EP.23 三人森中膝栗毛
[転生1175日目]
森の中でいきなり魔物に襲われた。
(のわっ! なんだこのバカでかいヘビはッ!?)
ゴーレムの体をぐるぐる巻きにしてなお、尻尾も頭も余りあるほどの大蛇と格闘中の豪。
「巨大蛇だ。そいつの牙は猛毒を持ってる」
ウサ子を肩に乗せたライナスが、離れた場所で突っ立ったまま、冷静に解説するので腹が立った。
(毒ってオレにも効くのか?)
「さあな。わからん。とりあえず動くなゴウ。ちょうどいい」
(ちょうどいいってのはどういうこった!)
「いいから動くな」
ライナスが、音もなく近づくと巨大蛇の背後に回り込み、首をあっさり切断した。
ただし、ちょうどゴーレムの頭に噛みついていたところなので、噛みついた頭がそのまま帽子のようにゴーレムの頭の上に残ってしまった。
「なかなかカッコイイじゃないか」
(うるせー! 早く取ってくれ)
体に巻きついていた蛇の体をほどきながら、豪が愚痴る。
「そのままでもいいと思うが」
(毒! 毒が垂れてくるだろーが!)
ライナスは笑いながら蛇の首に手をかけると、牙から毒を小瓶に集めていた。
(それは何に使うんだ?)
「わからん。念のためだ」
ライナスの手元でウサ子がくんくんと鼻を膨らませると、キューっと鳴いてゴーレムの肩に飛び移ってきた。
(よしよしウサ子。お前はもうこっちにいろよ)
ガン無視のウサ子をチラリと見たライナスは、一瞬笑みを浮かべてから、再び毒採取の作業に戻った。
*
アジトでの一件から既に3日が経過していた。
しかしライナスは、まだマリーベルの縄に奪われた魔力の回復途上だった。
そのため、豪はライナスから魔力を補給してもらうことができず、自力で補給する必要に迫られていた。
そこで現在、「森を横断しながら魔物をどんどん倒そうチャレンジ」に挑戦中だった。
もちろんライナスは魔力温存第一。
つまりゴーレムが主戦力だ。
既にヒューラット(ゲージ1)5頭、キラーアント(ゲージ1)7匹、ワイルドベア(ゲージ2)3頭、巨大蛇(ゲージ5)1頭を倒していたが、全て合計してもゲージ23にしかならなかった。
ライナスに補給してもらえれば、あっという間に満タンになるのだ。
それをチマチマと魔物を倒して集めなければならない面倒くささ。
げに忌々しきはマリーベル、というのが豪の本心だった。
キューッ!
緊張した鳴き声。
偵察役として先行していたウサ子の合図だった。
何も言わず、動き出すライナス。
豪も後に続く。
ウサ子はすぐ見つかった。
(なんだアレは……蜘蛛の巣……だよな)
2本の巨木の間に、野球のバックネットほどもある大きな蜘蛛の巣が、見事に張られていた。
異常に大きな蜂っぽいのや、異常に大きな蛾っぽいのが何匹かかかっている。
「ウサ子!」
ライナスがウサ子に駆け寄ると、定位置の左肩へ飛び乗る。
(蜘蛛の本体はどこだ?)
周囲をくまなく確認するも、どこにもそれらしき姿はない。
「ゴウ、上だ」
(……くそ、マジか)
ゴーレムは真上と真下が完全に死角なのだった。
主に首の可動域の限界的な問題で。
いち早くバックステップするライナス(とウサ子)。
ワンテンポ遅れたゴーレムの上に、巨大蜘蛛が糸を伸ばしながら高速で下りてくる。
(ええい、イチかバチかッ!)
ゴーレムが両手を真上に上げると、下りてきた巨大蜘蛛を絶妙のタイミングでキャッチ。
そのまま真下に叩きつける。
グシャッ。
イヤな音がしたが、豪は聞こえなかったフリでそのまま右足で踏み潰す。
グチャッ――。
「見事だ、ゴウ」
キューッ。
(全然見事じゃねーし。これどうすんだよ。オレの足が……)
魔物のグロは別に平気だと思っていたが、こればっかりは例外だった。
ゴーレムの右足の下の地面に、黄色がかった白い液体が広がっていた。
(キャーッ! やめてくれーっ! キモキモキモキモッ)
「どうしたんだ、ゴウ?」
なぜか楽しそうにしているライナス。
肩のウサ子もノリノリのご機嫌だった。
(さっきの沼んとこまで戻るぞ。お前がイヤでもオレは行く。すぐ洗わないと!)
そうは言ったものの、ゴーレムの手は足の裏まで届かない。
それでも、沼の水に浸けて、底の泥に擦りつけるぐらいはできる。
とにかくなんでもいい。
洗った気になるだけでも全然いいのだった。
(オレは先に行くからな)
「あ、ゴウ。そっちは……」
バックネット級の蜘蛛の巣に、ゴーレムが絡まってしまった。
*
その夜も、いつものように野宿。
ライナスはウサ子を抱いたまま、木の上で眠っていた。
豪は睡眠をとらなくてもよかった。
ずっと起きていても、そもそも眠くならなかった。
魔力がある限り、ゴーレムは動き続けられるのだ。
もちろん疲れることもない。
一応、スリープモードに入ることはできる。
心の中で「スリープ」と念じればいいだけだった。
これはあの「起動」と対を為すコマンドなのだと豪は考えた。
特定のコマンドを強く念じる(叫んだつもり)ことで実行される仕組みらしい。
そんなわけで、豪は毎日朝まで寝ずの番をしていたのだ。
今夜も青い巨大な月が美しかった。
(あそこにも何かいそうだけどなぁ)
豪は地球にいる感覚で月と認識したが、もしかすると惑星かもしれない。
昔見たアニメにあった二連惑星のような。
(まぁでも往復手段がないだろうから、行くのは無理か)
魔法でならもしかすると、の思いが頭の隅にチラつく。
そんなことをぼーっと考えていると、不意にすぐ近くでボコッとこもったような音がした。
見ると、右斜め前方の地面が不自然に盛り上がっていた。
ボフッ。
盛り上がった地面から、土が噴き出して飛び散った。
(なんだ? 地面の中になにかいるのか?)
モグラとかオケラかな、と豪は静かに近づいていった。





