EP.27 森のトカゲさん
[転生1180日目]
森の奥、かなり深くまで入ってきた自覚はあった。
普通に進むのは難しかったので、ゴーレムが先行して草木を踏み潰し、左右に押し退けながら、茂みの中を進んでいた。
そんなことをしなくとも、ライナスの運動能力をもってすれば、ほとんど苦もなく進むことができたはずだが、それでもゴーレムが先行するメリットは大きかった。
魔物だけではなく、あらゆる障害その他危険事象と最初に接するのがゴーレムであれば、被害はほぼゼロで済むからだ。
ウサ子の安全確保の意味でも、大事なことだった。
(そろそろ水場を探した方がいいかもな)
持ち運んでいる水の量が、そろそろ心許なくなってきていた。
豪には不要な水も、ライナスとウサ子の生命維持には必須なのだ。
「わかった。ウサ子を頼む」
ウサ子をゴーレムの肩に飛び移らせると、ライナスは木に登り出した。
かなり上の方まで登ったと思ったら、木から木へ軽々と飛び移りながら水場を探しに行ってしまった。
(すごいもんだなぁ。ありゃもう人間っていうより猿だな。なあウサ子)
キュー。
(!!?? お前、オレの声が聞こえるのか?)
いや、そうじゃない。
たまたまウサ子が鳴いたタイミングがよかっただけだ。
そんなわけがない。
豪は、自分でおかしなことを言っている自覚があった。
その証拠に、ウサ子は豪の問いには答えず、キョロキョロ辺りを窺っている。
キューッ!
ウサ子の警告。
(マジかよ。なにがいるんだ? どっちだ?)
ウサ子が10時の方向とこちらを交互に見ている。
(オレに知らせているのか。わかったウサ子。お前は背中に隠れてろ)
例の籠は、まだ背中に括りつけたままだったのだ。
ウサ子がさっと後ろに回り込んで籠の中に収まった気配がした。
キュー。
(ああ、せいぜい頑張るよ)
と呟いてから、アレ?と豪は思った。
今、ウサ子が「頑張って」と言ったような気がしたのだ。
ガサガサ。
茂みが大きく揺れて、槍の穂先のようなものが出てきた。
(なに!?)
見ると確かに槍だった。
そしてそれを持っているのは――トカゲ!!?
人型のトカゲだ。
豪の知識の中では、リザードマンが一番近いイメージだ。
槍を持っているということは、武器を使うだけの知能があるということだ。
(や、やあ。こんにちは。今日はいい天気だな)
ついサラリーマン時代のクセで、おもむろに天気の話をしてしまう豪。
もちろんリザードマンに通じるはずもなく、そもそも聞こえてもいないだろう。
ただ相手側も、いきなり襲い掛かってくるでもなく、こちらの様子を窺っている。
驚いた気配がないのは、向こうが先にこちらに気がついていたからか。
下手に動くと相手を刺激して攻撃してくるかもしれない、と豪は考える。
ゴーレム自体は全く問題ないのだが、ウサ子がいる。
ウサ子のことは、できれば気づかれたくない。
(ライナス、早く戻ってきてくれー)
ついさっき行ったばかりなのに、無茶を言っている自覚はある。
(あー、オレは敵じゃない。戦う意思もない。平和的にいこう平和的に)
心の中で無駄な交渉を持ちかける豪。
だが相手から見れば、ゴーレムがただ突っ立っているだけだ。
キュー。
(あ、おいバカ! 黙ってろウサ子!)
豪が慌てたため、ゴーレムが少し動いた。
リザードマンが槍を構えて、こちらに穂先を向けて腰を落とす。
(違う違う、そうじゃない。違うんだ。なんでもないんだってば)
豪=ゴーレムが両手を前に出すと、手を開いて「待て」のポーズをする。
リザードマンは不審そうに首を傾げた。
(あっ!?)
その時、ウサ子がゴーレムの肩に出てきてしまった。
キュキュッ。
キュー。
(ん? なにかしゃべってるのか?)
キューキュッ。
キュキュキュー。
ゴーゴゴ、ゴゴーゴゴ。
(しゃべった! このトカゲしゃべれるのか!?)
どうやら、ウサ子と会話しているらしい。
完全に別種族っぽい者同士でも、会話が可能なものなのだろうか。
トカゲとウサギだぞ?
カメならまだわからなくもないが。
豪が驚いている間も、ウサ子はリザードマンと会話を続けていた。
考えてみると、ゴーレムも魔物の仲間みたいなものだ。
そして当然、ウサ子も魔物だ。
となると、リザードマンにとっての敵は今この場にいないのだ。
(うーん、これは下手にライナスが戻ってきた時が問題かもなあ)
もしここへ人間のライナスが戻ってきた時に、果たしてリザードマンがどういう反応をするか。
それは豪には全く読めなかった。
キュー。
ウサ子がゴーレムを見て鳴いた。
リザードマンもこちらを見ている。
(ん? なに? なんか話がまとまった的な感じ?)
当たり前だが、豪にはまるっきり事情がわからなかった。
するとリザードマンとウサ子が、一緒に森の中を進み始めた。
(え、おい待てよ! ウサ子どこ行くんだ! 待てってばおい!)
仕方なく豪も後を追う。
ライナスのことが気になったが、ウサ子だけそのまま行かせるわけにはいかなかった。
(まぁゴーレムの移動した跡はわかるだろうから、適当に追いついてくれライナス)
*
うっそうとした森が突然開けた。
(湖か!?)
豪の目の前に、かなり大きな湖が広がっていた。
東京ドーム何個分だろうかと考えて、自ら苦笑してしまった。
キュー。
ウサ子とリザードマンが湖の畔に立って、こちらを見ていた。
(ああ、ウサ子が水場を教えてくれとかなんとか言ったのかな)
おそらく当たらずといえども遠からずだろう。
キュッ。
ウサ子が肩の上に戻ってきて、そこでリザードマンに挨拶した(ように見えた)。
リザードマンの顔が、ニヤリと笑った。
すると、湖面に次々とたくさんの波紋が生まれ始めた。
(な、なんだ!?)
豪が戸惑っていると、波紋の中から、リザードマンたちが姿を現した。
その数ざっと40から50ほど。
全員、同じように手に槍を持って、湖から陸へ上がってきた。
(……もしかしてハメられたのか?)
すまん、ライナス。
どうやってここを切り抜けるか、豪は一生懸命頭を働かせながら警戒態勢をとった。





