EP.25 王者の告白
ブン……。
(あれ、なんだっけ? どうしたんだっけオレ……)
視界は白みがかった灰色。
よかった、暗闇じゃない。
(あ、そうだ。起動)
ブン!
――目が開いた。
「ゴウ! 起きろ、ゴウ」
覗き込むライナスの顔が見える、声が聞こえる。
ああ、良かった。
ちゃんと戻ってこれた。
(ライナス、すまん。ちょっとバカやってしまった……)
「よかった……どうなったのかと心配したぞ」
ライナスの肩から見下ろすウサ子も、心なしか心配しているように見えた。
(ちょっと説明するから、いいか)
豪は巨大ミミズ3匹との一連の顛末を説明した。
そして魔力切れで強制停止したであろうことも。
「なるほど、お前はそういう仕組みだったのか」
(感心すんな。いや、でも申し訳ない。魔力を分けてくれたんだよな。せっかく回復してたところだったのに……)
赤ゲージが半分程度まで回復していた。
このためにライナスがどれだけ魔力を消費したのかはわからないが、ただただ心苦しかった。
自分の後先考えない行動のせいで、代償を払わせることになってしまったのだ。
「これで借りは返したぞ」
どこか悪戯っぽい笑顔のライナス。
(借り? なんのことだ?)
「この間の縄の時のだ」
ああ、と豪は思い出したが、まさかそんな風に考えていたとは。
律儀なのはライナスらしいといえばそうなのだが。
(ああ、そうか。わかった)
ここは素直にチャラにしておくのが大人の流儀というものだ。
「まぁそれにお前が魔法を使えるのがわかったのはよかった。頼りにさせてもらうぞ」
ライナスの前向きな発言で、豪も頑張らなくてはという気になるのだった。
(でも魔力消費が結構激しいから、使いどころは考えないと、だな)
「今、どれくらい溜まってるんだ?」
(半分くらいだな)
「なるほど。アレで半分か……」
(おい、まさかお前、ほとんど魔力使っちまったんじゃないだろうな)
「いや、どれくらい必要なのかわからなかったから」
(頼むから無理はしないでくれ。オレの方は少しあれば後は自分でなんとかするから)
「わかった。オレも魔物から吸収できればいいんだがな。ハハハ」
まさかのライナスの冗談が飛び出して、豪もびっくり。
そして奇跡の閃きが!
(あ!)
「どうした?」
(あの、縄が使えるんじゃないか?)
「マリーベルの使ったアレのことか」
(相手の魔力を奪うんだろ。それならライナスでも使えるんじゃないか?)
「それならゴウ、お前が使ってみたらどうだ?」
(うーん、それは都合が良すぎる気がするが、まぁせっかくだからやってみるか)
「ウサ子、この辺に魔物はいるか?」
キューッ。
ウサ子がライナスの肩から飛び降りて森の中へ走っていく。
暫く待っていると――。
キューッ!
(来た!)
「行くぞ!」
さぁ実験の時間だ。
*
やはりそう都合よくはいかなかった。
今日一日、マリーベルの縄を魔物で実験した結果、ゴーレムは使用不可。
しかしライナスは使用可能、と判明した。
マジックアブソーバー(名前思い出した)が吸収した魔力を取り出すのに少しコツが必要らしいが、それがわかってしまうと面白いくらい簡単に吸収できるとのこと。
今日一日でライナスの魔力は充分な量まで回復した。
更に、ゴーレムの魔力もほぼゲージいっぱいまで充填してもらった。
めでたしめでたし。
(結果的にマリーベルさまさまってことだな。ハハハハ)
その夜の野宿で、火を囲みながらライナスと話していた豪。
「そこは素直には喜べん。これで魔力を吸われた身としては」
(まぁその気持ちはわからなくもない。でも便利なものは使わないとな)
「ゴウは本当に人間のようだな」
あ……。
まだ何も話してなかったことに気づいた豪。
(実はオレ、元は人間なんだよ)
「なに? それはどういう意味だ」
(黒岩豪って最初名乗ったろ。あれがオレの本名。人間だった時の名前なんだ)
それから豪は、軽く今までの経緯を説明した。
ただし、元の世界での話はほぼ省略。
ゲーム会社のプランナーとして10年間社畜生活を送ってきたというのを説明しようと考えただけで、豪は頭が痛くなるのだった。
無理ゲーにもほどがある。
「どうもよく理解できないが、話はわかった」
(うん、まあそれくらいで充分だ)
「では今度はオレの話をしよう。聞いてくれるなら、だが」
(もちろん聞くよ。話してくれ。実はものすごく気になってた)
まさかライナスの方から申し出てくれるとは意外だった。
自分の過去は詮索されたくない系だとばかり思っていたのだ。
「ハハハ、そうか。それじゃあ聞いてくれ――」
*
オレは奴隷だった。
物心ついた時には、どこかの貴族の使用人をさせられていた。
一番古い記憶は、雨の中、びしょ濡れで外に放置されて泣いていた場面だ。
寒くて熱くて苦しかった。
たぶん熱を出していたんだろう。
その次の記憶は、同じ使用人に殴られたり蹴られたりしていた場面だ。
オレの体は、いつも痣だらけだった。
12の時に闘技場に売られた。
元の主人だった貴族が没落したかとかで、使用人が全員売られたんだ。
闘技場でも奴隷契約を結ばされ、掃除夫と闘士の食事係をやっていた。
闘士のほとんどが荒くれ者だったが、中にはまっとうな人間もいて、そういう人にいろいろ教わったんだ。
生きる術を。
そして18になった時、必死の思いで雇い主に申し出た。
闘士になりたいって。
そしたら二つ返事で許可してくれた。
ただし、賞金はほとんど雇い主の懐に入ったが。
オレにはほんの僅かな金と、日々の食い物だけ。
それでも、闘士として戦った。
王者になったら、奴隷契約を破棄して自由にしてくれるっていう約束があったんだ。
まぁ想像がつくと思うが、そんなのは完全に嘘っぱちだったんだが。
21の時に初めて王者になれた。
それから7年間、一度も負けなかった。
それなのに相変わらず奴隷のまま、賞金も搾取されたまま。
28になった頃、体力的な限界を感じたんだ。
かわしたつもりがかわしきれなかったり、思ってるのとワンテンポ技がズレたり。
負けはしなかったが、自分では屈辱的な試合が増えていった。
だからたぶん、このままいつか負けて、それがオレの最後になるんだなって。
そう思った時には逃げていたんだ。
なんの計画もなく、ある日突然だった。
鎖なんて軽く引きちぎれたし、部屋の鍵も壊せばよかった。
それまでそんな考えすら浮かばなかったのが不思議なくらい、アッサリ逃げられた。
奴隷が逃亡したら犯罪だって知ってるか。
捕まったら強制労働送りで、死ぬまで働かされるんだ。
だから絶対に捕まるわけにはいかなかった。
いろんな町や国を渡り歩いて、9年間、逃げ続けた。
そして5年前、ドレイクの、お頭の盗賊団の噂をたまたま耳にして、それで自分から志願して入れてもらったんだ。
まだそれからも色々あったが、今はお前とウサ子と3人。
不自由なこともあるが、完全に自由だ。
人生ってのは、なかなか面白いもんだな。





