正直、手も足も出ない、お手上げ状態だ。


 だが、この感じ、どこかで覚えがある。

 クマの思考が記憶を辿ってどんどん遡る。


(ああ、あの時、あの頃だ……)


 クマがファントムになる前。

 ファントム候補生として、町外れの養成所にいた頃だ。


 当時のファントムたちが、日々交代で指導してくれていた。

 その時、仲間うちで最も恐れられていた凄腕ファントムがいた。


 コードネーム「サメ」。


 目が完全に死んでいて無表情、情け容赦なく叩きのめす嗜虐性、マークされた者は徹底的にしごき抜かれるというドSな指導ぶりで、まさに「サメ」そのものだった。


 目の前の中年紳士は、あの「サメ」を彷彿とさせるものがあった。


 もし、本当にあのサメなら、ファントムの使う魔法や術について詳しいのも納得がいく。

 なによりあの身のこなし、体術はまさしくファントムが理想とする姿そのものではないか。


(身体強化!)


 クマは反省しながら、己を強化した。

 最低限の保険として、これくらいはしておくべきだったのだ。


(一瞬でいい。一瞬だけ、サメを止められれば)


 さきほどとは逆に、影分身より先に自分が瞬足で飛び出す。


 サメが動いた!

 よし!


 飛び出したクマへ牽制の一撃を放ってすぐに離脱。

 ターゲットに向かわせた分身の方へ、移動していくサメ。


 クマは完全防御に徹していたので、先ほどのサメの攻撃によるダメージは最小限。

 すぐに切り返すと、サメとの直線上にターゲットを挟むようにしながら接近。


 一方で、影巨人(シャドウジャイアント)を召喚して、無限大との壁にする。


 ターゲットがムチを振るおうとする前に、手に手刀を当てる。


 バシッ!


「きゃあああッ!」


 悲鳴を上げながら右手を押さえ、よろけるターゲット。


(よし!)


 ターゲットが落としたムチを拾うと、森の中へ放り投げた。

 これで、厄介なものをひとつ排除できた。


 ドゴッ!


 投擲動作の直後、サメの蹴りをまともに背中に食らってしまった。

 本当に一瞬しか引きつけられなかったらしい。

 その一瞬でうまく動けた自分を、褒めてやりたかったクマ。


 分身でターゲットを攻撃させようとするも、またすぐにサメが割って入る。


 だが、それでいい。

 こちらは、その隙に回復薬(ポーション)


 ダメージは回復した。


「サメェッ!! お前サメだろ!?」


 クマが叫ぶと、ピタリとサメの動きが止まった。

 ――ように見えたのは一瞬だけで、あっという間に分身が倒されていく。


 クマは、サメの背後から斬りつけるも、ギリギリでかわされ、逆に裏拳が飛んでくる。

 クマもそれをかろうじてかわす。


「サメ! やめろ! 裏切ったのか?」


 確かサメは、クマが正式にファントムに昇格する前に、姿を消したと聞いた。

 よくわからないが、少しでも動きを鈍らせる可能性があるなら、口も使う!


「なんのことでしょう?」


 サメの声を聞くのは二度目だ。

 さっきは気がつかなかったが、二度目の今ならわかる。

 やはり、コイツはサメだ!

 間違いない!!


「声が同じだぞ、サメ!」


 まだ確か40手前のはずなのに、50過ぎのオッサンのような恰好をしているサメ。

 完全に潜入工作時の偽装の手口だった。

 

「人違いです」


 心なしか攻撃に力が増したようにクマは感じた。

 ガードする手が痺れる。


「オレはお前を知ってるぞ、サメ!」


 身体強化をして尚、互角まで届かないのがもどかしい。


「存じ上げません」


 バゴッ!


 左頬に拳をもらった。

 この感触、間違いない!

 絶対にサメだ!


「痛えな、このクソサメ!」


 当時、既にファントム史上最強と言われたあんたが、こんなところで何してんだよ!

 クマはだんだん腹が立ってきた。


 あんたがいれば、オレはもっと強くなれたはずだ!

 あんたがいれば、キツネもセミもモグラも、もっと強くなれた!

 クラゲもカラスもだ!


 それを、勝手に組織を抜けやがって!

 そんな女の護衛なんぞやりやがって!


「しつこいですね」


 最後の分身が倒された。

 分身4人を加えた5人がかりでも、やはり歯が立たない。

 さすがはサメだ……やはりオレなんぞでは……。


 心が折れそうになった瞬間、クマは正気に戻った。


(くそ、なに考えたんだオレは。相手はあのサメだぞ。撤退一択じゃねえか)


 まだ頑張っていた影巨人(シャドウジャイアント)を壁に利用しながら、撤退を決意したクマ。


 ある程度距離を取れば、サメが追ってこないことはもうわかっていた。

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