EP.32 ジャバ村
(ライナス、あれはいったいどういうことだ?)
目の前の光景が理解できなかった豪は、思わずライナスに助けを求めた。
「わからん。もしかすると、村には絶対に入れないという意思表示かもしれん」
森を抜け、やっと村が見えたと思ったら、その入口付近に大勢の人間が集まっていたのだった。
少なくとも百人以上はいるように見えた。
(なんかすまん、オレのせいだな)
「済んでしまったことは仕方がないさ。気にするな」
キュッ。
こうなったら開き直って堂々と正面から行くしかない、と豪も腹を括った。
*
(なんかちょっと様子がおかしくないか?)
「ああ、オレもそう思う」
ゴーレムが人間とイッカクウサギと一緒に、村へ近づいてきているというのに、村人たちはただ突っ立ったまま、じっとこちらを見つめているだけだった。
正確には、前の方にいる村人はそんな感じ。
だが二列目、三列目以降、後ろの方にいくほど、少し落ち着きがない様子でざわざわしていた。
その表情は驚くほど多種多様で、険しい表情の者、怒ったような顔、真剣な顔、悲しそうな顔、満面の笑顔の者と、てんでバラバラで統一感がなかった。
そうこうしているうちに、一番先頭の村人まであと20メートルほどのところまで来てしまった。
来てしまったが、ここで止まるのもなんとなく癪なので構わず進む。
「おおおおおおッ!!!」
「わあああああッ!!!」
突然、大歓声に包まれた。
村人たちが拳を突き上げたり、両手を振ったりしながら大歓迎ムードへ。
さっきまで十人十色だった表情が、今や歓喜一色に染まっていた。
(は!?)
「……どういうことだ?」
キュキュッ。
あまりの不意打ちに、さすがに足を止めるゴーレム一行。
村人たちが中央から左右に割れると、奥から髪も髭も服も何もかも白い老人が近づいて来た。
アレ?
今ものすごく既視感が――。
「ようこそジャバ村へ、大賢者のゴーレム様。いえ、お帰りなさいませ、ですな」
両手を前で交差させながら、深く頭を垂れる老人。
同時に全村人が頭を下げる。
なかなか頭を上げない。
豪は一瞬頭が真っ白になった後、老人の言葉が理解できることに気付いて二度驚いた。
「ゴウ、まさかこれは……」
(オレも今、同じことを考えてたところだ)
キュッ。
フローレンスに縁のある場所その弐だ!
絶対そうに違いない。
そして、この老人はまず間違いなく「共感」持ちだ。
「皆さん、どうぞ頭を上げてください」
ライナスが代表して声をかける。
他の二人は言葉が通じないので、それしか選択肢はないのだが。
「おお、ゴーレム様の使者の方。わざわざこんな場所までご足労いただき、誠にありがとうございます」
一度頭を上げた老人が再び、深く頭を下げる。
村人全員がまたそれに従う。
なんとまあ、よく訓練された村人たちであろうか。
そして豪は改めて理解した。
今度の老人は、流暢にしゃべっていることに!
大変ありがたいが、魔力消費は大丈夫なのか?
それとも人間が共感持ちだと、リザードマンより翻訳効率が良いのか?
「もう充分です。お気持ちはわかりましたから、どうか普通になさってください」
ライナスが物凄く気を使って話しているのが、豪は少し面白かった。
たぶん豪が直接話すこともできるだろうけれども。
「ゴーレム様の使者の方の寛容さに、心から感謝いたします」
老人が今度は軽く頭を下げ、すぐに頭を上げた。
村人たちも全く同じ動きで従った。
契約者のライナスがゴーレムの使者扱いされているのが、余計おかしくて、豪はクックックッと含み笑いせずにはいられなかった。
「こんなところでお引き止めして申し訳ございません。さあ、どうぞ中へお入りください」
老人が体を横にして、村の奥へ手を差し向けた。
(行こう、ライナス)
「ああ」
一瞬、豪の声に老人が反応したような気がした。
やはり豪の声も聞こえているのだと思われる。
ゴーレムとライナスが、ゆっくりと村へ入って行った。
もちろん、ライナスの肩にはウサ子。
村人たちは、三人を迎え入れながら再び歓声を上げ始めた。
「ゴーレム様ッ!」
「大賢者のゴーレム様だッ!」
「森の守護神様が来てくださった!」
「これでこの村は安泰だ!」
「村の守り神様がお戻りになられた!」
「宴だ!宴の用意をしろーッ!」
いったいどういうことになっているのか。
これはリザードマンの時よりも事態はややこしくなりそうだ、と豪はげんなり。
大賢者さまは、なんだってあちこちで慈善事業しまくってたんだ?
しかも、毎度ご丁寧にゴーレム連れで、だ。
人の気も……じゃなくてゴーレムの気も少しは考えやがれ。
迷惑千万だっつーの。
キューッ。
(うるさいよ、ほっとけ)
ライナスも、豪をチラリと横目で見ながら笑っていた。
(面白がってる場合じゃないぞ)
強がってはみたものの、明らかに豪の分が悪いのは否めなかった。
*
村は人口400人ほどの集落だったが、その割に生活レベルは高かった。
リザードマンの村と共通点が多いのも、ひと目でわかった。
大賢者フローレンスが関わったコミュニティの特徴なのだろう。
目新しいところでは、公衆トイレのような施設があり、火起こし用のチャッカマンのような魔道具も使われていた。
更に興味深かったのは、村人が身に付けているブレスレットのような装飾具だった。
魔力制御を安定させるための、魔道具兼アクセサリーなのだそうだ。
ライナスも闘技場時代に、雇い主に言われて似たモノを一時期装着していたらしい。
なるほど、それであれだけの魔力を持ちながら自然体でいられるのだなと豪は納得。
ということは村人のほぼ全員、魔力を操る術を心得ているということになる。
もしかしてここは、魔力養成村なのかもしれない、と豪は考えたがすぐに荒唐無稽だとそれを打ち消した。
だが、その夜の宴で豪は今一度その可能性を考えることになるのだった。





