EP.47 トライアングル
廃墟の中に2人の人物を確認。
「いたよ!」
ジェシカの声を追い越す勢いで、雪崩れ込む野獣のメンバー5人。
戦隊ヒーローのように横並びになり、戦闘態勢を取る。
「これこれはみなさま。どのような御用件でしょうか」
廃墟の中に立つ燕尾服の中年紳士が、恭しく礼をしながら尋ねてきた。
この場にそぐわぬ姿に、5人は一瞬たじろぐ。
「どんなって、ねぇ、誰か!」
小声で相談しだしたのはサラ。
「リーダー」
サムがフランツに丸投げする気まんまんで振る。
「突然このような形で申し訳ありません。我々はBランクパーティの野獣。私はリーダーのフランツです。ゴーレム捜索の依頼でこの森をさまよっています」
「さまよって?」
紳士が怪訝な表情で繰り返したので、フランツは自分が言葉の選択を間違えたことを悟った。
「あ、いえ、違います。探索中だったんです」
なんとか訂正できたと思ったフランツの耳に、仲間の小声ツッコミが聞こえてきた。
「ダメじゃん」
「間違えんなよ」
「恥ずかしい」
「ドジ!」
「それで、御用件は?」
見事な立ち姿のまま、じっと見つめてくる紳士。
「ゴーレムを見かけませんでしたか?」
紳士と、奥にいる女性とを交互に見ながら尋ねるフランツ。
「残念ながら」
いかにも申し訳なさそうな表情を浮かべて、曖昧に返事をする紳士。
「どんな些細なことでもいいんです。何かご存じじゃありませんか?」
もう我慢できないとばかりにサラが口を挟む。
「残念ながら」
同じ返答を繰り返す紳士。
「そうですか。どうもありがとうございます。お邪魔してすみませんでした」
フランツが頭を下げる。
「ちょっと! もういいの?」
「これからどうすんだよ!」
「結局空振りかよ」
メンバーたちが勝手にしゃべり出したその時――。
「リーダー!」
突然ジェシカが大きな声を出した。
警告の時のトーンだった。
「敵か?」
「魔物?」
「どっちだ?」
武器に手を添えて周囲を警戒する野獣たち。
ガサッ。
茂みを掻き分ける音と同時に声が聞こえた。
「あれ? サザビート夫人ですよね?」
*
門の反対側の藪の中から現れたのは、無限大の3人だった。
魔物ではなかったことで、野獣の面々はやや安心した表情になりながらも、まだ完全には警戒を解いていないといった状態。
「こんなところで会うなんて、奇遇ね。ヨシュアさん」
初めて女性の声を聞いたフランツたちは、自分たちとの態度の違いにやや緊張を高める。
「そうですね。でもこんな森の奥に、どんな御用だったんですか?」
ヨシュアと呼ばれた男は、普通に歩いて女性に近づいていった。
紳士も特に警戒する様子もないことから、知り合いである可能性は高いと、フランツは判断した。
「そうね。ある意味あなたたちと同じ、かしら」
女性は笑顔だが、笑っているようには見えなかった。
「それじゃ、やはりゴーレムを!?」
ヨシュアが口にしたその言葉に、野獣が瞬時に反応した。
「やっぱり!」
「さっきのは嘘だったのね!」
「ゴーレムはどこだ!?」
「答えろ!」
先に四連打で罵声を浴びせてしまった以上、これはもう穏便には済まなくなってしまったな、と半ば諦めの気持ちでフランツは紳士と女性に数歩近づく。
「あの、そちらの方との話、聞こえましたよ。さっきの答えと違うようなんですが」
すると、女性との間に紳士が立ち塞がる。
「ただいま、ヨシュア様とお話し中にございます」
「え?」
と思わず間の抜けた返事をしてしまったフランツ。
向こうと話し中だから、黙ってろ邪魔するな、ということなのだと理解するのに数秒。
「なんだと!?」
「ふざけんな!」
「どういうことよ!」
「バカにするな!」
メンバーたちがここぞとばかりに叫ぶ。
しかし、紳士は一顧だにせず、無言を貫く。
*
「あ、なんかすみません。タイミング悪かったみたいですね」
ヨシュアは恐縮しきりで後頭部に手を当てながら、軽く頭を下げる。
「いいのよ、あなたが気にすることじゃないわ」
本当に何でもない、というようにマリーベル。
「そう言ってもらえると助かります」
まだ若干気後れしている風のヨシュア。
後ろの2人は、ただ静かに見守っていた。
「ねえ、もしゴーレムを見つけたらどうするつもりだったの?」
マリーベルが、妙に熱のこもった眼差しで尋ねた。
「え? いやぁどうなんでしょう。正直あんまり気乗りはしてなかったんですけど、ノックノック君がどうしてもって言うものだから」
「あなたたちへの恩返し?」
「いえ、逆です。依頼を受けて、ゴーレムは見逃してくれって」
「まぁ、あの子がそんなことを?」
「はい。あなたに恩義を感じているんですよ」
「それにあなたも乗った、と?」
「まぁ、でもやれるだけはやってみようと。新しい装備に慣れるにも好都合だし。一応、この討伐ログで最低限の報酬は貰えますからね」
「Aランクパーティが、そんなはした金で動いちゃダメでしょ、ウフフフ」
「ははは、これは痛いところを突かれました」
思わず苦笑いするヨシュアを、優しい眼差しで見つめるマリーベル。
「それじゃ、こうしましょう。私があなたたちに新しい依頼を出すわ」
「え!? 依頼、ですか」
「これからしばらく、私たちと行動を共にしてほしいの。護衛みたいなものよ」
「護衛って……セバスチャンさんがいるのに、ですか?」
その実力を知っているヨシュアが、向こうで壁になっているセバスチャンの方をチラリと見てから、確認する。
「そうよ。少し人手が必要かもしれないの」
「それは他にもゴーレムを追っている人がいる、と?」
「あら、あなた本当にまだ知らないの?」
「なにを……ですか?」
悪戯っぽく笑うマリーベルを見て、ヨシュアは急に不安になった。
「私、殺人犯として手配されているの」
小首を傾げながら、目一杯可愛らしい顔と表情で言い放つマリーベル。
「え?」
「えっ!?」
「え!?」
無限大の3人が綺麗にハモった。
「ご冗談を。そんな馬鹿な話があるわけないでしょう」
「本当よ。今、町に戻ったら、あちこちに張り出されているはずよ」
「そんな……まさか……」
「そんなわけだから、私も追われているの。だから守ってくれる人がひとりでも増えたら、とっても心強いんだけれど」
そしてまたあのポーズと表情。
「ちょっと待って! そんなことしたら私たちも罪になるんじゃないの?」
「おい、ブレンダ、よせ!」
前に出ようとするブレンダをカイルが止める。
「それならご心配なく。強力な助っ人を呼んでいるから、間もなく手配は取り消されるわ」
「助っ人?」
ヨシュアもあまりの展開に、オウム返しになってしまっていた。
「ええ、でもそれは秘密。それで依頼の件だけれど……」
「わかりました。それが本当でもそうでなくとも、オレたちはサザビート夫人を守ります」
何かがふっきれたヨシュアが、晴れ晴れとした表情で告げる。
「ちょっとヨシュア!」
「おい、待てってば」
しかし2人はまだ揉めている模様。
「もうひとつ、お願いしていいかしら?」
またあの表情――。
「なんですか?」
「あの5人も一緒に連れて行きたいんだけど、躾の方、お願いしていい?」
「え……」
完全に予想外の提案に、ヨシュアは思わず絶句した。





