表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらゴーレムだったが全然動けない件  作者: くろイけ
第二章:大賢者のゴーレム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/55

EP.48 迫りくる幻影

「はい、残り10周! 全力で!」


 イボンヌの容赦ないしごきが、連日続いていた。

 エリック、ノックノック、カルの3人は、バカっ広いチャールズ邸の裏庭(外周約800m)を、毎日ひたすら走らされていた。


「この程度で息が上がるようじゃ、話にならないわ。剣も魔法もまずは体力! さぁ走れ走れ!」


 パンパンパンと手を打って、檄を飛ばす。


「くそっ、なんだってオレまで、こんな……」

「エリックさんが、素直に、ならないから、ボクたち、まで、こんな、目に……」

「大人が、情けないこと、言わないで、ください」


 一番幼いカルが、一番元気そうに見えた。


 一方その頃、ジョシーはというと、イボンヌのすぐ後ろにあるプールの底に沈んでいた。


 魔力をコントロールして浮かないようにする。

 魔力をコントロールして呼吸回数を抑える。

 魔力をコントロールして走ってる3人の気配を常に感じ取る。

 魔力をコントロールして苦しくなったらイボンヌに伝える(どうやって?)。


 という課題を与えられ、後はプールに放り込まれて放置されていたのだ。


 なにをどういう風にやればいいのか、などのヒントはまるでナシの丸投げ放任主義。


 しかし初日から、ジョシーはイボンヌを驚かせた。

 なんと、3人が30周する間に、3回しか息継ぎに上がってこなかったのだ。


 魔力を正しく循環させれば、本来呼吸はほとんど必要なくなる。

 イルカやクジラと同じようにたまに息継ぎできれば問題ない。

 そういう体のリズムを作り上げ、適応させる課題だった。


 それをたった一日目にして、ほぼ習得してしまったのだ。


 イボンヌはかなり驚いたが、そこは素直にジョシーを褒め、翌日から課題を増やした。

 それが今の課題であった。


 特に三つ目の、水の外の、しかも離れた距離の相手を、3人同時に感じとるというのがかなり難易度が高かった。


 呼吸を抑えるのは、自分の内部のコントロール。

 気配を感じ取るのは、外と中をリンクさせるコントロール。


 やっていることそのものが、両者では全く異なるのだった。

 それを同時にやらなければならない。


 まさに賢者修行歴48年(内緒)の、イボンヌならではの特訓だった。


「止め!」


 突然、イボンヌの声が大きく響いた。


 驚いて足を止めた3人、そしてプールから上がってきた水着のジョシー(聞こえたのか)。


「みんな戻って早く。急いで!」


 ただならぬ雰囲気に、誰も一言も口を聞かず言う通りに従う。

 特訓(?)が早めに切り上げられてラッキー、と思った者もいたかもしれない。


 

 *



 屋敷の中に戻ったイボンヌが、使用人たちに何やら指示をしていた。


 後から入ってきた弟子たちは、イボンヌに言われてとりあえず先に着替えて、応接室に集まることになった。


 ジョシーだけが立ち止まると、しばらく不思議そうに外の庭を眺めていたが、やがて自分も着替えに向かった。



 *



「食事の後だ。いいな」


「わざわざ待つ必要があるのか?」


「食事の後ってのは一番無防備になるんだとよ」


「食欲が満たされて、ってヤツか」


「そうだ。これは訓練じゃどうにもならないらしい」


「ふーん、さすがはカラスだな」


「褒め言葉に聞こえないな」


「頭がいいからカラスなんだろ?」


「知らん。オレが決めたわけじゃない」


「少なくともクラゲよりマシだ」


「クラゲもキレイじゃないか」


「脳がないんだぞ」


「そうなのか?」


「つまり能なしってことじゃないか」


「だからオレは知らん」


 夕闇の中、声なき声で会話をする影が二つ。


 塀の外から、チャールズ邸の明るい窓の中の様子を窺っていた。



 *



「ごちそうさま」

「ごちそうさまでした」


 全員揃っての夕食を食べ終えると、手早くテーブルが片付けられていった。


 ここからその日の出来事を自由に語り合うのが、日課だった。


「チャールズ」


 イボンヌが一番最初に口を開いた。


「どうしたんだい? 君が口火を切るなんて、珍しいじゃないか」


「そろそろ実戦訓練をしようと思うんだけど」


 なにか企んでいる風のイボンヌが、チャールズに許可を求める。


「実戦訓練? どこでやるつもりなんだい?」


「ここで」


 イボンヌの返答で、さっと表情が変わったチャールズ。


「君のことだから、冗談というわけではないのだろうね。まさかこれから?」


 真剣な表情で確認する。


「招かれざる客次第ね」


 値踏みするような目のイボンヌ。


「……そうか。ならば仕方がないね。来る者拒まずだ」


 短く溜息をついた後に、好奇心を抑えられないといった表情で許可を出すチャールズ。


「ウフフフ。全力で拒ませてもらうわ」


 ちょっと会話の意味がよくわからないギャラリーたち。


「さあ! 特訓の成果を見せる時よ」


 イボンヌは立ち上がって、また手をパンと打ち合わせた。


 だが、まだギャラリーは全然呑み込めていない。

 子供たちはキョロキョロ。

 大人男子2人は中腰になったまま、戸惑い。


「!!!」


 一番最初に気がついたのは、エリックだった。

 すっと立ち上がると同時に、庭へ出るドアから外に飛び出した。


 遅れてノックノックも続く。


 カルがようやく動き出そうとした時、イボンヌが肩に手を置いて制止した。


「カルはここで見ていなさい。兄弟子の修行の成果をね」



 *



「頃合いだ。行くぞ」


「了解!」


 2つの影が暗がりから飛び出す。

 すっかり暗くなった周囲に黒衣装が溶け込む。


「影召喚!」


 カラスが詠唱を終えると、その周囲に4体の影が新たに現れた。


「影召喚!」


 クラゲも続く。

 周囲に3体の影が現れた。


 この影こそ、影人形(シャドウゴーレム)と呼ばれる召喚獣だった。

 闇属性の魔法により、術者の姿を完全に模したゴーレムを、その場に作り出すのだ。


 ファントム第3班の隊員6名は全てこの影召喚魔法を習得していた。


 合計9体になった影が、チャールズ邸の裏庭フェンスを軽々と飛び越えて敷地内に侵入していった。


「おい! なんだ今のは?」


 強烈な違和感を覚えたカラスが、一旦停止してクラゲの方を確認した。


 クラゲは、少しよろめきながら追いついてきた。


「どうした? 何があった?」


「カラス、お前は大丈夫なのか?」


「なにがだ? どういうことだ?」


「塀を飛び越える時、ダメージを食らった。たぶん結界か、罠みたいなものだと思う」


「バカな、そんなものオレは感じなかったぞ?」


「お前らしくないな、カラス。無効化スキルがあるだろ」


「ああ……そういやそうだったな」


 カラスは罠無効、魔法ダメージ軽減(大)のスキル持ちだった。


 一方のクラゲには、そんな希少なスキルなどなかった。


「それじゃ、ゴーレムたちも……」


 カラス自身は軽微でも、召喚獣たちはそうはいかない。


「たぶんな、だいぶ削られちまったはずだ」


「まさか、バレてたのか?」


「考えたくねえが、おそらく」


 その時、屋敷のドアが開いて、中から男が飛び出してきた。



 *



 まさか、まさかの展開だった。


 国を二つもまたいだこんな異国の地で、早速殺し合いだなんて!

 エリックは胸の高鳴りを抑えきれなかった。


 イボンヌ先生、あんた最高だぜ!


 イボンヌはこの襲撃に全く関係ないにも関わらず、勝手に感謝されていた。


「侵入者だなッ」


 黒衣装の男たちに近づきながら、念のため誰何するエリック。


 だが、残念ながらそれは人間ではなかった。


 ザシュッ!


 返答なくば斬る、が原則のエリックが剣を振り下ろす。


 しかし、手応えがおかしい。


「なんだこれは?」


 少なくとも、人間を斬った感触ではない。


 稽古用の木の人形のような、無機質な何か――。


「そいつを殺れ!」


 男の声がした。


 エリックの方を指差している。


 すると4人ほどの黒衣装が、同時に襲い掛かってきた。

 武器は、少し長めのナイフ――小刀か?


「エリックさん!」


 後からやってきたノックノックが声をかける。


「気をつけろ! なにかおかしい!」


 エリックもよくわからないので、そうとしか言えなかった。


「一刀両断!」


 真上から斬り下ろすエリック。


 黒衣装が、縦に真っ二つになった。


「!!!」


 斜め後ろの方向から、声にならない声が聞こえた気がした。


 人間はいる。

 確かにいるが、そうでないヤツもいる。

 今斬ったのがそうだった。


 真っ二つになって地面に崩れた後、消えてなくなったのだ。


「斬撃!」


 ノックノックも、遠慮なく剣術スキルを放つ。


 黒衣装を右から袈裟懸けに斬る。


 手応え充分。

 だが、妙に硬い感触だった。


 そして、斬ったはずの目の前の黒衣装が、すぐに反撃してきた。


「うわっ!」


 バックステップした拍子に、思わず尻もちをついてしまった。


「おいバカ! なにやってん――」


 バシュッ!


 ノックノックに今にも斬りかかろうとしていた黒衣装が、爆発して消えた。


「まったく、見てられないわ」


 イボンヌだった。

 目にも止まらぬ速さの魔法。

 どんな魔法だったのかすら、皆目見当もつかない。


「ありがとうございます!」


 しかし、今はまだ戦闘中だった。

 ノックノックは素早く起き上がって、再び剣を構える。


「エリック! あれをやりなさい」


 イボンヌの声が、夜の庭に響いた。


「ちっ! いちいち命令しないでくれよまったく……」


 ぐちぐちいいながらも、両手で剣を構え、詠唱を始める。


火炎剣(フレイムソード)……」


 静かにその名を口にした。


 剣身が赤みがかってきたかと思った途端、ゆらりと揺れる。

 一瞬で、剣の部分が炎になっていた。


「ふん。まさかこいつを実戦で使う日が来るとはな!」


 言い終わらぬうちに剣を振りかぶり、炎の残像しか残らぬ速さで振る。


 ボゥシュッ!!

 ボシュッ! ボゥシュッ!


 3体の影人形が切り裂かれた瞬間、あっという間に燃え尽きた。


「すごい……」


 カルが、目を輝かせてエリックの新技に見惚れる。


 その横でジョシーも、主に炎の残像を見て「わぁ!」と声を上げていた。


「いいわよ、エリック。次は距離を意識して!」


 イボンヌの指示が飛ぶ。


「はいはい、了解……ってね!」


 ボゥゥゥッシュッ!


 5mほども離れた位置から、黒衣装を炎が斬る。


「ぐああああッ!」


 人間だった。


「くっ!」


 また声がして、残りの敵が一斉に撤退に移ろうとした。


 シュルルル。


 奇妙な音が響いて、敵の足が止まった。


「不法侵入の相手をみすみす見逃すほど、お人好しじゃないよ私は」


 チャールズだった。


 まさか、魔法なのか?

 チャールズも魔法が使える?


 エリックも、ノックノックも、カルもジョシーも、びっくり仰天の新事実。


「ひとりも逃がすんじゃないよ!」


 イボンヌの檄が飛ぶ。


 エリックとノックノックが、魔法で自由を奪われた黒衣装を始末した。


 正しくは、エリックが一人残った人間を斬った時、残る全てが消滅した。


「はい、お疲れさま。まずまずの出来ってところね」


 イボンヌが拍手。


「わぁ~すごい!」

「すごいすごい!」


 カルとジョシーも夢中になって手を叩く。


「しかし、今のはいったい……」


 イボンヌの隣で、小声で尋ねるチャールズ。


「ファントムって連中だろうね」


「ゴーダムの特殊部隊か? だが、どうして? まさか子供たちを狙ったのか?」


 チャールズの予想が本当ならば、面倒なことになる。

 しかし、イボンヌはくっくっくと笑い出した。


「どうしたんだ? なにがおかしい?」


「私よ、私。ほら、見て。これが理由よ」


 わざとらしくポーズを作るイボンヌ。


「ああ、そういうことか……」


 チャールズは理解したが、だからといって心配事が消えたわけではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ