EP.43 アルティメット
[転生1193日目]
(いないってどういうことだ!?)
ここまで4日かけて登ってきたのが無駄だったというのか。
ウサ子はしゃべれるようになったけれども。
「どうもこうも言った通りよ。イボンヌさんはもう山を下りたんだと思う」
「思う、というのは確認はできていない、ということなのか」
ライナスがナイスつっこみ。
(魔力で、お互いの位置がわかるんじゃなかったのかよ)
それをあてにしていたというのに。
「ああ、ナナイに聞いたのね。確かにお互い魔力で位置を把握していたわ。最初の2年ほどは」
(2年だけ?)
「そうよ。だってイボンヌさんってば、魔力制御の技を極めすぎちゃったのか、魔力を隠せるようになったみたいなのよ」
「魔力を……隠す?」
(なるほど、そういうことか)
「わかるの? ゴーレムさん?」
(豪だ。いい加減覚えろよ)
「あら、本当に偏屈なゴーレムさんだわ。ちょっと面倒ね」
そこでライナスとウサ子が笑った。
(笑うな!)
「ウフフフ。面白いわね、あなたたち。どう? ここで一緒に賢者の修行をしてみない?」
「いいのか?」
(おい! 待て待て待て!)
((アタシもなれる?))
(ウサ子、お前もか!?)
「冗談だ、ゴウ」
((当たり前でしょ))
ライナスとウサ子が豪を見て笑った。
「あははは。本当に面白いわ。久しぶりに人に会えただけでも嬉しいのに、こんなに楽しませてもらって、本当にありがとう」
(そりゃようございましたね)
「あら、今度は拗ねちゃったの。本当に感情豊かなゴーレムさんだこと」
(お前、さては一生名前を呼ばないつもりだな)
「お前呼ばわりされているうちは、少なくとも」
キャスリーンは笑っているが、内心どう思っているのか、豪にはまるでわからなかった。
「もうやめろ、ゴウ。大人げないぞ」
大人も子供もないただのゴーレムなのだが。
もちろん反論はしない。
((そういうところよ、ゴウ))
おうふ!
ウサ子に名前を初めて呼ばれた豪は、見事にハートを撃ち抜かれた。
(そ、それじゃ、なんでイボンヌが山を下りたってわかったんだ?)
「急に話を戻してきたわね。いいわ、答えましょう。あくまで私の想像なんだけど、イボンヌさんは、もうこの山で修行することがなくなったって思ったんじゃないかしら」
「そんなにすごいのか、イボンヌってのは」
「そうね、私よりは遥かに賢者に近づいていた、と思うわ。単純に年数の問題じゃなくて、持って生まれた資質みたいな意味でも。あれがディアブロリッチの血筋なのかもしれないわね」
(そう、それ! ディアブロリッチ! それが聞きたくて探してたんだ、イボンヌを)
「あら、そうだったの。賢者の話なら私でも役に立てるかもと思ってたけど、それは無理ね。なにしろあの人たちは自分の家系のことについては、徹底した秘密主義だから」
「そうなのか?」
「ええ。フローレンス様のことが知りたくて、私も何度かイボンヌさんに聞いたことがあるんだけど、ジロッと睨まれて終わりよ」
(こっわ!)
イボンヌばあさん、ちょっと意地悪ばあさん寄りかもしれない。
「あなた、それ本人に言ったら焼かれるわよ」
(え!?)
「女性の年齢の話は禁句ってこと。もちろん私にもね」
イボンヌの話にかこつけてさらっと自己防衛するあたり、やはり熟練の技だった。
「それそれ、そういうのもダメですから」
人差し指を立てて左右にワイパーしながら微笑むキャスリーン。
ウインクなんかしても無駄だぞ。
しかもさっきからずっと人の心を読み続けてるの、普通にやばくないか?
「せっかくここまで来たのに空振りか……」
ライナスが無念そうに呟く。
((元気だして、ライナス))
「ありがとう、ウサ子」
また始まった、と豪がややげんなりしていると、それを面白そうにキャスリーンが見ていた。
(見るな)
「見てませ~ん」
(嘘つけ)
「ついてませ~ん」
(ダメだこりゃ)
*
その後、ライナスはキャスリーンの提案で、魔力制御の力を整えてもらうことになった。
整える、がなんなのかはキャスリーン以外誰にもわからなかったが、なんとなく良い方向に調整してくれそうな感じがしたのでお任せした。
「どう? なにか変わった気がする?」
一通り施術(?)を終えたキャスリーンがライナスに尋ねる。
「よくわからない」
自分の体や両手をまじまじと見ながら、ライナスはまだ困惑中。
((ううん、全然違うよライナス!))
「わかるのか、ウサ子?」
((わかるよ、ライナスはもう魔法も使えるよ))
「魔功夫じゃなくて魔法を、か?」
「そうよ、さすがはウサ子ちゃん。一番勘がいいわね」
(どういうことなんだ?)
「ライナスさんの場合、体の中の一部だけ、魔力の巡りが悪いところがあったの。そのせいで普通の魔法を使うには魔力制御の難易度が桁違いに高くなってしまっていたわけ。だからその流れの詰まった部分を取り除いて、スムーズに魔力が流れるようにしてあげたのよ」
「確かに、魔力が軽い」
「あら、それを感じられるってことはやっぱりあなた、相当才能あるわよ」
((ライナス! 才能ある!))
「オレが、魔法の才能……」
(おいおい、魔法なしで無敵だったヤツが魔法まで習得しちまったら、賢者どころの話じゃねえぞ。人類最強になっちまう!)
((人類最強! ライナス最強!))
「あなた、そんなに強かったの?」
「いや、そんなことはない。人より少々できる程度だ」
((ライナス、嘘! 嘘つき!))
ウサ子に嘘つき呼ばわりされた瞬間の、ライナスの顔www
(謙遜も度が過ぎると嘘と一緒ってことだ、ライナス。いい加減自信持てよ)
「あ、ああ……努力する」
それを聞いたウサ子が、豪を見て片手を上げた。
それもしかしてサムズアップのつもりか?
「あ~あ、仲間っていいわね。ひとりきりの修行、私もそろそろ辞めちゃおうかな」
キャスリーンが心底羨ましそうに3人を眺めながら溜息をついた。
*
(なぁ、おい)
「…………」
豪をジト目で見ながら無言のキャスリーン。
(ああ、すまん。キャスリーン、ちょっといいか)
「なぁに? ゴウちゃん」
(ちゃん……!? まぁいい。オレにはなにかないのか?)
ウサ子とライナスだけパワーアップして、豪だけなにもないのがちょっとだけ羨ましくなったのだった。
「あるけど、してほしいの?」
(できれば……)
「でもそうしたら、ゴウちゃん、今までのようにはいかなくなるわよ」
(どういうことだ?)
「別のステージへ移るってこと」
(ステージ? よくわからんな。でも、できるならやってほしい)
「ってことだけど、ライナスさん。本当にやっても大丈夫?」
キャスリーンがライナスに許可を求めた。
豪は不満だったが、一応ライナスが契約者なのだから、理に適ってはいる。
「ゴウが望むなら、是非オレからも頼みたい」
((ウサ子も!))
(2人とも、ありがとう)
「そう。じゃあいいわ。ゴウちゃん、あなた目覚めてどれくらい?」
(え? えーっと、どれくらいだったかな。ちょっとよく覚えてないかも)
「もう、頼りないわね。しっかりしなさいよ」
(待った。えーっとたしか、いやたぶん3年半ぐらいだ……と思う)
「ふ~ん、3年半かぁ。セーフモードのままで、よくやってこられたわね」
(え、セーフモード? オレが?)
「そうよ。つまり必要最低限の機能だけで動いてる状態。一旦魔力を一杯まで充填してあげないと、セーフモードは解除されないの」
(いや、MAXまで充填したことならある……と思うけど。なぁ、ライナス)
「いや、オレにはよくわからん。すまんゴウ」
((そうよ、ライナスにわかるわけないでしょ。ゴウのバカ!))
それはそうだ。
赤ゲージが見えるのは豪だけなのだ。
ライナスは豪がいいと言うまで魔力を分けてくれただけ。
しかも豪、分けてもらうだけの後ろめたさから、毎回見た目MAXよりちょっと手前で止めていた。
「行くわよ」
(え? なに? ちょっと待――)
豪が言い終わらないうちに、キャスリーンがゴーレムの背中に手を当て、魔力を注入し始めた。
キャスリーンの手元が眩い光を放ち、ものすごい勢いで魔力が流れ込んでくる。
(お、おい! ちょっと早すぎる。もうちょいゆっくり……)
赤ゲージの上昇速度に思わず怖くなった豪。
「黙ってて!」
(あ、はい――あっ!!!)
赤ゲージが一杯に、初めてみる位置までゲージが伸びて――また0からになった!
(は? なんだ今の?)
再び赤ゲージが充填されていく。
そしてまたMAXに――と思ったらやはり0からやり直しになった!
(ど、どういうことなんだ、これはいったい……)
バグか?
それともどっかから漏れてる?
いや――まさか、と豪はある考えに思い至った。
(ストック制だったのか、このゲージ!!!?)
だが、普通はわかりやすいように段階的に色が切り替わるはずだ。
少なくとも豪が知ってる格ゲーでは。
よく考えたら、フローレンスが格ゲーのゲージなんぞ知っているはずがない。
となれば、段階別に色替えという発想がなかったとしても致し方なかった。
というかむしろそれが当然だった。
「ちょっと、ゴウちゃんあなた、これは普通じゃないわよ」
魔力を注入しながらキャスリーンが呆れた口調でボヤいていた。
その間にも、更にゲージがリセットされていた。
これで5段階目――。
「はぁっ、終わったみたい。これでどう?」
5段階目の赤ゲージがちょうどMAXになっていた。
そこで初めて、赤ゲージがオレンジ色に変わった。
(これが、魔力MAX状態なのか?)
ゲージの色よりも、もっと本質的な、全体的な何かが大きく変わったように感じる。
「どうしたゴウ」
((大丈夫か、ゴウ))
豪の心が震えていた。
(こ、これは――アァァルティメェェェット・ゴォォォォォォレムッ! 爆誕!!!)
豪が両腕をクロスさせて、腰の高さに開いて溜めるポージング。
もちろん全員、キョトーンだった。





