EP.14 マリーベルの作戦
「今回は盗賊団討伐の依頼にご参加くださり、誠にありがとうございます」
出発の朝、集まった冒険者たちに向かって演説をぶつマリーベル。
「事前にギルドのほうから説明があったとは思いますが、私からもひとつだけ。今回の依頼の最重要事項について確認させていただきます」
二組8人の冒険者たちは、マリーベルの言葉をひと言も聞き逃すまいと、真剣な表情で見つめていた。
「今回の依頼の目的は二つ。ひとつはドレイク盗賊団の討伐です。こちらは基本的にお任せします。もうひとつは盗賊団がこれまで奪った盗品の回収です。こちらは私どもの方で進めさせていただきます。もちろん、回収した金品に価値のあるものがあれば、みなさまにその三割を追加報酬としてお支払いいたします」
冒険者たちから「おお!」と大きな声が上がった。
期待に目を輝かせて、より一層真剣に耳を傾ける。
「ただ、回収する予定のモノの中に、これだけは絶対に外せないモノがあります。もしそれが回収できなかった場合は、今回の依頼の達成報酬から金貨20枚を減額します」
さきほどとは真逆のトーンで「おお……」と声が上がる。
冒険者たちは互いに顔を見合わせながら、小声で雑談を始めた。
「絶対に回収しなければならないモノ、それはゴーレムです!」
小声の雑談が大きなざわつきに変わった。
「ゴーレム?」
「ゴーレムってあのゴーレムのことか?」
「ゴーレムと戦うのか?」
「そんなのは聞いてないぞ」
「お前、戦ったことあるのか?」
「いや、お前は?」
「あるわけねえだろ!」
「どんなゴーレムなんだ?」
「ゴーレムはゴーレムだろ」
「ちっ、ゴーレムにも色々種類があるんだよ」
「なにっ? そうなのか?」
「静かに!!」
マリーベルの一声で、全員が瞬時に口を閉じた。
「みなさんが不安になるのもわかります。ゴーレムについて少しでも知識のある方であれば、その回収が簡単なことではないとわかるはずです。ただ、ご安心ください。今回、回収するゴーレムはまだ契約者がいないのです」
ここで、一部の冒険者から安堵の溜息が漏れた。
契約者のいないゴーレムは、ただの木偶人形に等しかった。
稀に、残存魔力で動くことはあっても、それは大した脅威にはならない。
魔力切れを待てば良いだけなのだ。
「報告によると、まだ多少魔力が残っているらしいのですが、それほど問題ではありません。ただ、隠されている可能性もあるので、その時は捜索にご協力ください。それだけです」
なんだ、と安堵の声を漏らす冒険者たち。
ゴーレムとの死闘を想像していた彼らは、みな落ち着きを取り戻した。
「最後に、みなさんの指揮はこちらのエリック・ビグザムントが担当します」
マリーベルに促されて、横に並んでいたエリックが一歩前に出る。
「エリック・ビグザムントだ。よろしく頼む」
目だけで礼をして、また下がるエリック。
味も素っ気もない。
しかし、冒険者たちの反応は熱烈なものだった。
「一刀両断だ」
「あれが、ゴーグリムの剣聖か」
「オーラが半端ねえ」
「目だけで殺されるかと思った」
「まだ全然現役でいけそうじゃねえか」
「一緒に仕事ができるなんて光栄だぜ」
「剣の稽古をつけてもらえねえかな」
「実物を見られただけでオレぁ満足だ」
「ちゃんと仕事もしろよ」
「ではみなさん。目的地まで二日の行程ですが、よろしくお願いします」
「おお~ッ!!」
マリーベルはひと仕事を終えると、「こんなものでどうかしら?」とばかりにセバスチャンの方に微笑む。
セバスチャンは静かに、浅く頭を下げる。
その横には先ほど挨拶したエリックともうひとり、ノックノックが立っていた。
総勢12人の討伐隊は、3台の馬車で移動を開始した。
*
(なんだよデカ丸って。センスなさすぎるだろ)
豪はあんまりと言えばあんまりなそのネーミングに絶望していた。
「オレもそう思う。文句があるならお頭に直接言ってくれ」
この格闘男は、想像していたよりも理性的で知的な話し方だった。
あの戦いぶりと、普段の物腰から、もっと原始人っぽいのかと思ったが違った。
(オレが話せるのはお前だけなんだっつーの)
「お前のその妙な話し方はどこの方言なんだ?」
(は? 方言じゃねえし。てか、そろそろお前の名前も教えてくれよ)
「ああ、そうだったな。オレはライナスだ」
(ライナスか、いい名前だな)
再び人間とこうして会話できて、お互いに名前も呼べる関係になれるなんて!
豪の感激、感動は人生最大級だった。
「それでデカ丸、お前はナニモノなんだ?」
(デカ丸言うな! オレは豪だ。黒岩豪)
「ク……ロイ……ワゴウ?」
聞き慣れない語感に違和感しかなく、カタコト化するライナス。
(……ゴウでいいよ、ゴウで)
「ああ、ゴウか。それはわかりやすい。よろしく、ゴウ」
(おう、こっちこそよろしくな、ライナス)
ようやく自己紹介を終えて、ほのぼのした空気が漂い始めたその時――。
*
「お頭ぁーっ! パックです! パックが戻ってきやした!」
遠くからよく通る高い大きな声で、サジが叫ぶ。
ほとんど同時に、上空をアジトに向かって飛ぶフクロウの姿が見えた。
「ケニー! どこだ!?」
ドレイクの大声が響くと、森の中からケニーが走って来た。
ケニーはドレイクの隣に立つと、左手を高く上げた。
その手を目印にして、フクロウが舞い降りてくる。
最後はくるくるっと螺旋を巻くようにして、見事ケニーの左手に止まった。
ケニーは右手でパックの左足に巻かれたモノを器用に外すと、中を確認する。
「どうだ? なにかわかったか?」
ドレイクが覗き込むが、書いてあるのは暗号なのでちんぷんかんぷんだった。
「マリーベルが我々のアジトに討伐隊を送るそうです」
「なに!? 小癪な女め。返り討ちにしてくれる!」
ドレイクが怒りで顔を真っ赤にしながら、怒鳴り散らす。
「それと……」
ケニーが言い淀むと、ドレイクが「なんだ」と先を急かす。
「ヤツら、デカ丸を狙っているようです」
「なんだと!? なんでデカ丸のことがバレてるんだ!?」
「そりゃあん時、あいつらもその場にいたからに決まってるだろ」
いつの間にか、後ろにベニーが立っていた。
「いやいや、それでもデカ丸がオレらのアジトにいることまではわかりっこねえ」
ドレイクが反論すると、ベニーも思い直したように考え込む。
「そういやそうだな……」
そんな中、ケニーが難しい顔をしていた。
「どうしたケニー?」
様子に気づいたドレイクが尋ねる。
「もしかすると……いえ、なんでもありません」
「おい、言いかけてやめるな。気持ち悪いだろうが」
「少し待ってください。確認することがあるので、後で報告します」
「そうか、そんならいいが」
ケニーが立ち去るのを見送ったドレイクは、深呼吸をひとつすると、アジト全域に響かんばかりの大声で号令を出した。
「お前ら! 戦争の準備だ!!」
再び、アジト全体が慌ただしく動き出した。





