EP.50 変化と接近
[転生1193日目]
豪は変わった。
いや、ゴーレムが変わった。
もちろん、見た目ではない。
外観はそれまでと何ら変わらぬまま。
しかし、豪にとってはまるで別モノになっていた。
実質、二度目の異世界転生をしたような感覚だった。
(すげえ、マジかよ……)
思わず声に出してしまう。
もちろんゴーレムに発声機能はない。
ついさっきまで、セーフモードだった時には、視界は決して広いとは言えなかった。
言ってみれば、お面を被ってその開いた穴から世界を見ていた。
実際、頭の上方向と足下一帯は完全に死角だったのだ。
だが、今は違う。
お面の穴だった視界から、3Dゴーグルでバーチャル空間にフルダイブした感じの視界に広がったのだ。
素晴らしい!!
そして心なしか、人間の視野よりも若干広くなったように思われる。
左右が180度以上見えているような気がするし、視線を動かさずとも上下方向はほとんど視界に入っているんだが……なんだこれ?
視野は、ゴーレムの首の可動域とは無関係らしい。
もちろん、足の裏は見えないし、後ろまで全部見えるわけではないが、要はゴーレムの顔の目はただの飾りであって、外部カメラは別なところに複数個所あるのだろう。
それらを合成して作り上げた映像が、今豪が見ている視界だと思われる。
それがアルティメット視界なのだ。
更に、左上のゲージ関連UIも、洗練されたカッコイイデザインになってる!
魔力ゲージがストック制であることを示す文字も、ゲージの端に見える。
これを見ると、体力ゲージの方はストック制ではないらしい。
他にも見たことのない文字や図形が幾つか増えているが、字が読めないことにはまるっきりわからないのだった。
これらゲージ以外のUIは、視線の焦点位置によって自動的に濃くなったり薄くなったりした。
視界を邪魔しない工夫なのだろう、と豪はいたく感心した。
そして最後に一番大きな変化。
体が軽い。
動きが速くてスムーズ。
元々かなりよく出来ている体だと思っていたが、一旦こっちの動作を知ってしまったら二度と戻れないくらいの違いだった。
各関節の可動域も広くなったような気がする。
モーション関係の閾値が拡大されたものと思われる。
「どう? だいぶマシになったんじゃない?」
キャスリーンが自慢げに笑顔を向ける。
(マシなんてもんじゃない。まるで別世界だ!)
「なら感謝してね。ゴウちゃん」
(その呼び方をしてる内は、感謝なんざしねえぞ)
ウフフフと笑うキャスリーンを残して、豪はライナスと相談する。
(どうする? このまま戻るか?)
「急ぎの用事でもあるのか?」
(いや、ないけど)
「実は、彼女に教えて欲しいことがある」
「なぁに?」
盗み聞きしていたキャスリーンが割り込んできた。
「風魔法を教えてほしい。あと、他にオレに向いてる魔法があればそれも」
「あら、随分欲張りなのね、見かけによらず」
「……すまない。それなら風魔法だけでいい」
「ウフフフ。いいのよ別に。そうね、あなたの場合、適性が高いのは火か雷ね。どっちにする?」
「どっちも……じゃダメか?」
「あははは! いいじゃない、その貪欲さ。でもそれだと、最低でも一週間は欲しいわね」
「一週間!?」
驚いたライナスが、豪を窺うような視線を向ける。
(は? 一週間はヒマすぎるってマジで、せめて三日で)
「それじゃ、三日でやれるところまで頼む」
「いいわよ。一週間っていうのも、訓練済みの村人基準だから、あなたくらいの魔力と魔力制御があれば、三日でそこそこいけるかも」
((ライナス! 頑張って!))
「あら、あなたも何か特訓する?」
「えっ!?」
((ウサ子も、新しい技、覚えられるの?))
「できると思うわよ、たぶん」
((やる! ウサ子頑張る!))
「ウサ子、一緒に頑張ろう」
((うん、ライナスと一緒))
なんだろうか、このそこはかとなく漂う孤独感。
「あなたも何かやる?」
キャスリーンがまた挑戦的な目で見つめてきた。
(や、結構です)
「あっそう。気が変わったら言ってね」
あっさりと引き下がるキャスリーン。
かくして、豪たち3人は3日間、キャスリーンと過ごすことになった。
*
「おいセミ! 油断するなって言われたばっかだろ」
「うるせー。油断したわけじゃねーよ」
「あんなのに覚られやがって。ファントムの恥だ」
「だから違うんだって。10時方向に何かいたんだよ」
「湖のある方か。何かってなんだよ」
「知らねえよ。今から調べに行くか?」
「いや、任務の方が優先だ」
「だな。でも一応、注意しとけよ」
「なんだかわからねえのにか?」
「警戒しろってことだよ」
「まぁ、いざとなったらオレは潜るだけだ」
「ちっ、いいよなぁモグラは」
「お前は飛べないのか?」
「できるわけねーだろ」
「セミなのになぁ」
「うるせーよ」
「セミのがうるさいだろ普通」
「…………」
2つの影が、森を駆け抜けて行く。
*
「パイセン、Aランクってどんな感じなんスか?」
サムが馴れ馴れしくあれこれ聞いてくるのに、そろそろヨシュアも疲れてきていた。
「別にBランクの時とそんなに変わらないよ」
「またまたまたー、そんなわけないじゃないッスか」
「おい、サム。いい加減にしろ! すみませんヨシュア先輩。こいつAランク冒険者にものすごく憧れてて。なかなかこうして話せる機会がないから、はしゃいじゃってるんです」
フランツがサムをフォローしつつも、詫びを入れている傍からサムが続ける。
「パイセンもあのご婦人に雇われたんスよね? 知り合いなんスか?」
「ああ。以前、盗賊の討伐依頼で一緒だった」
「盗賊!? 人間とやったんスか? ど、どんな感じなんスか、人間を斬るのって」
「おいサムやめろバカ! 失礼にもほどがあるぞ!」
「そうよ。野獣の恥になるんだから、もうやめて!」
フランツの叱責に、サラまで加わった。
「なんだよ! ちょっとくらいいいだろ! なんでオレばっか悪者にするんだよ!」
「お前ら、いい加減にしろよ。それ以上騒いだらぶっ飛ばす」
サムの横に密着するようにして、カイルがドスを利かせる。
「すっ、すんません。ホントにすんません」
ペコペコバッタのように、せわしなく頭を上げ下げするサム。
「このバカ! こっち来い!」
スパイクがサムの腕をぐいと引っ張って、無限大から引き離す。
「ねえ、大丈夫なの、この子たち」
ブレンダがヨシュアとカイルの間に割り込みながら、ひそひそ声で尋ねる。
「まぁ実戦になればわかるだろ」
ヨシュアは楽観的。
「使えないようならブチのめす」
カイルは強硬派。
「あ、そ。じゃあお任せしま~す」
と言いながら速度を緩めると、今度はすぐ後ろにいたマリーベルに近づく。
「だそうです、ご主人様」
マリーベルのすぐ隣にいるセバスチャンを気にしながら、ご注進。
「面倒ごとを押し付けてしまってごめんなさい。でも、大勢の方が楽しいでしょう」
この人は、どこまで本当なのかわからないと思いながらも、相槌を打つブレンダ。
!!!
先頭のジェシカが手を上げて止まり、こちらを見た。
ハンドジェスチャーは「なにか来る」だった。





