EP.40 追跡者(1)
レストランを出た時、外はもう日が沈みかけていた。
人目の少ない通りまで行くと、セバスチャンはマリーベルを抱え上げ、走り出す。
マリーベルは、外に出てからまだひと言も発していなかった。
「よくご決断なさいました。マリーベルさま」
セバスチャンの言葉にも、僅かに身動ぎする気配があったのみ。
「このまま移動して、よろしいですか」
馬車など手配せずとも良いかという意味の質問だったが、セバスチャンとしては何かひとつでも反応を引き出そうという試みでもあった。
「ええ……」
平素のマリーベルなら考えられないほど小さな返答。
「畏まりました」
それでも、声が聞けたことでセバスチャンは満足する。
事前に目的地は聞いていたが、このまま走って移動となると、さすがに心配だった。
もちろん自分ではなく、マリーベルの体力が。
抱えられているとはいえ、決して少なくない振動が体に負担をかけ続けるのだ。
「少し眠るわ」
マリーベルが呟いた。
「畏まりました。朝になったらお声がけします」
セバスチャンが返答した時には、すでに静かな寝息が聞こえていた。
微かに微笑んだセバスチャンは「神足」を使用して、本格的な移動モードに入った。
*
「さて、ここからは歩いて行くぞ」
馬車から下りるなり、ヨシュアは元気よく仲間に声をかけた。
一ヵ月ぶりにこの場所に足を踏み入れたが、まるで昨日のことのように感じた。
「なんだ、ちゃんと片付いてるじゃないか」
周囲を見回しながら、カイルが感心したように呟く。
「やっぱり何人か逃げおおせたヤツらがいたんでしょ。わざわざ戻って来て掃除してくれるなんて、律儀な盗賊ね」
そう言いながらも、ブレンダは少し苦い表情をしていた。
カイルと二人がかりで対峙しながら、一瞬で無力化された記憶が蘇ったのだ。
気がつくと、カイルとブレンダは、同じ場所に視線を向けていた。
2人が気絶させられた場所へ――。
「なぁヨシュア。キング・ライナスもゴーレムと一緒にいると思うか?」
カイルが視線を固定したままで尋ねる。
「おそらく。そう考えた方が合理的だね。ゴーレムの魔力供給を考慮しても」
「ってことはあのライナスって人が、ゴーレムと契約したってこと?」
ブレンダはもう気持ちを切り替えたらしく、ヨシュアの方を向いていた。
「誰かが契約しなければ、長距離移動なんて出来ないだろう。ただ、そうでなければまだこの近辺に隠れている可能性もゼロじゃない」
「もしそうなら、この依頼も楽勝なんだけどなぁ」
ブレンダが軽口を叩くと、カイルが反応する。
「なにが楽勝なもんか! キング・ライナスがいるんだぞ!」
「はいはい。あんたが大好きなのはわかったから!」
「なにを……バカにしてるのか!?」
からかわれたカイルが、半ば本気で怒っていた。
「してないわよ、もう面倒臭いなぁ。ヨシュア、なんか言ってやって」
片手をひらひらさせながら、ヨシュアに矛先を向けるブレンダ。
「その辺にしろ、カイル。別にお前が誰を尊敬してようが、お前の自由なんだから」
ヨシュアの言葉に、不満そうにしつつも押し黙るカイル。
元々カイルは、口数の少ない寡黙な男なのだ。
だから今のようなやりとりは、ヨシュアにとっては新鮮だった。
「あ、墓がある!」
洞窟の方へ行ったブレンダが、幾つも土が盛ってある手前で立ち止まる。
「いち、にぃ、さん……にじゅうし、にじゅうご、にじゅうろく!」
数え終わったブレンダが、ヨシュアたちの方を向く。
「26人!」
苦笑しながら、ヨシュアとカイルもブレンダのところまで移動する。
ヨシュアが神妙な面持ちで墓の前に立ち尽くした。
「この剣……!?」
カイルが、とある墓の前でしゃがみ込んだ。
盛り土に、黒焦げの剣が深く突き刺してあった。
「ああ、それが例の炎の魔剣士って人じゃない? エリックさんに重傷を負わせた」
エリックを見舞った時に聞いた話を、ヨシュアは思い出した。
「マジか……一刀両断と対等にやり合うようなのが、盗賊にいただなんて」
「キング・ライナスもいたけどね!」
またブレンダが揶揄するが、今度はカイルも乗ってこなかった。
それから、3人は26ある墓の前で跪いて頭を垂れた。
「さぁ、行こう!」
ヨシュアが立ち上がると、2人もそれに倣った。
ゴーグリムで受注したゴーレム捜索依頼。
「無限大」3人による追跡が始まった。





