EP.03 見える、見えるぞ
[転生61日目]
ブン……。
この境遇にもだいぶ慣れてきた6度目の目覚め。
豪はかなり冷静な、いや冷徹な思考で意識を取り戻した。
そしてすぐにカウント開始。
(まず7分以上は確定として、ただ時間が長くなるだけなのか?)
ふと、視界の左上に意識を向ける。
(!!! 二桁になってるぞ!)
とうとう稼働時間が二桁分台になったのか。
豪の記憶と推理が正しければ、あれは21分と表示されているはず。
(よし。確実に前進してるぞ。動けないが、前進しているんだ)
乾いた笑いが漏れそうな気分だったが、もちろんそんなことは無理だった。
今回も視界は薄暗いまま。
それでも漆黒の暗闇でないだけマシだと考えた。
もし自分がいる場所が、完全な密室でないなら、窓がある部屋かもしれない。
そこに入って来る光量が、この明るさの変化と考えれば辻褄が合う。
不意に豪は己の迂闊さに気がついた。
(これは異常事態だ。異常事態ならあらゆる可能性を考えるべきだ。そう、あらゆる可能性を……)
豪は、自分が既に死んでいて、なにか別のものに生まれ変わった可能性を考えた。
おそらくそいつは、光を感じるが視覚に頼らないなにか。
例えばコウモリみたいなヤツだ。
五感がダメなのは人間の時の感覚に頼っているからで、全く別の、新しい感覚として何かを感じられるのではないか。
(キキッ! キーッ!)
試しに違う声をイメージして音を出そうとしたが、ダメだった。
(オレはいったい何をやっているんだろうな。ははは……)
だが、こんなことで諦める豪ではなかった。
出世の見込みもないまま、ただ納期を守るために毎日深夜残業を重ね、休みも取らずに仕事漬けの日々を送ってきたのは伊達じゃない。
社畜を舐めるなよ。
口ではなく、頭の上とか背中とか、鼻、足の方から音を出す、あるいは声を出すイメージであれこれチャレンジしているうちに左上がひと桁になってしまった。
(ダメだ、あと9分……。何か別の方法を考えないと)
人間ではない、動物でもない、まさか無機物か?
自動販売機だけは勘弁してくれ。
便器もイヤだ。あれはトラウマ小説ナンバーワンなんだ。
なにか、なにか最初のきっかけが必要なんだ。
(起きろ)
――何も起きない。
(ダメか……。それじゃ、目覚めろ!)
――何も起きない。
(うーん、あとは何がある? 生物じゃないとしたら……起動!)
ブン!
――目が開いた。
下から上に向かって瞼が上がるように視界が開けたのだ。
(うおっしゃーッ!! マジか、目開いたぞ! オレ天才すぎるだろ)
喜んだのも束の間、すぐに飛び込んできたのは強烈な明るさだった。
(うおっ、まぶしッ!)
暗闇に目が慣れ過ぎてしまっていたのだ。
ホワイトアウトした視界が徐々に落ち着いてくると、ようやくものが見えるようになった。
久しぶりに手に入れた視覚に映ったもの、それは廃墟だった。
やはり夜らしく、右斜め上に月があった。
満月だ。
満月だが、青い。
青い月だ。
そしてデカい。
やたらとデカい。
豪が知っている月の五倍以上はありそうだった。
ホントに月なのか、アレ。
(あ――)
音がする。
聞こえる。
聴覚も回復していたことに気づいた豪。
遠くの方で微かに鳥の声や獣の声のような音が聞こえたのだ。
(ここは、山の中なのか?)
最初に目に飛び込んできた月の大きさに目を奪われてしまっていたが、ふと視線を下に落とした時に見た、自分のものと思しき体の一部を見て愕然とした。
(石? いや、石像?)
前方に投げ出された両脚は、石像のような色味と質感だった。
更に視線を引き寄せて自分の体を見ると――やはり石像だった。
(いや、もしかするとワンチャンロボットかもしれないぞ)
なにがワンチャンなのかわからないが、豪の発想は当たらずといえども遠からず。
(ダメだ、やっぱ動かない……)
豪は先程からずっと体を動かそうと頑張っていたのだが、全くピクリともしなかった。
(まだだ、あと5分ある)
落ち着いてじっくり考えたいのに時間がなかった。
ただ、そう思うと焦ってしまうので、あえてポジティブに考える。
(落ち着け、深呼吸だ。息はできないけれども)
心の深呼吸をして、改めて視界を確認。
(え、こんなんあったっけ?)
時間表示の上に新しいUIが追加されていた。
二段の新しい文字と、上の段の横には青いゲージが表示されていた。
(あ、これ体力ゲージだろ絶対)
ピンときた。
もうこの感覚は当たったも同然だった。
(ならこの二段目にも別のゲージがあるはずなんだが……)
ゲージが表示されているのは一段目だけで、青ゲージの下にはやや長めの文字だけが表示されていた。
(まさかとは思うが、これってもしかしてエネルギー切れじゃないのか?)
頭の中でピンポーンと正解のSEが鳴った気がした。
エネルギーでも魔力でもどっちでもいい。
とにかく、動くための動力源がないのだ。
だから動けない。
(そりゃそうだ。なるほどね)
原因がわかってしまえば、これまで感じていた不安や恐怖は一瞬でどこかへ消えてしまったかのように、気が楽になった。
(でもどうやったらこのゲージを回復できるんだ?)
仮にその方法がわかったとしても、動けない体でいったい何ができるのか。
――というのは考えないようにした。
(意識があるのは、この二段目のゲージとは関係ないのか)
逆に言えば、二段目ゲージがゼロの状態でも意識は保持できるし、なんならその時間がだんだん伸びているのは別のなにかが影響しているのだろう。
ただ、豪にはまだ知らない事実があった。
それは意識がない時の経過時間。
気づきようがない現実。
(あ、もう時間がない……)
ブッ――。
うっかり残り時間から目を離して考え込んでしまっていた。





