EP.02 動けないなら数を数えればいいじゃない
[転生3日目]
ブン……。
どこかで低い起動音がした。
内部からのものだった。
その直後、豪の意識が戻った。
どれくらい時間が経ったのかもわからない。
豪にとっては、急に意識が途切れて、急に戻っただけ。
その間は存在しなかった。
相変わらず何も見えない。
五感も、全く機能していない。
(地獄にありそうな拷問だな……)
自嘲気味な思考に苦笑しかけたその時――。
(あっ!)
視界を完全に塗りつぶしていた漆黒に変化が。
闇が徐々に薄れていく。
(どういうことだ? 光――なのか?)
不意に湧いて来た希望に、胸が熱くなる思いで豪は祈った。
(お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします……)
あまりに必死だったので何をお願いするのかがごっそり抜け落ちていたが、とにかく呪文のようにお経のように心の中で必死に繰り返し続けた。
その願いが通じたのか、視界が白くなっていく。
なんという美しいグラデーションであろうか。
豪は必死に繰り返しながら感動していた。
もし声が出せていたら、キーが徐々に上がっていったに違いない。
暗闇から解放される。
目が見えるようになる。
外の景色を見ることができる。
そんな期待がどんどん膨らんでいき、やがてそうなることが確実な未来だと確信する。
ブッ――。
*
[転生7日目]
ブン……。
次に意識が戻った時、豪は再び闇の中にいた。
(なんだよ、なんなんだよ! ふざっけんな! クソが!!)
悪態の限りを吐きまくったが、あくまで心の中だけの話だった。
ぬか喜びの代償は確実に豪の精神を汚染していた。
だが暫くするとまた、少しだけ視界が黒でなくなる時間がやってきた。
しかし前回ほど明るくなることはなく、薄闇の手前ぐらいで変化が止まった。
ただひとつだけ、豪は気が付いたことがあった。
(なんだこれ? こんなの前からあったか?)
視界の左上の方に何やら記号だかマークだか、小さな文字みたいなものがあることに。
今までは真っ暗で気づきようがなかったし、前回は視界が明るくなったことに興奮しすぎて見逃していたのだろう。
何より、かなり小さく黒く描かれていたのだ。
(でもこれは見えてるってことだよな? オレの頭の中で想像したものじゃなければ、だが)
視力が全くないわけではない、という仮説が豪を少し勇気づけた。
じっと見つめていた左上のそれが、急に別のデザインに変化した。
ブッ――。
*
[転生15日目]
これだけの日数が経過していることを豪はまだ知らない。
だんだん次の覚醒までの時間が長くなってきていることも。
この事実が示す未来は明白だ。
豪は浦島太郎になりかけている。
ブン……。
豪の意識が戻った時、今度は最初から視界が明るかった。
いったいあの闇はどこへ行ったのか?
疑問はあるが、それよりも今はまずこの光だ。
(ああ、明るい。光がこんなにも安心するものだなんて知らなかった)
そして豪は気づいた。
左上のアレがまた違う形になっていることに。
(なんなんだ、これ? 変わるってことは何かを表してる可能性が高いよな)
すぐに思いついたのが、ゲーム画面のUIだ。
(まぁいい。仮にそうだったとしよう)
それなら次の問題はなにがどうなったら変化するのか、だ。
豪は数を数え始めた。
豪の唯一といってよい特技が、ほぼ正確に時間をカウントできることだった。
(そういや、前はこの印が変わった途端に意識が切れたんだよな)
豪の特技のすごい所は、わざわざ心の中でカウントアップ(またはダウン)する必要がないということだった。
一度カウントすると決めてしまえば、体感で経過時間がわかるのだった。
カップ麺の待ち時間がノータイマーで異常に正確。
電子レンジもタイマーいらず(あるけど)。
格ゲーが得意で、フレーム単位の入力を極めている。
実用性が偏った特技かもしれないが、豪自身はほぼ無意識なのだった。
その人間タイマーのような特技で、時間をカウントし始めた。
カウントしようと意図したこと自体、久しぶりだった。
(変わった! 53だけど、数え始めるまでラグがあったからな。再スタートだ)
豪はカウントをリセットして再び数え始めた。
もしこれが時間表示だとしたら、意識の継続時間と関係があるかもしれない。
(60! 1分じゃねーか。やっぱり時間を表してるんだ!)
再度リセットしてもう一度確認のため、カウント開始。
今回は二度変わっても意識は継続できていた。
(次あたり、そろそろヤバいかもな。でもそしたら次の時もまたやるだけだ)
豪の覚悟は決まった。
今のところそれしかできることがないのだから仕方ない。
覚悟が決まると、これまでとはまるで違った気持ちになった。
(60!)
ブッ――。
*
[転生31日目]
ブン……。
(よし、来たか)
意識が戻ると同時にカウント開始。
よく見るとUIの文字(おそらく数字)が前回とまた違っていた。
(最後の文字が0だとすると、その前が1に該当するのか)
そう思って見るとその文字はかなり単純なものだった。
数字だと言われたらすぐに納得できるほどに。
(前回最初に表示されていたのが3なら、起きていられるリミットが3分ってことだ)
今回はまた違う数字のようだから、もっと長く意識があるはず。
豪はそう見積もった。
カウント60で変化していく文字を必死で記憶した。
いつかそれが二桁になる可能性を信じて。
その先に分の上の単位がくることを信じて。
ブッ――。
今回は7分だった。





