EP.12 諜報員潜入!
「なるほど。あの辺までヤツらの活動範囲だったんですな。大変貴重な情報をありがとうございます奥様」
ギルドマスターのバルザックがソファから立ち上がって頭を下げる。
「いえ、当然の義務です。盗賊についてはこのゴーグリム全体の問題ですから」
バルザックの向かい側に背筋を伸ばして座っているご婦人は、マリーベル・サザビート。
マリーベルの斜め後ろに起立して待機しているのが、執事のセバスチャン・ゲルグウォークだった。
「それで、討伐依頼についてなのですが……」
マリーベルが話そうとするのを、バルザックが途中で遮るように話し出す。
「いえ、もちろん積極的に推奨してはいるのですが、なにぶん相手があのドレイク盗賊団ということで、恥ずかしながら普通の冒険者どもはみな尻込みしているというのが現状なのです」
「いえ、それはわかっております。そうではなく、報酬を増額していただけないかというご相談です」
「え!? 討伐依頼の報酬を、ですか」
「はい。奪われたうちの商会の荷を回収してくださるという条件で、金貨30枚」
「金貨30枚ッ!? そんな大金を、よろしいのですか?」
バルザックが驚いたのも無理はない。
今現在募集している盗賊団討伐依頼の達成報酬は、金貨10枚だったのだ。
「荷の回収が条件です。もし回収が叶わなかった場合は、多少減額させていただけたらと思うのですが、可能でしょうか?」
「ええ、もちろんもちろん。対象の品目を事前にいただければ、回収点数で報酬を設定するのはこちらでやらせていただきます。しかし、本当によろしいのですか?」
「はい。とても大事なものがあるのです。それだけはどうしても取り返したい……」
「わかりました。最優先品目として報酬を高めに設定します。半額の金貨15枚ではいかがでしょうか?」
「いえ、金貨20枚でお願いします」
「わかりました。では早速職員に伝えて、依頼票を書き換えさせます」
「あ、それともうひとつ」
急いで応接室を出ようとしたバルザックを、呼び止めるマリーベル。
「なんでしょう?」
「依頼には、私とセバスチャンも同行します」
「え? 奥様も、ですか?」
バルザックはマリーベルとセバスチャンを交互に見ながら、困惑の表情を浮かべた。
「ご心配なら、うちの護衛もひとり同行させます」
「護衛というと、あの、元Aランク冒険者の?」
「はい。そのエリック・ビグザムントです」
「おお! それは素晴らしい! 『一刀両断』が同行するとなれば、応募者が出る可能性は跳ね上がります!」
「そうだといいのですけれど。できるだけ早く出発したいものです」
「ええ、もちろんです。では今からその旨、しかと告知してまいります!」
バルザックは喜び勇んだ様子で、ドアから出ていった。
「やや大盤振る舞いが過ぎるのでは?」
セバスチャンが微動だにしないまま、口を開いた。
「背に腹は代えられません。ゴーレムの噂が広がる前に、出発してしまわないと」
「悪い人ですね、マリーベルさま」
「あら、ごめんあそばせ。フフフ」
*
二日後、再びギルドマスターの部屋――。
「マスター、連れて参りました」
ドアの外から声がしたので、バルザックは入室を許可した。
ギルドの警備職員二名が、一人の青年を連れて入ってくると、青年を残してそのまま去っていった。
「まぁ座り給え」
バルザックが鷹揚に促すと、おどおどした様子の青年はソファに腰掛けた。
「もう少し待ってくれ。人を待っているんだ」
「……はい」
相変わらずおどおどした様子で頷く青年。
気まずい沈黙が続いた数分後、待ち人が到着した。
「どうも、お待ちしておりました。こちらが例の――」
「ごきげんようバルザックさん。早速いいかしら?」
「ええ、ええ。どうぞどうぞ」
バルザックは青年の向かい側のソファを勧め、自分も中央のソファに腰掛ける。
来客の付き人は、やはり斜め後ろに立っていた。
「初めまして……じゃなかったわね。あの時も確か見かけたわよね」
「は、はい! その節は大変申し訳ありませんでしたッ!」
青年は勢いよく立ち上がると、顔が膝にくっつくほど体を深く折って頭を下げた。
「どうぞ頭をお上げになって。仕方なかったのよね。あなたも仕事だったんですもの」
「は、はい。寛容なお言葉、心より感謝いたします」
青年は頭を上げたが直立不動のまま、じっとしている。
「いいから座りなさい。そのままでは話にくいだろう」
呆れたバルザックが座るように促すと、青年はおどおどしながら腰を下ろした。
「それでは、私の方からよろしいかしら?」
マリーベルがバルザックの方を見て許可を求める。
「ええ、どうぞお好きなだけ」
「ありがとうございます」
マリーベルは一礼すると、青年に向き直って話を始めた。
「まずあなたのお名前を聞かせてください」
「はい、ノックノックです」
「ノックノック……珍しい名前ね」
「はい、みんなに言われます」
「盗賊団に入ってどれくらいになるの?」
「もうすぐ1年です」
「どう? もう随分と慣れたのじゃない? 楽しい?」
「はい。あ、いや、あの、そうじゃなくて、えーっと……」
盗賊が楽しいのではないという意味のことを伝えたいのだが、緊張してうまく話せない。
「いいのよ。うまく溶け込めたのか聞きたいだけ」
「あ、そういう意味なら、はい。いろいろと万事順調です」
「そう。それであなたに聞きたいのは、ゴーレムのことなのだけれど……」
「ゴーレム、ですか?」
「あの時、森の方から現れたでしょ。あの大きな……」
「あ、血みどろ巨人ですね!」
「ちみ……? アハハハ、面白いわ。血みどろ巨人ですって。アハハハハ」
急に楽しそうに笑い出したマリーベル。
バルザックやノックノックは、それを見てやや引き気味になっていた。
「でもお頭はデカ丸って呼んでます」
「デカ丸? ホントに面白いわね。ものすごいセンスだわ」
マリーベルはよほどツボに入ったのか、くっくっくと時折含み笑いをしながら呟く。
「あの! デカ丸はゴーレムっていうんですか?」
「その前にこちらの質問に答えて。ゴーレムはどこにいるの?」
ノックノックの質問を棚上げして、マリーベルが質問を続ける。
「アジトにいます、普通に」
「持ち帰ったの? あんな大きなものを?」
「いえ、自分で歩いてついてきました」
「なんですって? 契約者は? 誰が動かしていたの?」
再びマリーベルのテンションが上がった。
今度はさきほどとは違い、真剣そのものだった。
「そんな人いません。デカ丸一人だけです」
「そんなバカなことがあるわけないわ。ゴーレムは人形よ。動かす人が必ず近くにいるはずだわ」
「でも……そんな人、見かけませんでした」
マリーベルは暫く考え込んでしまった。
そして残りの聴取はバルザックに任せると言い残すと、セバスチャンを伴ってさっさとギルドハウスを後にした。
*
帰りの馬車の中、考え込んでいたマリーベルがようやく口を開いた。
「……調べる必要があるわね」
「マリーベルさま、またいつもの性癖が――」
隣に座るセバスチャンがやんわりと諫める。
「でもセバスチャン。こんなのおかしいもの」
「確かに摩訶不思議ではあります」
「もしかしたら、フローレンス様の作られたゴーレムなのかもしれないわ。あの場所はお屋敷にもそう遠くない位置だったはずよ」
「それは事実ですが、結論は急がれない方がよろしいかと」
セバスチャンの言葉にも関わらず、マリーベルの頭の中では様々な可能性が渦を巻いて、どんどん大きくなっていくのだった。





