EP.46 ゴーレムの家
「そこよ! その崩れかけた門のあるところ」
マリーベルが叫んだので、セバスチャンは速度を緩め、示された場所へ向かう。
「どうぞ」
門の前でマリーベルを下ろす。
「ここが……フローレンス様の、ディアブロリッチ家の別荘……」
今、マリーベルが降り立った場所こそ、ゴーレムが約200年放置されていた――豪が「ゴーレムの家」と呼んだ場所だった。
*
門から中に入った時点で、もはやここはただの廃墟であることがわかった。
しかし、それでもマリーベルは諦めなかった。
なにか手掛かりがあるはず。
フローレンス様ほどの御方なら、後世のためになにか残しているはず、と。
崩れた塀を見つけた。
塀の瓦礫と一緒に落ちていたのは、何かの生物の骨。
そのすぐ近くに、もっと大きな生物の骨。
「これは……頭がありませんが、おそらくワイルドベアでしょう」
骨を観察していたセバスチャンが呟く。
「そう。こちらの小さい方は?」
「そうですね、大きさとこの角から見て、オスのイッカクウサギかと」
小さい骨の方が確度が高そうな口調だった。
「この2体だけ、比較的新しいようだけれど」
「はい、そのようです」
新しいとは言っても既に一ヵ月以上経過していたのだが。
「これは……魔法陣でしょうか」
瓦礫と石と埃と草で、見え辛くなっていたが、かつては屋内だったと思われる場所の床に、それはあった。
「セバスチャン、お手柄よ」
「ありがとうございます」
マリーベルはひと目でそれが何か、理解した。
「鍵はなにかしら?」
発動条件付きの魔法陣を起動させるためのものを、「鍵」と呼ぶのだった。
魔法陣の種類によって発動条件は様々に異なる。
このタイプの魔法陣は、何段階かのプロセスを経て発動するはずだった。
(あまり複雑なものや、希少なものが鍵じゃなければよいのだけれど……)
あれこれ考えながらも、マリーベルは魔法陣の上に立ってみた。
ウォン――。
反応があった。
魔法陣がぼんやりと光を放ったのだ。
おそらく識別の第一段階クリア。
それが何だったのかはまだ不明だけれども。
それよりも、次にどうしたらいいのか考えなければ。
合言葉か、特別な詠唱が必要なのか。
セバスチャンはやや離れたところから、後ろ手に組んでじっと様子を窺っている。
「フローレンス様! マリーベルがやって参りました! あなたの子孫です!」
天を仰ぎながら、大声でマリーベルは叫んだ。
(ダレ?)
声が聞こえた気がした。
いや、確かに聞こえた。
「マリーベル・アマリア・ディアブロリッチです!!」
一際大きく、確信をもって叫ぶマリーベル。
シュイィィィィィン!
魔法陣が発動した。
(よくぞ、来てくれました。あなたが来るのを待っていたのです)
マリーベルの頭の中に声が響く。
フローレンス様の声だ、と瞬時に理解した。
*
マリーベルは、声の主と会話ができることを期待したが、さすがにそれは叶わなかった。
そこにフローレンスがいるわけではないのだ。
(これから、あなたに私の知識の一部を与えます。どうかリラックスしていてください)
数秒後、いきなりマリーベルの頭の中に知識が流れ込んできた。
な、なに? どうなってるの?
混乱しながらも、今は自分が考える時ではない、ただ受け入れるべきなのだと直感で理解したマリーベルは、その膨大な流れに身を委ねた。
魔法陣の上に立ったまま、目を閉じてやや上を向く。
流れ込んできた知識が、ただの情報の無作為な羅列だったものが、頭の中でだんだん関連付けられ組み上げられていく。
それはそれは不思議な感覚だった。
フローレンス様の生い立ち、家族の記憶、当時の社会状況。
そして賢者へ至る修行の様子。
大賢者になった時の様子。
そこからの怒涛の人生。
社会の変遷と人々の変わり様。
救済を求める人へ差し伸べた手の数々。
魔法及び魔法使いへの迫害開始。
避難所たる村の開拓。
それらがあっという間にマリーベルの記憶として構築された。
(これがあなたへ伝える私の記憶です。もしあなたが賢者になり、その先の大賢者になった時にはまたここへ来て頂戴。その時に、今伝えられなかったことを改めて伝えます)
なんですって!?
今ので全部じゃないの?
最後の言葉がマリーベルのプライドを傷つけた。
「今の私には教えられないってことなのね。いいわ、上等よ!」
「マリーベルさま?」
マリーベルの本気オーラを察したセバスチャンが声をかける。
「やってやるわ! ディアブロリッチの名にかけて!」
既に光を失った魔法陣の上で、マリーベルは仁王立ちになり、拳を高く天に突き上げた。
*
「向こうだ!」
ヨシュアが3時の方向を指差しながら足を速めた。
「なに? なにか見つけたの?」
ブレンダが追いかけながら尋ねる。
「さっき、何か光ったんだ。それに気配を感じる。たぶん2人」
「わかった。ヨシュアの気配察知なら信用するわ」
ブレンダはリーダーのスキルには全幅の信頼を置いていたのだ。
「ゴーレムなのか?」
最後方のカイルが尋ねる。
「わからない。でも、なんだか知ってる人のような気がする」
無限大の3人は、駆け足で森の奥へ進んで行った。
*
「近い!」
ジェシカが短く、鋭く伝える。
「やっと追いつくのか。随分と手こずったなぁ」
長かった追跡の終わりが見えて、フランツは少し気を緩めた。
「ちょっとリーダー。まだ早い」
「っと、ごめんごめん。そうだった」
サラに喝を入れられて、気を引き締めるフランツ。
サムとスパイクは、少し前に遭遇したワイルドベアと一戦交えたため、少し遅れていた。
「あそこ! あの廃墟!」
ジェシカが指差した先に、ボロボロに朽ちた廃墟が見えた。
「よし、行くぞ!」
野獣が、廃墟のすぐ近くに迫っていた。





