EP.42 追跡者(3)
「おいフランツ、やっぱり考え直した方がいいんじゃねえか」
サムがやや臆しながらも、リーダーのフランツに提案する。
「なにビビってんだよサム!」
スパイクが後ろからチョークスリーパーをかけてくる。
「まぁ巨大ミミズがこんだけ出るんじゃ、恐ろしくなるのもわかるけど」
サラが笑いながらサムを擁護する。
「金貨30枚のためだ、我慢しろ」
ゴーギャンヌのBランクパーティ「野獣」のリーダー、フランツ・マグワイアが身も蓋もないことを言ってサムの提案を却下した。
「それにこの討伐ログがあるから、ミミズの報酬もちゃんと貰えるわよ」
サラが手に持っているのは、「討伐ログ」という魔道具。
冒険者ギルドが貸し出しているもので、有効期間中に倒した魔物の種類と数を正確に記録してくれるという便利なものだった。
魔物の魔力を探知して計測しているらしいのだが、詳しい仕様は誰も知らない。
討伐系依頼の際には、ギルドが無償で貸与してくれるのだ。
今回は捜索・捕獲依頼ではあったが、危険の伴う依頼でもあるので魔物の討伐報酬も付与するということになっていた。
これにより、もし何も成果がなくても、最低限の報酬は確保されるのだった。
「ストップ」
先頭を進んでいたジェシカが、合図と共に静かに告げた。
「魔物か?」
静かに近づいてきたフランツが尋ねると、ジェシカは首を振る。
「誰かくる。人間」
フランツの顔に緊張がはしる。
魔の森の奥深くで、人間?
まさか、オレたちと同じ依頼を受けた連中か?
後ろの3人は待ての合図を忠実に守り、息を潜めていた。
*
「マリーベルさま」
ゆっくりと歩を緩めながら、声をかけるセバスチャン。
「んんっ、おはようセバスチャン。どうしたの?」
「少し、こちらでお待ちいただけますか」
セバスチャンは立ち止まると、すぐ近くの巨木の根元にマリーベルを下ろす。
「わかりました。なるべく早く済ませてね」
大きく張り出した木の根に腰掛けながら、マリーベルが微笑む。
「畏まりました」
言い終わるなり、一瞬にして姿を消す。
マリーベルは改めて周囲の様子を観察する。
「魔の森の、どのあたりかしら?」
背中の方から涼しい風がすうっと吹いてきた。
水場が近くにあるのかもしれない。
「ただいま戻りました」
さきほどと全く変わらぬ出で立ちと佇まいのセバスチャン。
「お帰りなさい、何かわかった?」
「少し先に冒険者が5人おりました。例の捜索依頼と思われます」
「あら、随分早いわね。もうこんなところまで来ているの?」
「おそらく上位ランクの冒険者と思われます。こちらの気配に気づいた様子でしたので」
「まぁ! セバスチャンが気配を覚られるなんて!」
「マリーベルさま、少しお声が……」
「あら、ごめんなさい。私たちには無関係だったわね。では先を急ぎましょう」
急にひそひそ声になりながら、満面の笑みでセバスチャンに両手を差し出すマリーベル。
セバスチャンはマリーベルを軽々と抱きかかえると、音もなく走り出した。
徐々に加速して、あっという間にトップスピードへ。
「もうすぐね、フローレンス様……」
ささやき声が森の中に音も無く広がった。
*
「!!!」
ジェシカが突然こちらを振り向いたので、驚いたフランツ。
「どうした?」
「もういなくなった。一瞬で気配が消えちゃった」
狐につままれたような表情のジェシカ。
「なんだと? お前が気配を見失うなんてことがあるのか?」
「たぶん、隠密系のスキルじゃないかなぁ。それかものすごくレベルが高い人」
「こんな場所に?」
「依頼書に書かれていた、あの人じゃないかな?」
「あっ! おいサラ! 依頼書の写し、あるか?」
フランツが後方のサラに呼びかけると、すぐにサラが近づいてきた。
「あるわよ、ほら」
腰のポーチから取り出してフランツに手渡す。
「ええと、ゴーレムには契約者の男が同行している可能性が高い……こいつか!?」
「うん、それ」
ジェシカが肯定する。
「それじゃ、ゴーレムもこの近くにいるってことだな?」
「それはわからないけど、可能性はある」
いきなりテンションの上がったフランツに、冷静に返すジェシカ。
ジェシカは弱冠18歳だが、とてもそうは思えない落ち着いた物腰だった。
犬人族特有の耳と鼻を使い、追跡系のスキルに長けていた。
「ゴーレム見つけたのか?」
「ホント? 金貨30枚!?」
「どこだ? 早く捕まえないと!」
後方3人も俄然やる気を出してきた。
「あ、ダメ! 待って!」
再びジェシカがストップ要求。
「魔物が複数……また巨大ミミズが近づいてきてる」
「ええ~っ! またかよ、もう勘弁してくれ~」
サムの泣き言再発。
「し~ッ!」
サラが後ろからサムの口を両手で塞ぐ。
「んむむむむ」
まだ何か言ってるサム。
「戦闘準備!」
フランツが指示を出すと、全員武器を抜いて待ち構える体勢になった。
*
「へぇ、ここがゴーグリムか。初めて来たな」
「私も初めてよ。アクセルは昔、この辺に住んでたんでしょ?」
「うん、学生の頃の話だけどね。有名な魔道具工房の養成所があって、そこに入り浸ってたんだ」
「魔道具作りに興味があったなんて、知らなかったわ」
「違うんだ。魔道具作りじゃなくて、魔法の方さ」
「え、魔法を!? 大丈夫なのか?」
「そこがすごく巧妙だったんだ。先生が魔道具に付与する魔法を、すごく親切にわかりやすく教えてくれたんだ。あれ、絶対わざとやってたと思う」
「なるほど。魔道具作りの一環として、なら問題ないのか」
「本当は魔道具作りの実務をするには、ちゃんと事前に許可を申請しなきゃいけないって決まりなんだけど、勉強のためなら大丈夫なんだって」
「へぇ、知らなかった。で、アクセルはそこで魔法を覚えたのね」
「ご名答。だからあの先生は、実質ボクの魔法の先生なんだ」
「その先生の名前は?」
「マリーベル先生。プラチナブロンドのストレートヘアがいつも綺麗で、女生徒はみんな憧れてたんだよ」
「アクセルも?」
「うん、そうだね。ボクも。でも、確かもうご結婚されたはずだよ」
「それはそれは……なかなか切ない思い出の場所だったのね、ここって」
「ははは、もう昔の話だよ」
楽しそうに談笑しているのは、ゴーデール所属のSランクパーティ「熱狂」のメンバーであるトール、アクセル、エリアスの3人。
ゴーレム捜索依頼を引き受けた3人は、まずはゴーグリムで情報収集をするため、馬車で3日かけてここまでやってきたのだった。
これで、ゴーレムを追う三都市三組のパーティが、全て動き出した。
き出した。





