EP.16 カウントダウン
[転生1172日目]
討伐隊は順調に目的地に近づいていた。
「もうあと二時間ほどです」
ノックノックが目的地までの所要間を告げる。
4人乗り馬車では、進行方向側の席に3人のAランクパーティ『無限大』のうち2人が座り、その向かい側にノックノックともう1人が座っていた。
「そうか。ならそろそろかな」
ヨシュア・インクライドが馬車の中で身支度を始めると、同乗しているパーティメンバーの二人もそれに倣った。
まだ二時間あるのに気が早いなとノックノックは思ったが、馬車の中は張り詰めた空気に変化していたため、おとなしくしていることにした。
バタン。
いきなりヨシュアが馬車のドアを開けて、そこから屋根に上がっていった。
すぐにブレンダがドアを閉め、窓を開けて外の様子を窺う。
隣に座る冒険者カイルは、目を閉じて腕組みしたまま微動だにしなかった。
「あの、なにをしているんですか?」
誘惑に耐えきれず、とうとう質問してしまったノックノック。
「敵の偵察がこの辺にいるはずなのよ」
内心飛び上がるほど驚いたノックノックだが、どうにかして平静を保つ。
「雷矢!」
屋根の上でヨシュアの声がしたと思ったら、バリバリという雷の音と射出音がした。
かなり遠距離に放ったらしく、長く音が尾を引いていた。
「どう?」
ブレンダが窓から頭を出すと、ヨシュアに声をかける。
「どうだろう? 手応えは微妙、かな」
ヨシュアが残念そうに言うと、屋根から下りて馬車の中に戻ってきた。
「何人?」
「たぶん一人。なかなかのものだったよ。アレは偵察専門だね」
ブレンダに答えながら、マントの裾を手で叩くヨシュア。
(サジさんだ!)
ノックノックにはわかった。
サジが討伐隊の位置確認に来ていたのだと。
パックの暗号文をドレイクがどう解釈するのか、不安だった。
(サジさんがいたってことは、逃げずに応戦するつもりなんだ……)
淡い期待が外れたのを知って落胆したが、まだ希望はある。
デカ丸がいるのだ。
ノックノックはまだデカ丸の本当の強さをその目で見てはいなかったが、ゴーレムなら普通の冒険者なんかに負けるはずがないと思っていた。
「どうしたの? 具合でも悪いの?」
ブレンダがノックノックの様子を見て、心配した様子で声をかける。
「あ、大丈夫です。ちょっと馬車に酔っただけです」
慌てて否定するノックノック。
「そう。吐きそうになったら事前に言ってよね」
微笑みながらも、厳しい一言を告げるブレンダ。
「……はい」
とっさに嘘をついてしまった恥ずかしさと、気まずさでますます肩身が狭くなるノックノックだった。
*
「どうかしたの、セバスチャン」
「『無限大』のヨシュア様が魔法を放ったようです」
「こんなところで? 魔物?」
「おそらく盗賊の偵察がいたのでしょう。この辺はもう彼らの縄張りですから」
「そうなのね。さすがはAランク冒険者といったところかしら」
「いえ、それが取り逃がしたようです……」
「あら。前言撤回」
何事もなかったかのような表情で、会話を続けるマリーベルとセバスチャン。
マリーベルは縄のようなものを、ひたすら編み込んでいた。
「間に合いそうですか?」
「さあ、どうかしら」
別にどうでもいいことのように答えるマリーベル。
セバスチャンは目を閉じてそのまま静かになった。
*
「お頭ぁ~ッ!」
サジの声がアジトに響いた。
右肩を押さえながら走ってきたサジは、青い顔をしていた。
ドレイクは無言でサジを待つ。
サジは神足の速度を落としながら、ドレイクの前に辿り着いた。
「ヤツら、もう一時間ほどの所まで来ていやす」
自分の移動中に敵が進んだであろう分を計算して、報告するサジ。
「そうか。で、数は?」
「馬車が3台。4人乗り2台と8人乗り1台です」
「ふん。多くて16人か。連中、今度は結構本気じゃねえか」
「それとお頭、Aランクの『無限大』がいやした」
「なに!? あの『無限大』か?」
「へえ。リーダーのヨシュアが魔法を撃ってきやがって……」
「悟られたのか。お前らしくないな」
「すいやせん。油断したわけではねえんですが」
「それでその傷か。ご苦労だった。向こうで手当てしてもらえ」
「へえ」
下がっていくサジを目で追いながら、頭を整理するドレイク。
Aランクがいるのは予想外だったが、まだ勝機はある。
「ライナス!」
呼ぶとすぐにドレイクの隣に現れたライナス。
「準備はいいな。打ち合わせ通りやるぞ」
「はい」
頷くと、すぐに走り出してゴーレムのところへ向かうライナス。
アジトから離れた場所へ移動させるためだった。
「サジが戻ったんだってな」
いつの間にかベニーが後ろに立っていた。
「『無限大』が来るんだとよ」
「っかぁ~~~ッ、そりゃシビレるねえ。一世一代の見せ場ってヤツだな」
そう言うとベニーは、悪びれもせず豪快に笑った。
「そうだな。華々しくやってやろうぜ相棒」
「おうよ!」
ドレイクとベニーは互いにハイタッチをして、そのまま別れた。
これが、二人が交わした最後の言葉だった――。





