EP.39 修行者キャスリーン
[転生1193日目]
ナナイのいた賢者の洞窟を出た翌日、豪たちはボツヌ火山のすぐ近くまで来ていた。
「しかし暑いな。ゴウ、お前は大丈夫なのか?」
体の表面に玉の汗を滲ませたライナスが、豪に尋ねる。
(ああ、オレは暑さも寒さも感じないんだ。悪いな)
「別に謝ることじゃない。ただ羨ましいだけだ」
(そうか。なんなら交換するか?)
「それは遠慮しておく」
こんな時でもへらず口の叩き合いは忘れない、豪とライナスだった。
ただ、心配なのはウサ子だった。
ここに来るまでの気温上昇と、それに勝る湿度上昇の不快さのせいか、ぐったりして元気がなくなっていたのだ。
(ほらよ、ウサ子。砕氷)
豪は背中の籠の中に、5センチ角に砕いた氷を作り出した。
少し前までは何度やっても発動しなかった氷魔法だったが、道中の特訓が実を結んで、ぶっかき氷を作り出す魔法を習得していたのだった。
キューッ!
ウサ子は喜んでガリガリと氷を噛み砕き始めた。
「ありがとう、ゴウ」
(なんだよ、やめてくれよ水臭い)
ライナスが籠の中を覗き込んだ時の満足そうな笑顔が、豪にとってのご褒美だった。
(また欲しくなったら遠慮しないで言えよ)
キュー。
ライナスが籠の中からひとつだけ失敬した氷を、ガリッと齧る。
「ああ、生き返るな」
その言葉で、豪も同じ気持ちになった。
*
キューッ!!
キエッ! キエッ!
「また来るぞ!」
(了解)
ボツヌ火山本峰に立ち入ると、火炎鳥(別名:ファイヤーバード)と呼ばれる魔物が、立て続けに襲ってくるようになった。
こいつらは羽から炎が噴き出していて、要は頭から背中、翼から尾羽までが燃え盛っているというなんとも物騒な魔物だった。
更には火まで吐きやがる。
しかも単発の火球と、火炎ブレスを使い分けるときた。
どんだけー!
そして高速飛行から繰り出される、鋭く尖ったクチバシや爪による攻撃。
つまりはどこが当たってもタダでは済まないのだった。
とはいえ、ゴーレムには何のダメージもなく、傷もつかなかったのだが。
ボゴッ!
飛んできた火炎鳥に豪がパンチをお見舞いして、地面に叩き落とす。
そして踏みつける。
絶命。
「ハッ!」
キケ直伝の魔功夫で、風の魔力を纏ったライナスが、蹴りから風刃を放つ。
シュッ、ズバッ!
ギョエ-ッ!
片翼を切断された火炎鳥が地面に落下してくるところへ、ウサ子が突進して体当たり。
ウサ子は全身に魔力を纏うことで、炎の影響を最小化していた。
最初は捨て身の攻撃かと驚いたが、ライナスが種明かしをしてくれたのだ。
どうやらライナスの魔力の使い方を見よう見真似で習得したらしい。
そんな馬鹿な、とはもう豪も思わなかった。
なぜならウサ子だから。
2羽の火炎鳥を倒して、再び先へ進もうとしたその時――。
「なかなかやるわね、あなたたち」
姿を視界に捉える前に、豪は確信していた。
キャスリーンに違いない、と。
*
「そう。ナナイに会ったのね。どう、彼女。元気そうだった?」
キャスリーンと名乗った彼女が、懐かしそうな表情でライナスに尋ねた。
ナナイから聞いた話とは随分と第一印象が異なる。
そこへ豪が割り込んだ。
(魔力探知でわかるんじゃないのか?)
「あら、そんな話まで聞いたの? すごい記憶力ねあの子――って、今の誰?」
キャスリーンのノリツッコミを見て、ライナスも苦笑い。
(オレだよ、オレ。ゴーレムの豪だ。よろしく、キャスリーンさん)
「ゴーレム? ウソでしょ、こんなはっきりしゃべるゴーレムなんて存在したの?」
(まぁその辺はアレだ。フローレンス様が作ったゴーレムってことで納得してくれ)
「フローレンス様ですって!? ああッ!!! あのフローレンス様の記録に出てくるゴーレム! アレがあなたなのね!」
やはりキャスリーンもあの映像を見ていたらしい。
話が早くて助かる。
(そうそう、アレがオレ)
「ゴウ、そろそろ真面目にやれ」
ライナスが呆れている。
(すまんすまん。ちょっと面白かったもんで)
「なに? どういうこと? 私をからかってたってこと? そうなのね!?」
一瞬でキャスリーンの体から魔力が溢れ出すのを、ライナスは感じた。
「おい、驚かすのはやめてくれないか」
ライナスが冷静に言うと、すぐにキャスリーンの魔力が消えた。
「これでおあいこよ」
といいつつも、まだどこか不満げなキャスリーン。
ナナイの話ではもう40歳を過ぎてるはずなのに、随分と若々しい外見だった。
「今のは魔力を増幅したのか?」
「あら、それがわかるだけでも大したものだわ。正解よ」
「オレたちのことは魔力探知で見つけたのか?」
「質問ばかりね。まぁいいわ。それも正解。あれだけ派手に魔力を使っていたら、わからない方がどうかしてるわ」
(わからなくて悪かったな)
「そうね、ゴーレムさんにはちょっと難しいかもね。ウフフフ」
さっきの当てつけだろうが、見事だった。
豪はぐうの音も出なかった。
「ところで、その子……イッカクウサギよね?」
キャスリーンはウサ子をじっと見つめて、何かを探るような気配。
「ああ、そうだ。オレたちの仲間だ」
「仲間ね。もう今更驚かないけれど、あなたたちってつくづく規格外だわ」
「規格外?」
豪もキョトン、ライナスもキョトンだ。
「そこのゴーレムさんは人間の言葉をペラペラしゃべるし、あなたはとんでもない魔力量の上に、もう魔力制御の基本が出来てる。賢者候補生ってわけでもないのに、おかしいわよ」
「そうなのか?」
「そうなのよ! 私たちが何年山に籠って修行してると思ってるの?」
冗談とも本気ともつかない様子で怒って見せるキャスリーン。
「……すまん」
すっかり言い込められているライナスが、豪には不憫に思えてきた。
「そしてそこのイッカクウサギよ。こんなのありえないわ」
(え? ウサ子のなにがありえないんだ?)
「どういうことだ? 教えてくれ、キャスリーン」
ライナスも豪も、ウサ子とキャスリーンを交互に見ながら、返答待ち状態。
「この子、さっき魔力探知を使ってたのよ。イッカクウサギなのに」
「なんだって! ウサ子、本当なのか!?」
キュー。
「ほら、会話までできてる! 知能が発達しすぎているわ」
(え、会話できてんのか、やっぱり)
「当たり前じゃない。もしかしてあなたたち、わかってなかったの?」
「オレはわかっている……つもりだ」
(つもりだったんかーーーーい!)
「いや、それは……」
ライナスよ、もう分かったからみなまで言わなくていいぞ。
「しょうがないわね、まったく……」
キャスリーンはなにやら詠唱を始めた。
まさか、おい、もしかしてそれは――。
「付与!」
キューッ!((なに、なにをしたの?))
「なにッ!?」
(なんだと!?)
「共感スキルを付与したのよ。これでこの子の言ってることがわかるでしょ」
((ほんと? ほんとにアタシの言ってることがわかるの? ライナス!))
「ウサ子……お前、なのか?」
(ウソだろオイ……こいつぁやばいぜ)
((そうだよ、ウサ子だよ! やっと言葉が通じた! ありがとうキャシー!))
「あら、あなたが一番親しげに話してくれるのね。いいわ、よろしくウサ子さん」
((ウサ子でいいわよ))
「キャスリーン、感謝する。本当に……ありがとう」
ウサ子がライナスに抱き着くと、ライナスは優しくウサ子を抱きしめた。
「ウサ子……」
((ライナス……))
これは感動的な光景だと思っていいのだろうか、と豪は微かに疑問を抱くがもちろん口には出さない。
実際、豪も心の中では感動していたのだ。
同時に、ウサ吉のことを思い出して、切なくなってしまっていた。
ウサ吉と、もしこんな風に話せていたら……。
もっと早く、オレがちゃんと目覚めていたら……あんなことには……。
その時、キャスリーンがじっとこちらを見ているのに、豪は気づいた。
(あんた、今覗いたな?)
「ごめんなさい、あまりに強い感情だったから、つい……」
(賢者ってのはそんなことまで出来るのかよ、万能すぎるだろ)
「私はただの賢者候補生よ。賢者になるにはまだまだ修行が足りないわ」
(そんなに大変なのか、賢者になるのって)
「当たり前でしょ。簡単になれるようなものなら、今頃世の中賢者だらけよ」
(魔法が禁止されててもか?)
「そうよ。だって使えた方が便利だし、自分を守れるもの」
(それはそうだな。でも賢者になってどうするんだ?)
「え? それは……考えてなかったわね」
(なんだそれw そこに山があるから登った的なヤツかよw)
「ちょっとなにを言ってるのかわからないわね。なにか文句でもあるのかしら?」
「すまない、ゴウはちょっと偏屈なところがあるんだ」
ウサ子ラブタイムが終わったらしく、ライナスが助け舟を出してくれた。
「偏屈ねぇ、まぁいいわ。それで、私に何の用?」
「イボンヌのことが知りたい。どこにいるか教えてくれ」
ライナスが単刀直入に切り込む。
「あら残念。彼女ならもう山にいないわよ」
「なんだって!?」
(なんだって!?)
((なんですって?))
3人の声がハモった。





